楽しい試験 2
◆
試験当日の朝。
寄宿舎の女兵士たちが、見送りのために庭まで出て来てくれた。
「私の子が連れていかれる~!」「もうこんなに大きくなって……」「私たちのこと忘れないでね!」「たまには顔を出せよ」
「あの……、今日も帰ってきますからね! そんな風にされると帰り辛くなるからやめてください!」
ルナは女兵士たちの悪ふざけに付き合ってから、迎えに来たイデルに合流した。
「お前らな。ルナちゃんは試験で緊張してるんだぞ! 少しは気を遣え!」
イデルが女兵士たちに怒鳴ると、女兵士たちがイデルにブーイングで返す。イデルは中指を立ててその返事とする。
「本当、下品な奴らだ。悪いな、ルナちゃん。試験当日までこんな調子とは……」
「いえ。おかげで緊張せずにいられましたから」
イデルとともに校門まで訪れると、アルフォンスが待っていて、女学生たちの視線を集めていた。
「来ましたね。おはよう、ルナ君。イデルもご苦労さま」
「はい。では、自分はこれで。ルナちゃん、頑張れよ!」
「はい。ありがとうございます!」
イデルが去ると、ルナは衛兵に魔術をかけてもらい、さっさと中に行こうとする。その背中にアルフォンスが呼びかける。
「ルナ君、無視はできませんよ」
ルナは嫌そうな顔をして、流し目でアルフォンスを見た。
「なんなんですか? 私は集中したいのですが」
「無視しようとしても無駄ですよ。私、今日は試験官として参加しますから」
「ええ⁉ なんでですか?」
アルフォンスが臨時教師として学園に勤めることは知っていたが、試験官になるとは聞いていない。
「私の教師としての初仕事です。あなたに構っていられなかったのは、試験の準備に忙しかったのもありますが……、試験官である私が、受験生に試験内容を教えるわけにいきません。勉強をお手伝いできなくて、申し訳ありませんでした」
「……気にしないでください。アル先生の言う通り、自分の実力を知る、良い機会ですから」
「では、試験会場でお会いしましょう。応援してますよ」
それだけ言うと、アルフォンスは軽快な足取りで行ってしまう。アドバイスすらなく、応援のためだけにルナを待っていたらしい。
(チャラい人のかと思ってたけど、結構、真面目な人なのかも……)
学園の塔にある鐘がなった。試験の受付が始まったのだ。
校舎の中の広い部屋の受付がある場所に向かうと、そこには制服を着た生徒ばかりがいた。ルナだけが一般の参加者なのだ。
(う……。めちゃくちゃ視線集めてる)
ルナが受付に近付くと、女性が顔を上げた。
「第三学位試験の受付です。一般の受験生の方で間違いありませんか?」
「はい」
「では、ここに名前と住所を」
ルナはルナ・ヴェルデの名を書く。受付はその名を見て不思議そうな顔をする。その後、札に何かの呪文を唱えると、それを差し出した。
「受験用の登録証と、その予備です。一枚は外から見える場所に必ず付けておいてください。付けずに魔術を使うか、二枚とも紛失すると失格です。それと試験では、試験官が開始の合図をし、終わりの合図をするまで会場から出てはいけません。それも失格となります。また、失格はその場で通達されますが、合格は翌日の発表になります。これはどの試験中でも変更されることはありませんので注意してください」
名前の書かれた札を二枚受け取る。
(わかり易い。奪われないようにしろってことね。わざわざ二枚もくれるなんて。けど、合格者の人数に上限はないはずだから、生徒同士での潰し合いは意味がない……。試験で使うのかな。とにかく大事に持っていよう)
名札を胸に付けると、もう一枚は服の隠しポケットにしまった。
女兵士たちから貰ったこの服は、丈夫で動き易く、様々な場所に隠しポケットがある。デザインは少し粗野で魔術師らしくは見えないが、実用性は高い。
学園の制服はゆったりとしたローブなので、その中で体のラインが見える服を着ているのはかなり場違いだが、ルナは集中するために頭からその考えを排除する。
受付の女性が時計を見て立ち上がった。
「はい。では、これで受付を……」
「ま、待って~!」
制服を着ていない女の子がルナの前を走り抜けて、受付に飛び込む。
「うけ、付、受付を……」
髪の長い女の子は制服を着ていない。地味だが仕立ての良いドレスが、彼女の育ちの良さを物語っている。
どうやら彼女も外部の受験者のようだとルナは思った。
「遅いですよ。今回は受け付けますが、次はありませんからね」
「は、はい。すみません」
女の子は顔を赤くし、息を切らせながら受付を済ますと、並んでいる生徒たちを見て、その中に制服を着ていないルナを見つけて、その隣に来た。
彼女は、走ってきたからか息を切らし、かなり顔色が悪い。
受付の女性が、大きなつばを持つとんがり帽子をかぶり、長い杖を手に取った。彼女はルナの想像する魔術師の典型のような格好となる。
「では、受付を終了します。私の名は魔導師セシリア。一次試験の担当官です。今回は一次試験と二次試験の二つの試験があります。えと、集まった受験生は……、六十二人ですね。全員が合格できることを祈ってます。ではまず、筆記試験を行いますので、私に付いて来て下さい」
受験生たちが揃って彼女に付いていく。ルナと最後に受付をした少女は、その最後尾についた。
少女の足取りがおぼつかないのは気になるが、今は試験に集中したかったので、声はかけないつもりだった。
「ねぇ、あなたも受験生なの?」
顔色の悪い少女が話しかけてくる。まだ少し息が荒いのに、暢気なものだ。目の下に隈があり、顔色が悪いのは、常習的なものだとルナは看た。
「そうです」
ルナは端的に答える。少し冷たい感じになってしまう。
「そっか、良かった……。私ひとりじゃなくて……」
どうやら、学生ではない受験者が自分ひとりでなくて安心したようだ、とルナは考えた。
「そうですね。けれど、慣れ合うつもりはありません。集中して、それぞれ全力を尽くしましょう」
遠回しに話しかけないでくれと言ったのだが、少女には通じない。
「うん。お互い、頑張ろうね! 私はオルシア。みんなはオリィって呼ぶわ。あなたは?」
ルナは少女の名札を見た。オルシア・イーブンソードと書かれている。
彼女は予備まで同じ場所に付けており、この名札の意図には気が付いていないようだ。言うべきか迷ったが、別に彼女を蹴落としたいわけではないので、良心に従うことにする。
「私はルナです。その名札……、一枚は失くさないように、しっかり仕舞っておいた方が良いですよ。両方失くしたら失格ということは、誰かに奪われる可能性もあるということです」
「え? 奪う?」
オルシアはルナの言っている意味がわからず、自分の名札を見る。
「わざわざ二枚配るのは、一枚は奪われても良いようにしているのだと思います。そして、二枚目を奪われたときに失格になる。試験は既に始まっているということですね」
ルナの言葉が聞こえた他の何人かの受験生たちも、慌てて一枚は隠し始める。オルシアも服の中に隠した。
「あ、ありがとう、ルナちゃん! そういう意味だったん……だ……」
突然、オルシアが白目を剥く。体の力が抜け、頭から倒れ込む。
ルナはなんとか彼女の体を支えようとしたが、ルナの力では支えきれず一緒に倒れてしまった。頭だけは打ち付けないように、腕で保護した。
受験生たちがざわつき、それに気が付いたセシリアが引き返してきた。
「何があったのですか」
ルナはその問いには応えず、オルシアの体勢を整えた。その口元に手をやり、息をしていないのを確認し、心臓の辺りに耳を付けて心音を確認する。
(呼吸なし。心音微弱……、心停止する)
ルナはオルシアの体に魔力を流し込む。そして、治癒魔術を発動する。無詠唱は、効果は薄いが即時発動する。そして、隠匿性能も高い。
(こういうことされては、試験が中止される。悪いけど、それは嫌だから。とにかく、今は元気になってもらう)
止まってしまった心臓と肺を、強制的に動かす。魔術により肉体の強度を増し、傷や血栓があればそれを除去する。肺に血の塊がある。再生能力を高めることで、肉体に浸透させて排出を促す。
オルシアに息が戻った。意識も取り戻し、目を開ける。
「あれ、私……」
「突然、倒れたんですよ。貧血ですか?」
ルナは誤魔化しながら、彼女の体を引っ張って起こした。オルシアの顔色は良くなっている。セシリアも彼女が立ち上がるのを手伝い、話しかける。
「もし、気分が悪いのであれば、受験は休まれた方が良いですよ。万全の状態でないなら……」
「い、いえ、大丈夫です! もう元気になりましたから!」
「そうですか。もし、棄権するなら早めに言ってくださいね」
オルシアが元気そうなのを見て、セシリアはあまり心配しなかったようだ。走ってきたので貧血にでもなったと思ったのだ。
それにその程度で倒れるようであれば、試験に着いてはいけない。魔術士は決して、体力がなくてもできるようなものではない。
オルシアが恥ずかしそうにルナを見た。
「ご、ごめんね。なんかいきなり倒れちゃったみたいで……」
「それは構いませんが……。もし、持病があるなら、試験は諦めた方が良いのでは。死にますよ」
最後は小声で言った。オルシアはやさしく微笑むと、首を横に振った。
「ありがとう。でも、大丈夫。それにさっきよりずっと気分が良くなったの。どうしてだろう……。でも、これはチャンスね。頑張ってみるよ!」
「そう……ですか」
ルナはそれ以上何も言わなかった。
完全には彼女の体を治せたわけでも、調べられたわけではない。肺に血が溜まるような状態だったのであれば、先は長くないだろう。それでも受験したいのであれば止めるようなことはルナにはできなかった。
セシリアが入った教室には、多くの机が並べられている。
その机の上には、紙が一枚、文鎮とともに置いてあり、インクとペンも用意されていた。さらにいつの間に用意したのか、ネームプレートが置かれており、受験生にそれぞれ席が割り当てられている。
ただし、椅子はない。なぜか教室の一番後ろに並べられている。
さらに十数人の試験官と思われる者が周囲に立っており、ただの筆記試験にしては厳重な監視体制だ。
少し受験生たちがざわつく。思っていた試験内容の様子が違う。
「では、皆さん、後ろの席についてください。奥の席ならどの席でも構いません。ただし、一度座ったら、席替えはできませんので注意してください。どんな理由であろうとも、席を立ったら失格です」
カンニングを防ぐために席を立ったら失格はわかるが、机から離れた位置に座らせられるのは妙である。ここに座ってしまったら、身動きできなくなる。
席は充分にあったので、取り合う必要はないが、学生たちは前が良く見える場所を確保しようと、さっさと席につく。
ルナは急がず、空いている静かな後ろの席を選んだ。
「こ、ここ、いいかな?」
オルシアが遠慮がちに訊ねてくる。
「ご自由に」
「ありがとう」
全員が席についたのを確認すると、セシリアが声を上げた。
「はい。では、試験内容を説明します。一度しか言いません」
セシリアが教室の正面の黒板に書いてある文字を指差す。
„Ertrage, ertrage, ertrage!
Schaffe das Gleichgewicht.
Stelle dich auf die Waage, ruhig, und sei.
Sei: das heißt nicht: sei dies oder jenes.
So wie der Pfeil ist: er ist und fliegt.
Sei wie der Pfeil, der sich nicht fragt, wohin.“
何かの詩の一文のようである。残念ながらルナには意味がわからなかった。
「至って単純です。黒板に書いてある文字を、自分の机の上にある紙に書き写してください。例え故意でなくても、他の人の紙を破く、あるいは落とす。他の人を攻撃しても失格です。時間は三十分。では、始め」
セシリアはおもむろに大きな砂時計を返し、黒板近くの席に座ってしまう。質問は一切受け付けないようだ。
「え? え?」
オルシアは困惑し、何をして良いのかわかっていない。完全な不意打ちだ。
学生のひとりが声を上げる。
「ちょっと待ってくれ! こんな試験だなんて聞いてない! 勉強したことは何だったんだ⁉」
席こそ立たなかったが、今にも飛びかかりそうな勢いだ。席を立っても失格だという言葉を忘れるほど愚かではなかった。
筆記試験では知識量が試されるはずである。これでは実技の試験と変わりはない。
だが、セシリアはどこ吹く風で、答えようとしない。そうしている間にも、砂時計の砂は落ちていく。
「そっか。筆記試験とは名ばかりで、実技を試されるんだね」
ルナが言うと、オルシアが同意する。
「そうだね。……席を立たなければ良いんだよね? 座ったまま移動すればいい……」
オルシアは独り言のように言うと、呪文を唱える。
「えと……、空を掴め。我が身を持ち上げよ。隠された翼にて、たおやかに飛ばん。我は風を呼ぶ者なり」
オルシアの体が椅子ごと浮き上がる。精密な動作で天井にぶつからないように、ゆっくりと上昇し、自分の席までフワフワと移動して、またゆっくりと床に降りる。
彼女は席まで辿り着くと、ペンで紙に文字を書き写し始めた。
(すごい。風の魔術、完全に制御されている。他の紙を吹き飛ばすことなく着地するなんて……)
ルナは感心する。気も体も弱いお嬢さまだと思っていたのに、実力を見せつけられた。
他の受験生たちも、彼女の魔術を見て、椅子を浮かそうとするが、突風で紙を破いたり、隣の人を吹き飛ばしたりして、次々に失格になっていく。
机が倒れたりすると、すぐに周囲の試験官が魔術でそれを整え、他の受験者に影響がないようにする。そのために人数が多く用意されていたのだ。
一番後ろの席で見ていたルナは巻き込まれなかったが、他人の魔術に巻き込まれて席を離れた者も失格になる。防御もしなければならないようだ。
失格になった者は、その場で試験官に退室させられた。
(精密な動作。不測の事態への対応。選択する魔術。そう言ったものを見るわけね。多分、あの紙に書き写すの、そこまで重要じゃない。これは……、ラッキー! 正直、筆記テストは自信なかったけど、これなら簡単!)
教室や備品を破壊するなとは言われていない。ルナは魔術を展開し、周囲の物で操れるものを探す。
幸いにも紙は植物性繊維でできており、それの置いてある机も木製である。石材の壁や床も操れるが、精密な動作には向かない。
「スピリトゥス・ウィータエ・ソピタエ、レナスケ・エト・フィアム・ファミリア・メア」
眠れる命の息吹よ 再び芽吹きて我が眷属と成れ。
ルナが唱えると、机の木材が反応した。
一対の芽が葉へと変わり、幹が生え、根が足に変わると、枝でペンを持とうとする。
そのペンはガラスペンで、アルフォンスが買い与えてくれた物と同じものだった。ここ一週間、ずっと手に持っていた物だ。質感も重さも、ルナは覚えている。
(そういうことね。アル先生、出来る限りのことはしてくれてるんだ)
樹木を操って精密な動作をするのは難しかった。ペンが別のものだったら、字を書くこともできなかったかもしれない。
人型となった樹木がペンを持つ。
それに驚いたのは生徒たちではなく、試験官の方だ。それが何かの魔術の暴走でできた魔物とでも思ったらしく、攻撃的な魔術で止めようとしてくる。
無数の巨大なハサミが出現し、空中を駆け、ルナの人樹のその枝を切り落とした。
(は? 完全に妨害じゃない。失格条件に、教師への攻撃は含まれてなかったよね)
ルナはハサミの軌道に枝を伸ばし、その動きを止めると樹皮の中に飲み込んでしまう。そして、それを飛ばした中年男の試験官の木綿の服に、再び生命を芽吹かせる。
「うわっ⁉ なんだぁ⁉」
突然、自分の服から葉が生え始め、全身を植物に覆われた試験官は、慌ててそれを振り払おうとするが、無駄なことだ。次から次へと伸びてくる枝葉に、視界を塞がれ、転げまわるしかない。
他の試験官が何とか助けようとするが、どうして良いのかわからないようだ。
その様子を見ていた責任者のセシリアは、口をあんぐりと開けてその様子を見た。
突然現れた、木の魔物トレントに、植物まみれになる同僚。試験を中止にするべきかと思ったが、その異変はすぐに治まった。
試験官の方に気を取られているうちに、ルナは三十秒程度で書き写しを終え、机を元に戻し、試験官の服も元に戻す。それを見て、今の異変が魔術であるとセシリアは気が付く。
「し、失格だ! 俺を攻撃したやつは失格! すぐにここから出て行け!」
逆上した男試験官が叫ぶ。だが、セシリアは冷静だった。
「位置に戻ってください、オリエンス魔導師。あなたが試験を妨害してどうするのですか。それとも退室させられたいのですか?」
若く見えるセシリアであったが、その言葉に中年男は黙り込んだ。何かを反論しようとするが、言葉が出てこないようで、顔を赤くして歯噛みしている。
(植物が生えたのは……、ルナ・ヴェルデの机。あの子が……?)
オリエンスが位置に戻るのを見て、セシリアは冷静に状況を判断する。もし、彼がこれ以上妨害行為を行うならば、気絶させでも追い出すつもりだったが、あとは大人しくしていた。
そんな騒ぎで他の受験者も動きを止めていたが、砂時計は刻一刻と落ちている。試験官よりも早く動揺を取り消すと、再びテストに戻った。
その騒ぎの中、自分の机に着いていたオルシアは、気にせずに書き写しを行っている。
ガラスペンを使い慣れていないのか、遅いペースで書き進めているが、確実に正確に進めていた。
(集中力もあるみたい)
ルナはそんな彼女を好意的に見守った。
ルナは書き終わったが、試験中は他の生徒に紙を破られたりする可能性がある。しっかりと枝葉で机を保護し、他の生徒の魔術に巻き込まれないようにする。
机ひとつだけ葉が生い茂っているのは異様に見えるが、ルナは気にしなかった。
「はい。そこまで。一次試験終了です」
セシリアが立ち上がり、受験者らに宣言する。砂時計の砂は完全に落ち切っていた。
ルナは机を元の形に戻し、何事もなかったかのような状態にする。
他の生徒たちも、騒ぎの後は冷静さを取り戻したのか、最初の混乱で脱落した者以外は、皆、書き写しを終わらせていた。
何も机に飛んで行ったり、植物を生やしたりする必要はない。ペンを遠隔で操ったり、インクを直接操っても良いのだ。受験者たちは思い思いの自分の得意とする方法で、試験を終わらせた。
セシリアはそれぞれの机を見て回り、書いてある内容を確認する。ほとんどの者が書き終わっている。中には終わっていない者や、書いてあることが判別不明な者もいた。そういった者も失格となり、退室させられる。
「よし。ここに残った方は、全員合格です。おめでとう! いやぁ、一時はどうなるかと思いましたけど、無事終わって良かった」
セシリアはオリエンス試験官を見ながら言った。彼は苦虫を噛み潰したような表情をして、ルナを睨んでいる。
「ええと……。では、次の試験は……」
セシリアが言いかけたとき、会場の扉が開けられ、アルフォンスが入ってきた。
「セシリアさん。ここからは、僕が」
「はい。わかりました」
アルフォンスは進行役を引き継ぐ。
「初めまして、皆さん。僕はクライン・A・フォルスターと申します。第二試験の担当試験官となります。どうぞ、お見知りおきを」
「フォルスター……?」「嘘。七魔剣?」「すげえ、七魔剣が試験官。ヴァヴェルに来て良かった……」「あ、あの人がフォルスターさまだったなんて……」
口々に生徒たちがざわつく。ルナはアルフォンスが有名人であることは知っていたが、その動揺っぷりに驚いた。
隣の開いている席に戻ってきていたオルシアが、ルナに小声で訊ねた。
「ルナちゃん、あの人知ってる? 有名人なの?」
「ええ、まぁ……。なんか、すごい魔術士らしいですよ。私もここまで有名人だとは知りませんでしたけど」
「七魔剣って何なの?」
「さぁ……」
ルナは自分だけが知らないわけではなくて少し安心した。
そう言えばすっかり七魔剣のことを訊くのを忘れていた。学生の反応から、かなり上位の称号だとは想像がつくところだが、ルナの読んだ本には書かれていなかった。
アルフォンスが合格者名簿を見てから、受験生たちを見渡した。彼はルナと目が合うと、ウィンクして見せる。他の受験者が皆振り返るので、ルナは顔を伏せた。
「五十二人、結構残りましたね。優秀、優秀。では、移動……、あっと、その前に」
アルフォンスは黒板に書かれた文字を指し示す。
「耐えて、耐えて、耐え抜け!
調和をそこに作り出せ。
天秤の上に、静かに立ち、そして存在せよ。
存在……、それは、何かであれという意味ではない。
矢のように……、それは在り、そして飛ぶ。
矢のように在れ、行き先を問わぬものとして。
……ご存じの通り、魔術師リルケーが著した有名な魔導書の一文です。解釈はそれぞれに任せますが、皆さんにも、このように在ってもらいたいものです。それでは、試験会場に移動しましょう」
ルナはご存じではなかったが、その一文は覚えておくことにした。




