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学友の実力 2

 ◆


 事前試験には、第三学位の全員と、第二学位の少数が参加した。総勢百人を超える異例の事態となる。

 一位に輝いた者に、ライジュの魔道具が賞品として送呈されることは、一日の内に学内を駆け巡り、中には試験資格のない者まで受験しようとする者もいたくらいだ。

 試験担当であるセシリアが顔色を悪くして、集まった生徒を眺めているので、隣に立つライジュは申し訳なくなってしまう。


「皆さん、説明を始めます! 注目してください!」


セシリアはあらん限りの声で告げるが、ザワつく生徒たちの声で後ろまでは届かない。

ライジュは長いローブの中から長杖スタッフを取り出すと、その先端で空気を叩くような動作を行う。すると、空気を揺らすような低い音が、遠くまで響き渡り、生徒たちの注目を集めた。


「ありがとうごさいます、ライジュ魔導師」


「お立ち台を作ってはどうかな」


「そうですね。そうします」


セシリアが手を叩くと、その足元が盛り上がり、生徒たちを見渡せる高さになる。

ここは青空の下、野外に見えるが、室内であった。ルナがアルフォンスの修行を受けている演習室である。

ただし、今の演習室は二人で使うときよりもずっと広く大きい。他の演習室も繋げることで、形を変えるだけでなく、大きさまで自在に変えられるのである。


「説明を始めます。事前試験では、本試験に向けて、君たちの総合力を測ります」


再度、セシリアが手を鳴らすと、生徒たちの左右に壁がせり上がり、矢を撃つためのマトが置かれた、射場のような場所が複数出来上がる。ひとつの射場に五つの的が置かれており、それに数字が書いてある。試験官たちがひとりずつ、射場に付いた。


「名付けて投射試験です。数字の少ないものから順に、的に魔術を当ててください。どのような魔術でも構いませんが、順番通りに当ててください。魔術が当たるとこのように……」


 セシリアが杖先から紫電をホトバシらせると、遠くにある一の数字が書かれた的に当たり、紫電と同じ色に染まる。


「魔力と同じ色に変わります。それでは試験官が受験番号を呼びますので、呼ばれた方から始めてください。人数が多いので、効率良く進めましょう!」


簡単な説明で、採点方法は言ってくれない。この学園の試験がどんなものか、二回目にして掴んできた。自分で考えて魔術を使えと言うことだ。


(五つの的を順番に。別の魔術で素早く撃てば、高得点になるのかな。それとも高度な魔術であれば……? 少なくとも別の的に命中させたりしない精度が求められるけど……。そっか、攻撃魔術とは指定されてない。魔術であれば何でもいいのか。破壊しろとは言われていない。当てればいいんだ)


 オルシアにも教えようと思ったが、彼女の真剣な表情を見て、やめておいた。


「受験番号一番、ここへ」


「二番はここです!」


 呼ばれた者たちが次々に魔術を放ち、試験が進んでいく。

 順番通りに当てられなかったり、同時に幾つも的を撃ち抜いてしまったり、的まで魔術が届かない者までいる。

 オルシアが呼ばれ、ルナはひとりになる。


「まあ。このような試験で私たちの実力を測ろうとは、公開試験と言っても大したことはありませんわね。そうは思いませんこと? ヴェルデさん」


 突然、話しかけられたルナは、驚いて振り向いた。


「我々、魔術士は現代社会の花形。この程度の基本はクリアできて当然。つまり、この試験はその先を見据えたものです。そうですよね、ヴェルデさん」


 そう言ったのは、金の巻き毛を綺麗に後ろで結った少女である。ルナやオルシアよりも少し年上だろうか。服装はルナと同じようなスカートに、腰を絞ったローブであった。ルナはこの子の服をイジった覚えはなかった。


「ええと、どなたでしたか?」


「う……。そ、そうですわね。しっかり、ご挨拶したことはございませんでしたわ。でも、実技では、何度か同じ授業を受けたことはありましてよ」


 彼女は片足を後ろに引き、短いスカートの裾を持ち上げるわけにはいかないので、代わりにローブの裾を軽く持ち上げて、貴族らしい丁寧なお辞儀をした。


「わたくし、リルケー家の三女リリアナと申します。以後お見知りおきを、ルナ・ヴェルデさん」


「ええ。よろしく、リリアナ」


「あら。では、わたくしもルナとお呼びしますわ。ルナもお気付きでしょう。ただ、的を射貫くだけがこの試験ではないことに」


「そうだね。あの的も魔術を吸収して色が変わるみたいだし、五属性でそれぞれ……」


 そこまで言って、ルナは気が付いた。別に的に当てれば得点が入るとも、色を変えれば得点になるとも言われていない。


「色を変えれば良いわけじゃないんだね」


「さすがですわ。セシリア魔導師は、総合力を見ると言っておられました。それに気が付くことも、得点になると思います」


「わざわざ、教えに来てくれたの? どうも、ありがとう。もう少し早ければ、もっとありがたかったけれどね」


「まぁ。オルシアさんを心配してらっしゃるの? 彼女ならば問題ありませんわ。ほら」


 リリアナが視線を向けた、オルシアがいる射場を見る。彼女の周りには、不思議な道具が浮かび、まるで巣を守る小鳥のように、体の周りを飛び回っている。

 風が起こり、生徒たちのローブを羽搏タバタかせた。引き込まれていく風は、オルシアを中心に小さな竜巻を作り出す。

 他の生徒たちは、これだけ派手な魔術は使わない。使えなかった。他の的に術を当ててしまい、減点になることを恐れたからである。だが、オルシアは敢えてその難関に挑んだ。

 風が重い石でできた的を、数字順に地面から引き剥がす。それでも色は変わっていない。

 すべての的が浮かび上がり、色を変えずに元の位置へと戻っていく。

 それはオルシアが魔術の事象化が、ほぼ完全にできていることを物語っている。


「はい。もう結構ですよ」


 試験官である魔導師が落ち着いた声で言うと、オルシアは息をついて魔術を納めた。

 生徒たちはその術の規模と精度に騒然とするが、オルシアはそれに気が付いていないのか、振り返りルナと目が合うと、安心したように小走りで戻って来た。


「ちょっと張り切り過ぎちゃったかな」


「良かったよ。さすがだね」


 ルナが褒めると、オルシアが照れくさそうに笑う。その鼻から血が一滴垂れる。ルナは急いでオルシアの鼻を押さえると、魔術で治療した。鼻血ではない。肺から逆流した血が、鼻まで登ってきたのだ。


「ご、ごめん。我慢してたんだけど……」


 ルナは顔をシカめる。


「苦しくなったら、すぐに言ってよ」


「ご、ごめん」


 そのやり取りを見ていたリリアナが、首を横に振る。


「いけませんわ。名家の令嬢ともあろう方が、感謝の言葉も言えないとは」


「あ、ありがとう。ルナちゃん」


「どういたしまして」


 オルシアがリリアナを見る。


「リリアナちゃんも試験に参加してたんだね」


「それは……、そうでしょう。第三学位は皆参加しているのですから。わたくしが同じ学位にいることを忘れてました⁉」


 リリアナは高飛車ではあるが、敵意は感じない。オルシアの反応からしても、悪い人間ではなさそうだ。


「どんな話をしてたの?」


 オルシアが言うので、リリアナが答える。


「この試験についてですわ。あなたが気付いていたように、的の色を変えないことが必要だったのですから。だって、魔導師である試験官の方々は、魔術の特性くらい、ひと目で見分けることができますもの。わざわざ、的の色を変える必要なんてありませんわ」


「……」


 オルシアは目を見開き、口元は微笑んで何も言わなかった。

 ルナは彼女が何も考えていなかったことに気が付いたが、リリアナはそうとは思いもよらなかったようだ。


「なるほど……。わたくしたちのような名家の者には、この程度の試験は楽勝(ラクショウ)と言ったところなのですね⁉」


 リリアナが高らかに宣言するので、他の生徒の視線が集まる。

 ひとりの女子生徒が、リリアナの背中に肩をぶつけながら、射場へと向かう。よろけたリリアナをルナが支えた。


「あ、ありがとうございます、ルナ。まったく何なのですか、あの人は。謝りもせずに!」


 リリアナは憤慨フンガイの仕方も可愛らしいものだ。だが、ルナは正直、あのぶつかってきた少女の気持ちもわかる。面と向かって話せば、リリアナには悪意はなさそうだとわかるが、思春期の子にそれを理解しろと言っても無理な話だ。


(かと言って、ぶつかっていこうとは思わないけど)


 射場に入った少女が、試験官に告げる。ルナたちは彼女に注目した。


「四十五番、アン・レデクシア」


「はい。始めてください」


 アンはシンプルな木製の中杖ロッドを的に向ける。中杖の先から赤い光の玉が発生する。それはゆっくりとシャボン玉のように空中へと広がり、空気を切り裂くような高音が辺りに響く。


「何? この音は?」


 オルシアが耳を塞ぎながら言う。次の瞬間、アンの魔術は終わり、生徒たちが感嘆の声を上げた。

 三つのシャボン玉が消えると、的に小さな穴が開き、それぞれが赤・黄・緑の色に変わる。四つ目の的は色が変わらず、台座の接触した部分だけを残し、消滅した。周辺が赤熱化しているのを見ると、超高温によって蒸発させたのかもしれない。

 五つ目の的は残念ながら何の変化もなく、シャボン玉は全て消えてしまった。そのため、アンは中杖を構え直すと、先端から炎を噴き出して、的を焼いた。


「すごい……。あの子も第三学位なの?」


 オルシアが感心した声を上げると、リリアナは口元を扇子で隠す。


「ええ、わたくしと同期ですわ。ひとつの魔術に三属性。光魔術ですわ。火・雷・風、それぞれの現象を細かく調整して、同じ魔術なのに的の色を変えようですね。しかも、あの破壊力。大抵の防御魔術は貫通してしまうでしょう。もっとも、連射したせいで本人は、疲れ切ってしまったようですけど」


 ルナはその言葉を聞き、アンの魔術がどんなものなのか分析しようとする。

 石の的が消滅するような威力だ。光の魔術ならば、プラズマやレーザーのようなものだと考えた。火の魔術と雷の魔術を、風の魔術で閉じ込めているのだ。現象系魔術の最高峰と言えるだろう。


「はい。結構です」


 試験官の言葉で、振り返ったアンの顔は、確かに焦燥しているように脂汗がにじんでいる。凄まじい魔術の威力と精度だが、同時に消耗も激しいようである。

 アンはルナたちを睨みつける。その目は左右で違う色をしており、左目のみ瞳の中に炎を宿したような輝きを放っている。彼女はそのまま何も言わずに、試験が終わった者たちの列に入っていった。

 試験官が番号を叫んでいる。


「ようやくわたくしの番のようですわ。それでは少し失礼いたします」


 リリアナが射場に向かうと、生徒たちの注目が集まる。良くも悪くも目立つ存在である。


「彼女の実力知ってる?」


 ルナが問うと、オルシアは否定する。


「良くは知らない。私より後に入学してて、授業もあんまり一緒じゃなかったし。何度か話したことはあるけど、私、あんまり……」


 オルシアも貴族ではあるが、それを鼻にかけたところのない、素朴な性格だ。対してリリアナはまさにお嬢さまと言った性格である。


「今の貴族って、ただの軍人の家系って感じで、昔みたいに特権があるわけじゃないんだけど、リルケー家は宮廷魔術師としても有名だから、色々とね……」


 オルシアはハッキリとは言わないが、リリアナが苦手なのだろう。

 しかし、リリアナもオルシアも学内では孤独に見える。やはり貴族というだけで、一般の出身者には話しかけ辛いのかもしれない。さらに同じ貴族出身者で反発し合っていれば、孤独は深くなるばかりだ。

 リリアナが射場で魔術を使った。扇子を仰ぐと、辺りにホノかな良い香りが広がる。

 突然、一番の的が薄いピンク色に変わる。二番の的はその場でクルクルと回転し始め、三番の的は的であることを忘れてフワフワと浮かび上がる。四番の的は、的にされるのが嫌になったかのように、台座の後ろに隠れてしまう。そして、最後の的は、小さな亀裂が入ると、それがゆっくりと広がって、粉々に崩壊してしまった。


「はい。それまで」


 リリアナは微笑みながら余裕を見せ、ルナたちの元に戻る。

 見つめる生徒の目は、拍子抜けしたような、馬鹿にしたような視線だ。だが、わかる者にはわかるのだろう。その視線の中には、羨望と嫉妬の目線もある。

 彼女の行った魔術は、物理操作。何かを飛ばしたのではなく、的を支配したのだ。

 ルナにもそれは理解できたが、敢えて別のことを言ってみる。


「派手な魔術で吹き飛ばすのかと思ってたけど。意外と繊細なんだね」


 リリアナは自慢気に口元を扇子で覆う。


「まぁ、ルナ。そんな前時代的な魔術は使いませんわ。魔術士とは消耗を抑え、いかに長く活動できるかが、現代魔術の基礎の基礎。この程度の試験で、本気を見せるなどまだまだ未熟ですわ」


「でも、派手な魔術もときには効果的だよね」


「それは……、その通りですわね。相手を威圧し、戦意を削ぐには、派手な方が効果的でしょう」


 ルナは安心した。リリアナは周りの視線をあまり気にしない。オルシアやアンの派手な魔術についても、いつもこのような評価をしていたのだ。その結果、二人に嫌われるようになってしまう。嫌われようとして嫌われているわけではないのは、それはそれで問題だが、そのことについて気付かせてくれる人がいなかったのだろう、とルナは考えた。


「オルシアの風や、アンの光はどう思ってるの?」


 ルナが訊ねると、リリアナは頷いた。


「お二方とも、素晴らしい魔術でしたわ。あれほど激しい魔術ですのに、完璧に制御しておられました。派手さの中にも繊細さがあり……。あら、ごめんあそばせ。時代遅れだと言っているわけではなくてよ。つまり……、わたくしには使えない力です。もちろん、わたくしの方が優れている点もありますが、見習うべき点が多いですわ」


(まぁまぁかな)


 リリアナの言葉にルナは完全には満足できなかったが、とりあえずは及第点と言ったところと思った。リリアナは高飛車なところが先に来て、言葉足らずになってしまう。

 オルシアはリリアナの誉め言葉に驚いている。


「リリアナ。これからよろしくね」


「え? ええ、よろしくお願いします……?」


 ルナが二度目の挨拶をすると、リリアナは不思議そうに微笑んだ。


「受験番号九十二番!」


 ようやくルナの番が来たようだ。


「がんばって、ルナちゃん!」


「あなたの魔術も期待していますわ」


 二人に言われ、ルナは肩をスクめる。


「そんなに期待されても何も出ないよ」


 ルナが射場に入る。背後からの視線を痛いほど感じる。


(さて、どうしたものかな。派手にはやりたくないけど、ある程度の実力は見せないといけない。自分の得意技を披露しないと意味がない、か……)


 ルナが得意なのは、攻撃ではない。防御と回復、罠によるめ技。こういった披露する場面には向かない術ばかりである。


(リリアナが使った術。風に乗せて香りを飛ばし、様々な効果を相手に付与する術。そういう魔術の使い方もあるんだ。攻撃するだけが魔術じゃない)


 生徒たちは的当てということで、攻撃一辺倒な魔術試験になっている。だが、魔術を当てれば良いのだから、別に攻撃する必要はない。

 ルナは一番の的を指差す。的の上から小さな芽が出る。それが凄まじい勢いで成長し、他の的に覆いかぶさるように樹冠を広げる。

 今度は天を指差す。すると、的の上にだけ小さな雲が生まれ、土砂降りの雨が降り始める。だが、雨は樹冠に弾かれて、二番の的以外は濡れない。

 三番の的を指差す。的はまるで植物が成長するように巨大化し、四番の的を押し、倒れてしまう。倒れた的は、陶器のように甲高い音を立てて、粉々に割れ、砂のよう広がった。そんなに脆い物ではないはずだ。

 巨大化した的が形を変え、人型の石像と化す。そして、石像はゆっくりと動き、五番の的を持ち上げて、ポーズを取って終いとした。


「はい。そこまで」


 試験官の合図で、試験は終わる。本来なら試験官は感想など言わないが、ルナに声をかけた。


「ふーむ。良い庭園(・・)だ。どこかの庭を真似したのか」


 射場はまるで庭園になっていた。

 砂岩で造られた射場に雨が降り、そこにはいつの間にか花畑が広がっている。台座は砕けた的の白色で彩られ、そこから小さな朴木ホウノキが生え、立派な葉で傘を作っている。そこに白亜の美しい女性像が立つ。五番の的をウヤウヤしく掲げているのが少し間抜けだが、ユーモアとしておく。


「コー先生。お庭、好きなんですか?」


 コーと呼ばれた老魔導師は頷いた。


「家に小さい庭があってね。薬草を育てたりしているのだけど、こうして見た目にこだわるのも悪くない。白の砂が良く映えるし、樹木も可愛らしい」


 この街で庭がある家は珍しい。彼女も長くこの街に暮らしているので、街が発展する前に建てることができた家なのだ。


「ああ、ごめん。戻って良いよ」


 ルナはリリアナとオルシアが待つ場所に戻る。


「さすがですわ、ルナ。攻撃するだけが魔術ではないということですね」


「いいなぁ。私もあんな風に花を咲かせる魔術を使いたい……」


 それぞれの感想が違って、ルナは笑った。

 試験の終わっていない受験生は残り少ない。最後の生徒たちの試験が始まり、ようやく終わりが見えてきた。その最後の組の中に、ロバルトの姿がある。


(彼の実力。どんなものかな)


 ルナはその射場に注目する。

 今までルナやオルシアに散々絡んできたのだ。より高いポイントで合格しなければ赤っ恥も良いところだ。

 魔術は持たざる者の技術。かつてロバルトはそう言った。

 貴族がなぜ血筋を大切にするのか。それは血の中に魔法が含まれているからである。過去に人類がこの世界に街や国を築き始めたとき、魔術は存在せず、強大な魔物に対抗するためには、魔法という理解不能の力が必要だったのだ。

 魔法を使える者は貴族となり、王族を守るための盾となることが義務となる。しかし、時代が進むにつれて、既得権益キトクケンエキオボれた貴族によって、貴族以外の生まれつきの魔法使いは、忌むべき存在と情報操作され、差別の対象となった。

 そして、魔術が開発され、それが人々に広まり始めると、魔法は徐々に駆逐され始める。経済が発展し、貴族の絶対的権威が揺らぐと、今度は魔法使いであった貴族が、自分たちの流布によって行われることになった差別に晒されることとなる。

 魔法使いは魔物。貴族は魔物。

 そう言った思想が、世間の中に蔓延ハビコっている。

 ロバルトはそんな思想に染まった、愚かな若い世代といったところだ。

 だが、ルナから言わせれば、魔術も魔法も同じものである。ただ、魔法使いには生まれつき魔力を操る才能が有り、魔術士はその才能を後天的に獲得しただけである。


(私の魔法(・・)だって、別に何か理論があって使ってたわけじゃないんだけどな)


 今はなんとなく理屈をこねて魔術を使っているが、前にいた世界で使っていたこの力は、この世界の基準で言うならば、確実に魔法だった。

 ロバルトが射場の前で短杖ワンドを構える。その姿は正統派の見習い魔術士である。


「風よ、切り裂け! 火よ、焼き尽くせ! 水よ、包み込め! 岩よ、砕け散れ!」


 矢継ぎ早に魔術を短杖の先から放つ。

 呪文の威勢とは裏腹に、一番の的はそよ風で倒されただけ、二番の的は少し焦げただけ、三番の的は少し濡れただけ、四番の的は亀裂が入っただけである。どれも的は色が変わり、カラフルな射場になってしまった。


イカズチよ、的を撃て!」


 だが、最後の魔術だけは違った。突然、暗雲が立ち込めたかと思うと、稲光が炸裂し、皆の耳をツンザクく雷鳴がトドロく。天から振り下ろされた鉄槌のゴトき雷の一撃が、五番の的を台座ごと砕いた。


「はい。結構です」


 辺りが騒然とする中、試験官は平然としている。しかし、ロバルトにはその声が届いてないようである。大きな音の後で耳が聞こえ辛いようである。


「終わりですか⁉」


「終わりです!」


 ロバルトが叫ぶので、試験官も叫ぶ。なかなかの魔術だったのに、締まらない終わり方である。

 ロバルトは頷き、勝ち誇ったような視線をルナに向けてきた。確かに五属性を使い、基礎はできているし、威力も充分である。だが、彼はリリアナが分析した高得点を取る方法の逆を行っている。


(まぁ、それでも他の人よりは優秀か)


 ルナが見た限り、第三学位の魔術士の練度は高くない。少数の第二学位の生徒は、さらにレベルが低い。圧倒的に魔術使用の経験が足りていない。


「はい。では、試験終了です」


 セシリアが宣言する。


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