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学友の実力 3

 ◆


「はい。では、試験終了です」


 セシリアが宣言すると、試験官が射場から離れ、セシリアの後ろに並んだ。


「では、合格基準と採点方法を発表します。公開試験への合格は、定員の上位四十名となります。今回、百七名の受験者ですので、合格者は半分以下になりますね。

 採点方法ですが、この試験では総合力を見るということで、三つの基準で採点しました。百点満点が最高点ですが、えーと、今回は誰も満点の方はいませんね。

 ひとつは魔術の基礎、対象に命中させることですね。配点は五十点。外したり、狙い通りでない別の的に当てれば、減点となります。逆に順番通りに素早く当てれば、加点となります。正直、ここで五十点を取れていない人は、失格にしたいくらいの部分ですね」


 セシリアが空中に何かを浮かび上がらせる。各生徒の点数を示した幻影のようである。空中に映し出されたスクリーンだ。


「次に有効性。

 対象に対してどのような変化を与えたか。これは攻撃だけではなく、状態の変化や、特殊な魔術効果が発揮されているかも。重要な採点対象です。配点は三十点。

 的にそれぞれ違う効果を発揮させ、効果が多様であれば加点対象となります。また、効果の持続時間も加点対象となり、完全事象化が為されていれば、さらに加点となります」


 スクリーンには下位の方から表示されていく。まだ、ルナの名はない。


「最後の採点は、実用的魔術であるのか、です。配点は二十点。

 軍事、政治、産業等々、魔術は様々な分野で活躍していますが、それらの分野にどのように活用できる魔術であるかということですね。この部分は配点としては少ないですが、上位の数名の順位を決める重要な部分であり、公開試験を見に来る有力者たちがもっとも重要視する部分です」


 最後の評価方法は、ルナも気が付けていなかった。確かに役に立たない魔術を派手に使われても、困惑するしかないというのも納得できる。重要ではあるが配点として弱いのは、その評価は先見性や需要、時代によって変化することがあるからだろう。

 ルナの名がスクリーンに映し出された。十二位だ。四十位以上で合格なのだから、悪くないところだ。上位にも入りつつ、目立たない位置である。基礎五十、有効性三十、実用性十一点の、九十一点だ。

 四位にオルシアがおり、三位には驚いたことに二学位の男の子が入っている。十位にリリアナの名があり、一位は案の定、アンであった。


「納得できない。どうしてオレが三十位なんですか⁉」


 またロバルトが叫んでいる。彼の点数は八十二点。内訳は、基礎五十、有効性二十二、実用性十点である。


(なんでも不満を言わなきゃ気が済まないのか、あの人は。てか、事前試験は合格だからいいだろうに……)


 ルナがそう思うと、魔導師たちですら呆れたような視線を向けている。


「ええと、ソリアーダン君の担当は……、ライジュ先生ですね」


 セシリアがそう言うと、ライジュがロバルトに視線を向けた。


「採点の内容を、ここで言っても構わないのかな? 皆に知られることになるが」


「構いませんよ! どうせ、訳の分からない理由を付けて、オレをオトシめてるんだろ!」


 ライジュはやれやれと首を振った。


「まず、基礎。素晴らしいものだ。言うことなし。

 次に有効性。要は魔術を使い熟せているかを見るもの。君は五属性の基礎魔術で的を攻撃したが、効果はいまいちだった。しかし、雷の属性には目を見張るものがあった。現象化もできている。よって、二十二点を付けた。

 最後の実用性。もっと、君らしいユニークな魔術を披露するべきだな。攻撃力はあるが、それができる魔術士は多い。七点に、期待を込めての三点で、十点と言うことだ」


 ライジュの言葉は採点内容に沿ったものであるし、しかも私情が混ざった採点であった。ロバルトは震えながら怒りを我慢している。

 セシリアが事務的に話を進める。


「はい。もし、採点内容の内訳のさらに詳細が訊きたい人は、それぞれの試験官だった魔導師に、後で訊ねておいてください。四十一位以下の人は、ここからの話は聞かなくても結構です。ここからは公開試験の説明となります」


 多くの生徒が帰り始める。中には後学のために話を聞いておこうとする失格者もいるだろうが、次はいつ公開試験が行われるかわからないし、試験内容が同じとも限らないのであれば、無駄なことだ。


「公開試験では、今行った投射試験に加えて、知識を測る筆記試験、そして、実技を測る演習試験があります。筆記試験の内容は言えませんが、普通の紙にペンで書くだけの試験ですので、充分に勉強しておいてください」


(試験の内容、知らされるんだ。ま、お偉いさんが来るのに、何も知らない生徒を放り出すわけにもいかないか)


「今回の投射試験の成績が振るわなかった人も安心してください。今度の試験が本番です。しかも、今度は練習してから挑めるわけですから、今回よりもより優れた魔術を用意しておいてください」


 セシリアは楽しそうに言った。


(この投射試験が公開試験の目玉なんだ)


「最後の演習ですが、演習とは名ばかりの実戦ですね。えー、魔物と戦ってもらいます」


(前言撤回。確実にこっちが本番だな……)


「もちろん、一対一で殺し合い……ではなくて、第四演習場での乱戦になります。全員一斉にスタートし、魔物と戦ってもらいます。魔物は個体や種類によって、複数枚のポイントカードを持っており、制限時間の二時間が終わったときに、そのポイントカードを持っていた者が勝者です。より多く集めれば、それだけ試験には合格し易くなります」


 判り易いゲームだ。


「仲間と協力して魔物を倒しても構いません。その場合は仲間同士で話し合い、ポイントを分け合ってください。一度所有者が決まったカードを無理矢理奪うことはできません。他人を攻撃して奪うことも禁止です。その場合は一発失格です。ただし、所有者の意思での譲渡は可能なので、仲間同士で後に調整することは可能です」


 甘い試験だとルナは思った。

 純粋に魔物との戦いをするだけということだ。ただし、漁夫の利は容認されている。魔物に勝ったあとが、もっとも警戒するべき時間というわけだ。 

それと意思によって譲渡が可能ならば、脅し取ることも可能なのではないだろうか。直接の攻撃ができないので、何か別の弱みを握る必要があるが、と考えて、ルナは止めておいた。

 セシリアが先ほどと同じようなスクリーンを空中に作る。そこには演習室に集まる生徒と魔導師たちの姿がある。


「このように演習場の様子は、私の使い魔を通して、常に監視されます。大勢の有力者に見てもらうチャンスです。どんな魔術でも良いので、魔物から多くのカードを奪ってください」


 演習室の空に無数のカラスが飛び回っている。セシリアの使い魔は黒猫だけではないようである。

 演習試験では、漁夫の利を狙っても良いし、戦わずに隠密の内にカードを奪っても良いのだ。ただし、有力者に見止めてもらうには、派手に動き回るしかない。


「何か質問は?」


 誰かが手を上げた。


「演習場にはどんな魔物がいるんですか」


 セシリアはにっこりとした。


「お答えできません。危険な魔物もいますし、そうでない魔物もいます。命を落とす危険もあります」


「気絶したり、動けなくなったら、どうすれば良いのですか」


「近くの試験官が対応します。その場合は棄権とみなし、ポイントは没収となります。また演習場からの脱出は失格となりますので、その点も注意してください。ああ、それと死なないようにも注意してください」


 他には誰も手を上げなかった。セシリアがそれを見て、最後に言う。


「今回の事前試験は別として、どの試験でもそうですが、全員が合格する可能性がありますし、全員が不合格になる可能性もあります。そして、公開試験では皆さんの行動、言動、その他諸々が明るみになります。試験までの二か月の間に、精一杯、実力を高めてください。いやぁ、良かった。これだけの人数が集まったのに、試験が何事もなくスムースに進んでくれて……。皆さんが優秀で助かりました。では、以上です。解散!」


 あっさりしたものだ。上位に入った者へのネギラいなどもない。あくまでも選抜のための試験であり、ここでの順位は関係がないということなのだ。

 生徒たちが帰り始め、帰ろうとしたルナにリリアナが言う。


「良かったですわ。これで一緒に第四学位に上がれますことよ」


「合格すればね。まだ、試験は先だよ」


 オルシアが訂正する。


「フフン。わたくしたちなら絶対合格できますわ!」


「それは……そうかも知れないけど、油断は禁物だと思う」


 対照的なことを言う二人だ。ルナはある思い付きを提案する。


「オリィ、筆記教えてよ。私が戦い方教えてあげるから。勉強会しよう、勉強会」


「勉強会……。いいよ、やろう!」


「勉強会……⁉」


 リリアナは戸惑っているようだ。判り易い。


「リリアナも一緒にやるでしょ?」


「ま、まぁ、どうしてもというのであれば、参加してあげても良くてよ」


 ルナはニヤリと口角を上げる。


「じゃあ、放課後、演習室前に集合ね」


「演習室。使わせてもらえますの?」


「うん。多分ね。ダメだったら、そのときはそのときに考えよう」


 ルナはアルフォンスの訓練に、オルシアとリリアナも巻き込むことにした。アルフォンスの説得は、連携とか何やらとかで誤魔化すつもりだ。とりあえず、扱かれる対象を分散させて、自身の体力を確保する算段であった。

 ルナがウィンクすると、二人とも理解できずに微笑んだだけだった。


 ◆


 ロバルトは父から多額の小遣いをもらい、街へと繰り出していた。


「本当にそんな店があるのか」


「もちろん。僕の順位を見たでしょう。そこの商品を使えば、この程度簡単なことです。あの貴族たちに復讐フクシュウを遂げられますよ」


 ロバルトを先導する子どもにしか見えない彼は、事前試験にて三位を獲得した者だ。

 まだ二学位であるのに彼は上位を獲得した。それを魔道具のおかげだという。彼はメインスと名乗り、ロバルトをその魔道具を買った店まで案内すると言ってきたのだ。


「復讐なんてするつもりはない。オレはただ皆に力を認めさせたいだけだ」


「そうでしょうとも。僕は店主から才能ある者を連れてくるように言われたのです。あなたならば魔道具を使いコナせるでしょう」


 そう言って人気ヒトケのない路地に入っていく。この街もこういった路地は安全ではない。発展し過ぎた街は、表通りは栄光に照らされているが、裏通りには深い影が落ちている。


「おい。本当にこんなところに店があるのか」


「ここですよ」


 家の軒先ノキサキに、地下へと続く小さな扉があった。かなり怪しげではあるが、看板には杖とマントの絵が描かれている。魔術士の店なのだ。小さくメディコニアンの魔道具店と書かれている。

 メインスは何の躊躇いもなく扉の中に入っていく。ロバルトは地下の暗闇に気圧され、足を止めてしまう。メインスが扉の先から顔を出して言う。


「どうしたのです? さぁ、早く」


 メインスのような子どもが中に入って、既に大人になりかけているロバルトが怖気付くなど、プライドが許さなかった。ロバルトは階段を慎重に降りると、扉の中に入った。

 眩しさで目が眩み、手で目を隠す。明るさに慣れてくると、そこには色とりどりの奇怪な道具やら書物やらが積み重ねられている場所だった。


「なんだ? 倉庫か?」


 ロバルトが言うとメインスが笑う。


「そう見えますよね。僕も最初はそう思いました。でも、奥に店主がいますよ」


 ガラクタの山を掻き分けて、さらに奥に進むと、そこには小さなカウンターがあり、店主らしき老けた男が眠そうに座っていた。


「おじさん、来たよ」


 店主は顔を上げたが、寝惚けているのかまた眠り始めた。メインスがカウンターを叩いて店主を起こす。店主はその音に驚いて、椅子からずり落ちそうになる。その間抜けな姿に、ロバルトは少しだけ警戒を解いた。


「な、なんだぁ?」


「お客を連れて来いって言ってたでしょう。そのお客を連れてきたよ」


 店主は顔を上げ、髭を撫でると、ロバルトを見た。


「ほう。これは羽振りの良さそうなお客さんだな。魔術をお望みかな。それとも何か役立つ道具かね」


「道具だ。魔道具を探している。ヴァヴェル学園の魔導師たちを見返す力をくれる魔道具だ」


 ロバルトが言うと、老人は呵々(カカ)と笑った。


「ヴァヴェルの魔導師を? なかなかに立派なココロザシだ。だが、そんな魔道具、いったいいくらするだろうな。羽振りが良くても、子どもが手を出せる値段ではないぞ」


 老人の言葉を聞き、ロバルトは懐から革袋を取り出すと、カウンターに叩き付けるように置く。重い金属の擦れる音を立てて革袋が開かれると、金貨と銀貨が零れ落ちる。


「これだけあれば足りるだろ。さっさと出せ」


 老人はカウンターから転がり落ちそうな硬貨を一枚手に取ると、ニヤリと笑った。


「いいぞ。取って置きの物やろう」


 老人は自分の節くれ立った指から、指輪を外してカウンターに置く。

 小さな黒い石が填められた指輪は、美しい装飾もなく、豪華さに見慣れたロバルトにはつまらない物であった。


「おい。こんな物でオレが騙されるとでも……」


「おいおい、お前さん、素人かね。この指輪を見て何も気付かない魔術士はおらんぞ」


 素人と言われ、ロバルトは老人を睨みつける。指輪を奪うように手に取ると、それを良く眺めた。やはり何の装飾もないが、魔力を指輪に込めると、赤い光とともに、指輪の表面にびっしりと文字が浮かび上がってくる。


「『この首輪(・・)を持つ者は、力を得る。汝、死ぬことを許されず、終わりなき奉仕に身を捧げるだろう。主の名をその胸に刻むが良い……』。最後の文字は、読めないな」


 おそらく指輪の持ち主の名が書かれていたであろう部分は、削られたのか空白になっている。


「それは古代魔道具アーティファクトだよ。持ち主に力を与え、不死を与える指輪だ」


 老魔導士の言葉に、ロバルトは片眉を上げる。


「ハッ。そんな都合の良いものがあるか。どうせ、指輪を付けたら、誰かの奴隷になるような物だろう」


「良く考えてみろ、お若い魔術士さん。指輪の今の主人は、生きているのか? いったい誰が誰を奴隷にするというのかね」


 ロバルトは考えた。この指輪が古代魔道具だとすると、これを作り出した魔術師は、何千年も前に滅んでいるはずだ。それに店主はこの指輪を自分に填めていた。


「まさか……。力を与えるだけで、命令を出す者がいない? ノーリスクで力を使えると?」


「その通りだ。とっくにこの指輪の主人は滅び、指輪に込められた力だけが残っている。どうだ。魅力的だろう。この革袋の中身くらいの価値はある」


 老人が革袋を手に取ろうとする。ロバルトはそれを止めた。


「いや。いや、待て。この指輪の力を見ていない」


「お前さんも魔術士の端くれなら、手に持った瞬間にわかっただろう。この指輪に込められた強大な魔力が。それを否定しては何にも始まらんぞ? この魔力がお前さんの手の中にあるのだ。わかるだろう」


 そう言われ、ロバルトは手のひらの上の指輪を見た。

 ロバルトは指輪に填められた黒い石に魅入られる。何の変哲もない石だ。少しだけ艶やかなだけの黒い石。その漆黒の中に何かが見えた気がした。

 ロバルトは指輪を人差し指に填める。力が指先から血管に入り込み、熱い溶岩のようになって体内を駆け巡るのを感じる。


「おめでとう、ロバルト・ソリアーダン。それは君の力だ」


 老魔術士が口元に嫌らしい笑みを浮かべ、名乗ってもいないロバルトの名を呼んだ。だが、ロバルトは体内を巡る力に歓喜し、そのことに気が付かなかった。

 メインスがロバルトの肩に手を置いた。


「これで僕らは仲間です。ロバルトさん。よろしく」


 そう言ったメインスの手にも同じ指輪が填められていた。


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