街に現れた魔物!?
朝からひと悶着あったが、四人は朝ごはんを食べに外へ出ることにした。
廊下に出た瞬間、宿屋の主人が満面の笑みで出迎える。
「おはようございます皆さん。昨夜はずいぶんと……お愉しみでしたねぇ」
「えっ……いやいや違うんですって!」
「ふふっ、……それでは行ってらっしゃい。……次はぜひ――私も参加させてください(ボソッ)」
宿屋の主人の物騒な呟きは、幸か不幸か、誰の耳にも入らなかった。
外に出ると、通りがざわついている。
露店は軒並み閉まり、人々が慌てて走り回っていた。
「なんか、街の様子おかしくない?」
「うむ……空気が騒がしいな」
そこへ、息を切らせた衛兵が叫んだ。
「魔物だ! 魔物が城下に侵入したぞ!」
その言葉を聞いた瞬間――
ライオネルとゼノが同時に目を見開き、背筋を伸ばした。
「なにっ!? 魔物だと!」
「行くぞ、ライオネル!」
二人は息を合わせ、疾風のように駆け出した。
「お、おい! お前ら、早すぎ!!」
ハルトは足をもつれさせながら後を追う。
「朝っぱらから元気すぎんね~」
ミカエルは羽をバサバサ揺らしながら、ハルトに合わせてプカプカついてくる。
広場に着くと、人だかりの向こうで巨大な影がうごめいていた。
黒紫の毛並みに牙、腕のような爪。
暴れるたびに石畳が割れ、屋台が吹き飛んでいく。
「こいつ……グレムバスか!」
ライオネルの赤髪が陽光に燃え、剣を構える姿はまさに戦士そのもの。
「来るぞ!」
ゼノが弓を構え、二人は同時に飛び出した。
炎の刃が閃き、弓矢が閃光を描く。
二人の攻撃が交差し、魔物は咆哮を上げてのけぞった。
「すげぇ……」
ハルトは思わず見とれた。
(これ……ゲームじゃなくて現実なんだよな……)
その瞬間、脳裏に不埒な考えがよぎる。
(ここで俺も活躍すれば……女の子にモテるかも!?)
が、次の瞬間。
「――剣、持ってきてねぇぇええええ!!!」
ハルトは自分の腰を見て絶望した。
ただ見守るしかない。
そう思った矢先、魔物が暴れ、群衆の方へ跳んだ。
「危ないっ!!」
ハルトは反射的に飛び込み、見物客を押し倒すように庇った。
直後、背中に重い衝撃。
「がっ――!!!」
痛みが走り、視界がぐらつく。
「ハルト!!!」
「ハルトッ!!!」
ライオネルとゼノの声が同時に響いた。
二人の瞳が怒りに燃える。
「よくも……我が仲間を!」
「許さない!」
ライオネルの炎が轟き、ゼノの弓矢が閃光を放つ。
――そして、魔物は崩れ落ちた。
広場に、静寂が訪れる。
「ハルト! しっかりしろ!」
「いってぇ……これ、マジでヤバいって……!」
ミカエルがひょいと覗き込み、呑気に言った。
「うわ、痛そう。けど初めて勇者らしいとこ見れたわ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
ゼノが怒鳴り、ライオネルが周囲に叫ぶ。
「誰か! 医者はいないのか!?」
その時――
「まっかせてちょーだい♪」
聞き慣れぬ艶っぽい声が響いた。
かばわれた見物客が、むくりと起き上がる。
見ると、二メートル近い大男。
陽光を浴びて筋肉が金属のように光り、首にはカラフルなネックレス。
しかし、仕草はやけに優雅だった。
「アタシ、マリアス。僧侶よ。治癒術が使えるの。ちょっと動かないでね~」
マリアスは腰に手を当て、杖を掲げた。
柔らかな光がハルトの背に広がり、じんわりと温もりがしみてくる。
(……助かった……よかった……)
安堵とともに、まぶたが重くなっていく。
マリアスは微笑み、ハルトの頬をそっと撫でた。
「……あなたは命の恩人よ。
一生かけて、アタシが幸せにしてあげるからね――ダーリン♡」
ハルトの最後の記憶は、
朝日に輝くマリアスの笑顔と、
どう見ても人間離れした分厚い胸筋だった。




