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第二試験・後

 ◆


「私が最初か……」


 受験番号があっても番号順に試験を受けるわけではない。いつ自分の番が来るのかわからない。


「がんばってくださいまし、ルナ!」


「ルナちゃん! ファイトだよ!」


 オルシアとリリアナに軽く手を上げて射場に向かう。途中、ライムンドにかなり睨まれた気がするが、ルナは小さく舌を出して応えただけだった。

 射場に入る。少しの緊張が背中の筋肉を震わせた。

 ルナは破壊する魔術は得意ではない。ここ数週間、演習室で試験と同様の内容で訓練してきた。仲間たちと相談し、どうするべきか話し合ってきた。

 ロバルトは攻撃魔術で的を破壊する方が、試験内容には沿っていると言い、リリアナは自分の得意な分野で勝負する方が良いと言った。

 確かににわか仕込みの攻撃魔術では高得点は狙えないし、得意な防御魔術でもこの投射試験には合わない。回復魔術も、罠魔術も、受け身の魔術だ。

 悩んでいる中、近頃の授業で、ルナは自分自身が得意だと思っていなかったことが判明していた。

 それは使い魔召喚である。

 便宜上、召喚と銘打っているが、要は自身の魔力を使って生命を模倣した物体を作り出す魔術である。ルナにとっては植物を作り出すことは当たり前すぎて、それがどんな魔術なのか理解していなかった。

 首にかけている祖母の鍵を服の中に感じ、両手をその上に置く。すると緊張がほぐれ、辺りの音が聞こえなくなった。

 呪文は心の中でだけ唱える。不特定多数の人がいる場で、別世界の呪文を唱えるのは危険だと思い、唱えることは止めておく。


(さあ、やって。私の子どもたち!)


 ロバルトは事件後、ルナに張り合おうとする気概が削がれたようで、自分だけが一番になろうとするよりは、献身的な動きが目立っていた。そうなるとルナも少しやる気が削がれてしまう。

 だが、ライムンドがド派手に気を吐いてくれたおかげで、削がれたものが盛り上がってくれた。


(確かに今回の試験は諦めるしかないかもしれないけど、それでも全力でやって見せる!)


 ルナの背後の地面が割れ、巨大な樹が天井に向かって幹を伸ばしていく。枝が左右に広がると、幹に負けないような大きな花弁が開き、それが落ちると巨大な果実が実った。

 丸い四つの実はそれぞれ色が違い、それが熟れてさらに膨らみ、炎が灯って燃え落ちる。

 実の中から現れたのは、種ではなく獣である。

 狼、鷹、虎、熊。

 強そうな動物の形を作り出す。

 動物それぞれの四つの属性の攻撃が、四つの的を破壊する。ほぼ同時だが、順番は違えない。

 最後の的は自分で撃ち抜く。

 派手な破壊ができないのならば、派手に作り出すしかない。

 ルナの指が向けられた五番の的には、始めは何の変化もなかったが、魔術が目に見える状態で現れてくる。

 的は徐々に巨大化し、ひとつの形を象っていく。難しい形ではない。銅像が置いてあるような台座だ。天板が四つ。そこに作り出した使い魔たちが飛び乗り、天を仰ぐようなポーズを決めて見せる。そして、形が決まるとそのまま動かなくなり、石となって台座に居座った。

 なかなかの石像のデザインにできた気がする。


「終わりでいいですか」


 試験官が宣言してくれないので、ルナは自分で言う。


「……あ、はい! 終わりです。えと、次の受験者は八番の射場へ……」


 ルナはひと息ついて魔術を解くと、背後の樹は消えた。しかし、石像の方はそのままだ。試験官は片付けに時間がかかると感じ、別の射場に場所を移す。その間に別の魔導師が場所を整えるというわけだ。

 オルシアたちの元に戻ると、まだライムンドたちは近くにいる。


「はー、緊張した。どうだった?」


「なんだよ、あれ。あんなの訓練じゃ一度も見せなかったじゃないか」


 ロバルトが目を細めて言う。


「即興だよ、即興。練習でやったのより、印象的だったと思うんだけど」


「とても良かったですわ! わたくしが屋敷を持つときは、ルナにデザインをお願いしようかしら」


「石にしちゃった使い魔さん、かわいそう……」


 三者三様の感想に、ルナは笑う。

 ライムンドがルナの背後に立つ。大きな体は立っただけで威圧的だ。


「なに。まだやるの?」


「あれはどうやった。どうやって四つの魔術を同時に使った」


「どうって。ただ使い魔にそれぞれ属性を持たせておいただけだから、正確に言えばひとつの魔術しか使って……」


「違う」


「違うって……。本人が言ってるのに」


「樹を出現させ、使い魔を召喚し、それに魔術を使わせつつ、自分の魔術も準備していた。普通の人間では三つまでが限界のはずだ」


「三つまで?」


 ルナは少し考えるが、やっぱりそんなに魔術を使った覚えはない。


「何か勘違いしてるんじゃない?」


「そんなわけが……」


「あー、他の受験者見たいから、からまないでよ」


「……」


 ルナは心からそう言ったが、ライムンドは秘密をわざわざ話すことはないかと大人しく引き下がった。


 ◆


 アルフォンスはルナの投射試験を眺めて、自分の口元を拳で撫でた。


(一度に使い魔を四体、いや五体か。使い魔から使い魔を作り出すとは……。いったいどれだけの魔力を浪費したことか。だが……)


 ディンセルが勝ち誇った声で、アルフォンスに語りかける。


「なかなか器用なことですなぁ。ですが、破壊力も規模も我が校のライムンドには及ばぬところ。残念でしたな」


「破壊力も規模も、採点には含まれませんよ」


 二人のやり取りをよそに、ヴィテウスは黙ってルナを眺めている。


「何か気になることでもおありですか」


 アルフォンスがディンセルから逃れたい一心で、ヴィテウスに話を聞こうとする。


「どこで見つけたのですか。あのような魔術士を」


「孤児ですよ。焼け出され、魔術士になることを目指して、この街に来たのです。治癒魔術を使用したところを捕えまして、庇護下において弟子としました」


「治癒魔術⁉ あの若さですか。なるほど……。では、この投射試験は苦手分野ということですな」


 治癒魔術師の中には、治癒魔術以外の魔術を使えない者さえいる。治癒魔術は投射できない。遠距離攻撃には別の技術を必要とする。

 ディンセルが勝ち誇るのは、ルナの行った魔術が、現代魔術では評価されづらいところにあるからだ。

 土の魔術士は、どの国どの時代でも、かなり重宝されている。だがそれは魔術士としてではなく、建築士や石工としての評価なのである。

 ルナが試験で行ったことは、魔術としては評価が分かれるところなのだ。


「うおおお! ライラ! がんばれぇ‼」


 話をぶった切り、ヴィテウスが突然叫ぶので、観覧席にいた他の客たちも彼を見る。射場にはリリアナが近付き、ヴィセウスに手を振っていた。

 彼女は射場に入ると、支配の魔術でより効率的に、少し華やかに、素早く終わらせる。評価点を理解し、ほぼ完璧な魔術を披露する。

 支配の魔術は非常に効率的な魔術だ。自分の魔力で周囲の物を押す(・・)。それだけの術である。

 大量の魔力を消費して、土や雷を作り出すのを省き、周囲にあるものを利用して、魔術を完成させる。魔力を魔力のまま相手に届けるには媒介が必要で、相手に触れるか、何かの物質を通して送る必要がある。リリアナの場合は扇子で起こした風を触媒にする。

 リリアナは自分の魔術を新しいものと言っているが、実際は本来の意味での魔術、現代魔術の始祖的魔術である。それを昨今の進化した現代魔術と遜色ないレベルで使用できるというのが、ある意味では新しいとも言える。

 評価が高いのは、その実用性が既に証明されているからであることが大きい。


「まあ、こんなものかしら」


「さすが我が娘だ! リルケーの名に恥じぬ!」


 ヴィテウスがまた叫び、感涙の表情を浮かべている。アルフォンスは少し彼から距離を置く。しかし、その気持ちもわからないこともない。


(子の成長を見るのは、楽しいものなのだな)


 リリアナたちは別に正式な弟子ではないが、この一か月間、毎日のように顔を合わせ、日々の成長を見てきた。今まで人に何かを教えるなどしたことなかったアルフォンスにとって、それは奇妙な感覚である。

 オルシアが射場に入り、風の魔術を披露する。

 彼女の魔術の評価は既に完成されており、あとは少しばかりの遊び心でもあれば良いだけであった。その繊細な攻防一体の魔術は、投射試験に合致している。


「どうだったかな?」


「よかったよ、オルシア。次はオレの番だな」


 ロバルトが射場に入ると、少しの緊張が観覧席に走る。ある意味で、今回の一番の注目株だ。

 事件後、彼はかなりの落ち着きを身に着けた。人に見られるということは、自分の弱みを握られることに繋がると学んだようである。目立つ行動は避け、黙々と自分の技術の向上に打ち込んでいた。

 ロバルトの体が青く発光を始める。

 体内に魔術を溜めることは危険であり、禁止されているわけではないが、始めにやるなと教わることだ。事象化した魔術は、自身の肉体を破壊する。だから、作り出した瞬間から放出して消費する。

 だが、ロバルトはコツを掴んだようである。自身の肉体が崩壊するギリギリまで溜めて放つことを覚えたのだ。それは高位の魔術士が行う技術だった。

 ロバルトの放った雷撃が空中に拡散する。彼が短杖ワンドを音楽を奏でるように振るうと、順に的を射貫いていく。

 雷の魔術は派手だ。光と音により、周囲の目を惹く。戦場においては破壊力以上に効果がある。事前試験では不得意な別の魔術で器用さをアピールしていたが、それよりも自分の得意を活かした方が確実である。


「頼むぜ、相棒」


「期待はするな!」


 ロバルトと交代するように、ディルタが射場に呼ばれた。

 アルフォンスにとって彼が一番の謎である。確実に才能ある魔術士であるが、それを隠すことに重きを置いている。

 ロバルトの実家の近所に家を持つ、小さな魔道具商の息子である。大商人の息子であるロバルトに遠慮しているのかと思っていたが、それ以上に何か別の問題を抱えているようである。

 ディルタは水と火の魔術によって、氷を作り出す。冷気が空間に広がる。的を矢となって撃ち、氷で包み、押し退け、圧し潰す。事象化は完璧である。派手さはないが、及第点の出来である。

 ほとんどの生徒が試験を終え、最後の一組となった。


 ◆


 レオはオルシアと同じく浮遊杖ドローンワンドを使うようだが、少し毛色が違った。

 それは制服に隠されていた、葉っぱ型の柄のない小さな刃の杖だ。

 無数に浮かして魚群のように空を駆け巡らす。その数はどんどんと増えていき、天井を覆い隠すほどになると、雨のように的に降らす。的は切り刻まれ、削り取られ、破片となって転がった。


「あれ、良いの? 魔道具使って……」


「魔術で杖に似た形を作り出したのですから、問題ないですわ。ただ杖をぶつけただけでは得点にはならないでしょうけれど」


 ルナにとってこうして人の魔術を眺める機会は貴重であったため、リリアナにずっと質問しっぱなしである。本で読むのと実際に見るのでは、雲泥の差だ。

 アニエッラが水塊を空中に作り出した。そこから一筋の細流が伸びると、的を穿ウガつ。水の中に小さな土の魔術を混ぜ、破壊力を増している。

 最後には水塊自体を的にぶつけ、周囲が水浸しになる。観覧席まで水が飛び散るが、アニエッラはそれも計算済みだったらしく、目の前で止めて見せた。


「やっぱりインフェルナ校では攻撃魔術を主体で教えるんだな」


 ロバルトが言うと、レオが応える。


「そうなんですよ……。だから毎日、生傷が絶えません……。命の危険を感じます……」


「レオは何でも大げさなんです! 貴重な魔術士を傷付ける学校があるとは思えませんわ」


「お嬢さまは……、良かったですねぇ、ヴァヴェル学園で……」


 最後の一組にアン・レデクシアがいた。ヴァヴェル学園の事前試験では、一位だった生徒だ。


(あれ? そういえば、メインスとかいう二学位の子。全然目立ってなかったな)


 メインスの姿はあるが、彼が射場に入ったところは見逃してしまったようだ。ルナは少し残念に思う。事前試験でも見逃していたから、飛び級に挑む生徒の魔術がどんなものか、この場で確かめておきたかった。

 アンは依然と同様に、光の玉を作り出す。

 火・雷・風を混ぜ合わせる高等魔術。エネルギーの塊であるそれは、的を跡形もなく消滅させる。無駄な破壊はなく、以前よりも精度も持続時間も増している。


「……何という……」


 ライムンドが絶句して言う。

 破壊力であれば同年代の誰よりも優れていると自負していた。だが、アンの魔術は破壊(・・)を超えている。


「アン・レデクシアといったな。何者なのだ。貴族なのか」


 ルナに聞いてくるが、ルナだって知らない。代わりにリリアナが答えてくれる。


「平民出だと聞いておりますわよ。レデクシア村の出だとか……、詳しくは知りませんが。でも、ルナと同じ特待生ですから、将来を嘱望ショクボウされていることは間違いありませんわね」


「むう……」


 別の学校の魔術を見るのは、良い勉強になる。ライムンドもようやく悟ったようだ。

 インフェルナ校は攻撃魔術を主体とするが、ヴァヴェル学園は創意工夫こそ至上と考えている。その違いがお互いの刺激となる。


 ◆


 全ての受験者の試験が終わり、筆記である第一試験と結果とともに、得点が発表される。

 オリエンス魔導師がその前に言う。


「得点を発表する前に、第一試験と第二試験を合わせても、六十点に満たない者は、合格の可能性なしとして脱落とする。第三試験は受験できなくなる」


 ヴァヴェル校の生徒たちが「エー⁉」と不満の声を漏らす。


「うるさい、黙れ。実力不足の者を王族の前に立たせるわけにはいかんのだ。では、結果を発表する」


 空中にスクリーンが出され、下位から名前が並んでいる。九人の生徒が六十点に満たず、失格が決定した。ヴァヴェル学園からは六人、インフェルナ校からは三人が失格となる。


「そおおおおお! セェーーーーーフ!」


 ディルタがおかしなポーズで喜びを表現する。彼はギリギリ六十点以上であった。


「悲しいですわ、ディルタさん……。あれだけお勉強しましたのに……」


 リリアナが言うと、ディルタは手を振る。


「いやいやいや。リリアナさんのおかげで六十点以上になれたわけですよ。むしろ、誇りに思ってくださいや」


 満点の者が四人もいる。アン・リリアナ・オルシア・ライムンドである。残念ながらルナとロバルトは満点には届かなかった。


「筆記か……。くっ……」


 ルナは地団駄踏んで悔しがる。ロバルトは後ろ髪を掻いて、それなりに満足そうである。満点ではなかったが、上位十人には入れた。


「良かったですわ。少なくとも恥ずかしい結果にはなりませんでした」


「ディルタ以外ね」


「酷くない⁉」


 ルナの言葉にディルタは傷付いたようだ。胸を押さえて大げさに悲しんで見せる。


「これで全員で第三試験に向かえるね。良かった……」


 オルシアが胸を撫で下ろす。自分の合格よりも、皆で試験を受けられることの方が嬉しいようである。

 一位を目指すことはこれで難しくなってしまったが、ルナも諦めるつもりはない。第三試験は明日である。

 王族を迎えるための準備で、街は大騒ぎであった。



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