勇者パーティ、ここに爆誕!
――最初に目に入ったのは、年季の入った木製の天井だった。
焦点が合わず、視界がゆらゆらと揺れる。
(……あれ、俺……また死んだ?)
「……いや、生きてるな。背中が地獄みたいに痛ぇ……」
呻いた瞬間、影が覆いかぶさった。
「ダーリン♡ 起きたのね!」
「うわっ!!?」
反射的に飛び起き――ようとして、背中に激痛が走り、ハルトは情けない声を上げてベッドに沈んだ。
「いっだぁぁぁ!!」
「こら、無理しちゃダメ」
低く落ち着いた声なのに、やたらと甘い。
「あなた、背中……かなり深かったのよ?」
目を凝らすと、そこにいたのは――
でかい。
身長はゆうに二メートル近く。
肩幅はドアより広そうで、腕は丸太。
それでいて、笑顔はやけに華やかで、首元にはカラフルなネックレス。
「……だ、誰……?」
「改めまして」
男は胸に手を当て、優雅に一礼した。
「アタシはマリアス。僧侶で、治癒術の使い手よ」
「……僧侶?」
「ええ」
にっこりと微笑む。
「そして――あなたが命がけで、アタシを助けてくれたのよ」
記憶が、断片的につながる。
魔物。広場。飛び出した自分。背中の衝撃。
そしてぼんやりと残る、巨体の男による治癒術。
「……生きてるのは……あんたのおかげか」
「そういうこと♡」
その瞬間。
「応急処置はしたんだけど、まだ痛みが残ってるみたいだから、治療、続けるわね」
「え、ちょ――」
マリアスの大きな手が、背中に触れた。
「――ひゃっ!?」
「ここ、まだ魔力が乱れてる」
指が肩から背骨、腰へと滑る。
「どこが一番痛む? ここ?」
「いや、そこじゃなくて! ていうか近い!!」
(やばい……!
なんて絶妙な指使い……
俺、今――貞操の危機!?)
「安心して」
低く囁かれる。
「アタシ、治療は徹底主義なの。全身くまなくチェックしてあげるから、安心してね♡」
「安心要素が一個もねぇ!!」
その様子を、ベッドの向こうから鋭い視線が射抜いた。
「……僧侶」
ライオネルの赤い瞳が、明らかに燃えている。
「治療と称して、触りすぎではないか?」
「同感だ」
ゼノも腕を組み、冷ややかに言った。
「ハルトは嫌がっている」
「え~?」
マリアスは余裕たっぷりに首を傾げる。
「でも、これも治療なのよ?」
するり、と手が滑り込んでくる。
「そこは大丈夫だから……!!」
「ぶわっははははははは!!」
空中から爆笑が降ってきた。
「なにこれ、最高」
ミカエルが腹を抱えて転げ回る。
「マジで、どっからどう見ても
筋肉僧侶にセクハラされるへっぽこ勇者で、
腹筋がまじで壊れそう」
「ミカエル! 笑ってないで助けろよ!!」
「無理無理。
今のハルト、完全に“捕獲済み”だし」
「捕獲言うなぁ!!」
ようやくマリアスは手を離し、満足そうに頷いた。
「うん、もう大丈夫」
胸を張る。
「あなたの怪我、命に関わるレベルだったけど――
アタシの治癒で全快よ」
実際、痛みは嘘のように消えていた。
「……すげぇな」
「でしょ?」
マリアスは誇らしげに笑う。
「アタシ、決めたの。
アタシを命がけで守ってくれたあなたのこと、絶対に守るって」
その言葉に、空気が張り詰める。
「……友達として、だな?」
ライオネルが低く確認する。
「もちろん」
即答。
ハルト、ライオネル、ゼノが一瞬安堵し、ミカエルだけが不満げな顔をする。
「それ以上は、これから♡」
「却下だ」
「認めない」
「未来が地獄すぎる」
三方向から同時に拒否され、
「ふふ、燃えてるわねぇ」
マリアスはむしろ楽しそうだった。
何か考えるような顔でやり取りを見ていたミカエルが口を開いた。
「俺たちでパーティ組むのはどうだ?
今、戦力的にバランス良いなと思ってさ」
指折り数える。
「前衛の剣士・後衛の弓使い・治癒術使いの僧侶・愛され役ヒロイン、
そして指南役兼戦闘支援ができる超美形天使の俺様」
「おいヒロインって俺のことか!?」
ハルトは深く息を吸った。
「……正直、突っ込みどころは多いし、なりゆきに振り回されてるけど」
仲間を見回す。
「でも、ミカエルの言う通り、バランスはいい。
みんな、どう思う?」
「……僕は、ハルトと一緒ならどこへでも」
ゼノが小さく頷く。
「うむ。俺もハルトのためなら何でもできる」
ライオネルは剣に手を当て、誓うように言った。
「我が命、ハルトのために」
「うふ、決まりね♡」
マリアスが笑顔で腕を回す。
「じゃあ今日から――」
「ちょ、近い!!」
ミカエルが拍手する。
「はい、"メンバー関係ぎすぎすパーティ”結成~!
いやぁ、ハルトの貞操が心配だわ」
「俺もだよ……」
こうして。
剣士ライオネル。
弓使いゼノ。
治癒術使いの僧侶マリアス。
自称勇者でありながらヒロインのハルト。
戦闘支援役でありながら指南役を担う天使ミカエル。
――一筋縄ではいかない冒険が、今、始まった。
(異世界で頼れる仲間たちとの冒険、く~めっちゃワクワクする……!
でも魔物より人間関係のほうが危険なんじゃ……)
その予感は、きっと――正しい。




