お出掛け
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公開試験に出ることが決まったが、それは二か月後のことである。その間にも授業はあり、ルナにはやることもあった。
「どう?」
ダウリが衣装に身を包んでポーズを取って見せる。注文はとにかく派手にということだったので、白と黒を基調にしたゴスロリメイド服を作って見せたら、ダウリは喜んで着てくれた。
女子寮で始まったファッションショーは、他の生徒たちも巻き込んでしまう。談話室には様々な素材や形の服が並び、生徒たちは気に入った服を自分サイズに調整してほしいとルナに言ってくるのだ。目まぐるしくて忙しい。
本来であればそう言ったバカ騒ぎを止める立場の寮長ミニティも、ファッションに興味がないわけではない。卒業後の衣装を考えることもひとつの勉強だと言って、参加している。
「大丈夫なの、ルナちゃん……。そんなに魔術使って……」
「ありがと、オリィ。でもこれくらいなら何ともないよ」
オルシアも様々な衣装のデザインを絵に描いては提供してくれる。隠れた才能だ。ルナは服のデザインの知識はそれなりだが、この時代の世界の物は知らないし、絵も描けない。こうやって言葉だけでなく表現してくれるのは、大変にありがたい。
「いいなぁ。私もこんな術使えたら、好きな服着放題だよ!」
「ルナちゃん、私にも教えてよ!」
今まで話したこともないような女生徒たちも、ルナに話しかけてくる。オルシアに図案を依頼し、ダウリに賞賛を送っている。
「ちょっと、みんなー。制服まで全部変えちゃわないようにね」
ミニティが制御しようとするが、このショーの興奮は収まる気配がない。それどころか談話室の扉が開くと、イルヴァが連れてきた別の寮の女生徒まで現れた。それぞれ、制服を持っている。
「ああ、ああ。もう散らかして! てか、ちゃんとお金は取ってるの? 無料じゃないんだよ! ほら、返して。ほれ、これも! 金払わないなら元に戻すからね!」
イルヴァが同じ寮の生徒たちから服を取り戻す。
「いい? みんな、聞いて。服が欲しいなら、お金を払うのよ。仕立て直しは一着600クレス、新規作成は一着3000クレス! もちろん、要望によっては値段が上がるからそのつもりで!」
談話室にイルヴァの声が響くと、生徒たちは少し静かになるが、慌てて自分の部屋の金庫を確かめに行った。目の前にニンジンをぶら下げられては、走らずにはいられない。それに600クレスならば、服の仕立て直しには安い方である。
学園の制服は入学時に三着と、年に一回二着配られる。古びた制服は余ってしまうため、捨ててしまう者も多いが、仕立て直せばもう一度着られるはずである。
「私、ルナちゃんみたいなスカートにしてほしいな」
「これ、この模様を裾に付けてほしいんだけど」
今度は細々とした注文が多くなり、ルナは急いで仕立て直しを始める。イルヴァが取り纏めていき、金を受け取り、順番を守らせる。その間にも、ダウリは服を色々と組み合わせて遊んでいる。いい気なものだ。
「ダウリ! あんたは遊んでないで、お金の管理をして!」
「別に遊んでるわけじゃ……。はい」
イルヴァに睨まれて、ダウリは素直に金を受け取ると、箱に入れ始めた。
結局、この仕立て屋の初めての夜は、仕立て直し二十一着、ダウリが試着していた服が一着売れ、約二万クレスの売り上げとなる。
寮の部屋に引き上げた四人は、その硬貨を数えながら喜んだ。
「一晩で、二万! すごい……」
イルヴァはウットリと硬貨を眺め、ダウリはオルシアの手を取って飛び跳ねて踊るので、ルナは落ち着かせる。
「まぁ、待って。今日はたまたま当たっただけだよ。これからのことも考えて、計画を立てないと」
「ルナ、もっと楽しもうよ……」
「イルヴァ。あのね、私やオリィは、これから試験に向けて勉強もしなきゃいけないの。毎日こんな風にできるわけじゃない。だから、ダウリさんの魔術も使っていなきゃいけないし、イルヴァにも手伝ってもらわないとダメ。お金持ちになりたいでしょう」
イルヴァが黙ると、ダウリが頷いた。
「そうだね。仕立て直しする服には限界があるし、学生相手の商売じゃ四人で分け合うと、金額は目減りする。というわけで、私の取り分はこれだけで……」
ダウリが半分以上の硬貨を取って行くので、イルヴァが首を絞めて止める。
「どうすりゃ、そうなるんだよ。遊んでいたやつが!」
ダウリが声が出せずに床に転がり、何とか逃れようともがく。それを脇目にルナは新しいノートを取り出すと、それを帳簿とすることにした。
「私たちの取り分はこれの四分の一。これは経費ね。ダウリさんの分にはこれだけ追加して……」
「ええ、何で? 遊んでただけなのに……」
イルヴァが不満を宣べる。
「材料費の分があるからね。それにダウリさんが派手に宣伝してくれたから、これだけ稼げたんだよ。それにダウリさんのアイディアでやっているんだしね」
ダウリは立ち上がる。
「その通り! そして、私たちのこれからの稼ぎ頭はこれです!」
突然、ダウリが服を脱ぎ、下着姿になるので、三人は呆れた。靴下は膝上まであるハイソックスだ。
「羞恥心とかないんですか」
ルナが言うと、ダウリは少しだけ顔を赤らめて微笑んだ。
「そんなものは死んだ」
「そう……」
この世界の女性用の下着は、胸はサラシのような乳袋と呼ばれる物で、下はふんどしに近い布切れである。貴族であるオルシアはドロワーズや緩やかなビスチェを使っているが、体型を補正する効果は薄い。
ダウリは学生相手では、新しい服はそう売れないし、仕立て直しも数が限られていると考えていた。学生相手に何度も買ってもらえる商品を考えたとき、靴下や下着は継続的な販売が可能だと考えたのだ。
ルナはその考えに従って、ルナの世界にあったブラジャーやショーツを渡すと、それに感銘を受けたようで、目玉商品として扱うつもりのようである。もちろん、この世界にも似たような物はあるが、高価で普及はしていない。激しい動きをする戦士向けの装備らしい。
「ちょっと、はしたない気がしますけど……」
オルシアは抵抗があるようで、顔を赤らめてダウリを見ないようにしている。
「オルシア、考えてみて? スカートが短くなったら、下着を見られる機会が増えるんだよ。そのとき、みっともない下着を履いてるのは、はしたなくない?」
「増えません!」
ダウリの不明な理論と、オルシアの羞恥心が戦う。イルヴァは感心したように言う。
「なるほど。継続的な売り上げは期待できるし、下着なら布面積が小さいからコストも低く抑えられる。それにスカートが短いなると足が冷えるから、長い靴下を売る……。悪くないかもね」
「でしょ!」
イルヴァの言葉に、ダウリが頷いた。
ルナがおもむろにダウリの胸を触るので、オルシアが驚いて飛び上がる。
「ルナちゃん⁉」
ルナが手を離すと、ブラの下部分から薄い布が伸び、ビスチェかネグリジェに近い形になる。
「こういう形ならどう、オリィ。抵抗なく着れるんじゃない?」
「そ、そうだね。確かにその形ならいいかも。というか、かわいい……かも」
オルシアがそう言うと、イルヴァも同意する。
「確かに可愛い。でも、コストが高くなるかなぁ。お嬢さま向けの高級品として売るとかになるかな」
ブラの生地を伸ばして下につけたため、ブラ自体の生地は薄くなってしまい形が崩れている。ルナの魔術ではこれが限界だ。
「着てみる?」
ダウリに言われたオルシアは返事も待たずに服を脱がされ、下着を交換させる。そこからはダウリの着せ替え人形にされた。
イルヴァとルナは、それを尻目にこれからのことを話し合う。
「私、この国の流行りとかわからないんですよね。やっぱり街に行って、人を見て、商品を見てみないと……」
「じゃあ、今度の休校日、みんなで街に行こうか。丁度、お金も入ったし、みんなで買い物でもしようよ」
イルヴァの提案は魅力的なものであったが、既に休校日の予定は入っている。
「休校日は、午前中はアル先生の訓練で、午後からは第三学位の友人と勉強会を……」
「せっかくの休みに? ホントに?」
「ええ。試験まであと二か月しかありませんから」
「でも、筆記も実技も、やることはわかってるんだよね。そこまで急いで勉強することなんてあるの?」
イルヴァの言うことも尤もでもある。たったの二か月では、新しい魔術を学んでも使い熟せるかは怪しい。
ダウリは着飾られたオルシアを前に出して、ルナに言う。
「それよりもさ。街に出て、魔導書とか、魔道具とか見てみようよ。その友人も呼んで、みんなで着飾って出かけてさ。街を見て回るのも、ひとつの勉強だと思わない?」
ダウリの魂胆はわかる。作り出した服を見せびらかしたいのだろう。
「オリィはどう思う? 街に行きたい?」
オルシアは良くわからない服の塊になっているが、顔を上げるとルナに言う。
「試験は大事だけど、それ言ってたら、遊びに行く機会なんてなくなるし……。リリアナちゃんも誘ったら、喜ぶと思うよ。私も……、あんまり街を歩いたことないから、行ってみたいな」
オルシアがそう言うのであれば、ルナも無碍にもできない。
夜も更けてきた。四人は興奮冷めやらない中、明日に備えて休むことにした。




