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先遣調査隊

 ◆


  学園内に新しく出現した『ヴェルデのアトリエ』。

  その先遣調査隊が顔を合わせたのは、出発の直前だった。

  一級冒険隊『蒼光の短刀(ラピスナイフ)』の隊長であるアダリスは、冒険者らしからぬ整った顔立ちをしているが、この道十年以上のベテランだ。部隊もたった四人だが、実力は折り紙である。

  アダリスはまだ幼さを残す魔術士見習いたちを見て、眉を上げた。


(まだ子どもじゃないか……。子守りは嫌だなぁ)


「女ばかり、しかもまだガキじゃねぇか。子守りはごめんだぜ!」


  もうひとつの冒険隊の隊員である髭面の大男が叫ぶ。ヴィクトルという男だ。やたら声が大きいので、朝から勘弁してもらいたいとアダリスは思っていた。


(うわぁ、最悪。あいつと同じこと思っちゃったよ。考えを改めよう……)


  ひとりの女生徒(五人の学生の中では一番幼そうに見える)が、隊員の数を数えている。


「ええと、五人の部隊の方が二級(・・)冒険隊で、四人の方が一級冒険隊のラピスナイフの方ですね。わぁ、ラピスナイフさんの()は若くてかっこいい方たちばかりじゃないですか! よろしくお願いしますね!」


  当て馬に引き出され、アダリスは肩を落とす。キツい性格の女子だ。

  ヴィクトルは何を言われたかしばらく考えていたが、皮肉を言われたことを理解すると、顔を真っ赤にして喚く。


「ふざけんじゃねぇぞ! こんなナヨナヨしたヤツらと比べんじゃ……ゲォ!」


  失言を引き出そうとする少女の話に乗らされるヴィクトルは、その腹に強烈な蹴りを食らって吹き飛び、警戒線の繭に埋もれる。少女は痛々しく思ったのか顔をしかめた。


「悪いな。うちの隊員が敬意を欠いた。けどな、嬢ちゃん。こっちも命懸けでやってる仕事だ。少しは敬意払ってくれや」


  蹴りを入れた男は、ヴィクトルの隊の長のようである。

 

「すみませんすみません! うちのルナがバカなことを……」


  ミニティがルナの頭を押さえ、平身低頭謝るので、ルナも不祥ながらも謝った。


「スミマセンでした……」


「はっ! 元気な嬢ちゃんだ。俺の名前はネストレン。黒曜戦団オブシディア・バンドの隊長をやっている。よろしく頼む」


 ネストレンは屈強そうな壮年の男である。鎧を着込みマントを羽織った姿は、まさに戦士である。


「いやぁ、よかったよかった。仲良くやれそうで、僕は蒼光石の短刀(ラピスナイフ)の隊長のアダリスだよ。君がルナ・ヴェルデだね。色々と噂は聞いてるよ、よろしくよろしく」


ウワサ……」


 ルナは黙る。学園だけじゃなく、街にもルナの悪評(・・)が広がっているのだろうか。

  魔術協会の魔術士が進み出て、優雅に挨拶してみせる。


「ボクはレイニー。よろしく、後輩たち!」


  彼女は印象深い服装の魔術士だった。

  羽織っているロングコートの下は、ほとんど何も着ていない。胸と股間、隠す部分は隠しているが、それ以外は何も身につけていないのだ。頑丈そうなロングブーツだけが、身体を守れるものに見える。

  コートを脱げば下着姿のほとんど変態だ。美人であることが、何とかその格好を成り立たせている。


「よ、よろしくお願いします……」


  ルナたちが顔を引きつらせていると、後ろから別の魔術士がやってくる。こちらは知った顔だ。

  学園の魔導師クロムレフである。若い魔導師で清潔感のある見た目の彼は、女生徒から人気の教師である。


「相変わらずの格好だな、レイニー。もう肌寒い季節なのに」


「クロムレフ! 君は相変わらず真面目そうだね」


 ミニティが挨拶し合う二人を見て、不思議に思った。魔術士という以外、特に接点がなさそうな二人だが、割りと良好そうな関係である。


「お二人はお知り合いなんですか?」


「学生時代の同期だよ。腐れ縁ってやつだね……」


 クロムレフが諦めたように言うが、レイニーは笑っている。

 クロムレフは今回のルナたちの引率である。古代魔術の研究している彼は、今回の調査隊への参加に進んで名乗り出た。ライジュ魔導師と同様、魔道具のコレクターだが、ライジュとは違い、純粋な研究対象として収集している。新たなアトリエには新たな魔道具が眠っている。彼の狙いはそれだ。

 レイニーは魔術協会の依頼でこの調査隊に参加することになったようだ。彼女は感知魔術の専門家で、未知の空洞やアトリエの調査に駆り出されては、その内部の地図を作ることを仕事としている。今回の先遣調査隊のカナメと言える。

 ひと通りの自己紹介が終わると、役割の確認をする。蒼光の短刀のアダリスが進行を務める。


「全員集まったようなので、改めて役割分担を伝えておくよ。

 まず、僕ら蒼光の短刀ラピスナイフが、調査の続行・撤退を決める責任者だ。みんなに何かあったら、僕らの責任になっちゃうから、安全第一に行動してね」


 目を覚ましたヴィクトルが「冒険者に安全も何もあるか」と小声で言うが、ネストレンに睨まれて冷や汗を流しながら黙った。


黒曜戦団オブシディア・バンドの皆さんには、僕らの背後を守ってもらうよ。魔術士さんたちの護衛が主な役割だね。

 勝てそうにない強力な魔物が出た場合、蒼光の短刀が足止めしている間に、黒曜戦団の先導で撤退してもらう。また、僕、アダリスが死んだ、または指示ができない状態になった場合、ネストレン隊長の指揮に従うように」


 魔術士諸君のルナへの視線が強い。別に今役割を聞いたわけではないのだが、命を預ける人たちに下手なことを言うなという圧力だ。ルナは肩身を狭くする。


「それで今回のカナメであるレイニー一級魔術士なんだけど、この人を中心に隊列を組む。レイニーの指示に従って道を進むことになるけど、決定権は僕にある。それは忘れないで欲しい。

 それとクロムレフ魔導師は、このアトリエから出る方法を知る人物でもある。もし、彼が死んだら、定時まで撤退はできないと思ってくれ。

 確実に彼ら二人の魔術士を守るように。

 学生諸君には基本的に何かしてもらうつもりはないよ。だから、荷物持ちだと思ってほしいかな。戦闘の援護も必要ない。むしろ、邪魔されて危険な状況にオチイる方が心配だからね。蒼光の短刀も黒曜戦団も、魔術の援護がなくても戦える実力はあるからね。

 僕らが先導し、その後ろにレイニー、魔導師と学生たち、黒曜戦団の順だね。

 とにかく自分の安全第一。生き延びて、情報を持ち帰ることに集中してほしい。そして、今回の経験が未来に活きることを期待するよ」


 ルナは少し不満に思うが、ルナは治癒魔術師として参加しろと言われている。冒険者である戦士たちが、どれほどの実力なのか見ておくことも、ひとつの勉強だと考えることにした。


「じゃあ、これから突入するけど。決して単独行動はしないように。何か問題がある人は、今のうちに言っておいてね」


 アダリスが皆を見渡すと、ルナが手を上げた。


「はい、ルナ! 何かな」


「もしアトリエ内で、オリエンス魔導師を見つけたらどうしますか」


「オリエンス魔導師? ああ、彼は死んだんじゃなかったっけ?」


「死亡を確認したわけではないです。生きている可能性もありますし、彷徨サマヨってる可能性も……」


「ああ。ゾンビになってる可能性もあるか。そうだね。死体は回収する方向かな。もし、生きていても追いかけることはしない。邪魔してくるようなら容赦もしない。そういう方針で行くよ。構わないかな、魔術士の方々」


 アダリスがレイニーとクロムレフへ確認すると、二人の魔術士は頷いた。

 オリエンスは今回の調査には直接の関係はないが、多数の情報も持っている可能性もある人物だ。ルナとしては話を聞きたいところだが、アダリスはあくまでもアトリエの調査だと割り切り、捕り物をするつもりはないということである。


「じゃあ、他には? ない? じゃあ、入ろうか。オド学園長、お願いします」


 黙って図書室の隅で待機していたオドが、アルフォンスの張った繭のような警戒線に近付く。警戒線は以前とは違い、完全に入口を覆っており、入り方を知らなければ侵入できないようになっている。

 オドの魔術が繭をほどけていく。中には何もないように見えるが、そこにクロムレフが近付き呪文を唱えると、空間に亀裂が入った。


「何の報せがなくても、外からこの出入り口を開けるのは、三時間ごとだ。隊からはぐれたら、入口まで戻って待機しな。入口の近くにはあたしのゴーレムがいるから、守ってくれるはずだよ」


 オドは主に学生たちに向けて言う。学生たちの成長のためとはいえ、危険を冒すことには変わりはない。


「いってらっしゃい」


「行ってきます!」


 ヴェルデのアトリエ先遣調査隊は、行動を開始した。


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