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1話"カフェバーcrocus"

原作「カキツバタ」1話(Scratch)

https://scratch.mit.edu/projects/804415090/


原作「カキツバタ」スタジオ(Scratch)

https://scratch.mit.edu/studios/32799593

 これはどこで、何が起きているのか。


 走っている。ただ無我夢中で走っている。


 心が恐ろしさから逃げるように、走っている。それは本能的に感じる。


 もちろん何が何だかわからない。けど、走らなくちゃならない。はっきりしない視界と目的を頼りに、とにかく我夢者羅(がむしゃら)に駆けていく。


 そして―――



「......っ」


 少女の視界に飛び込んできたのは、自分の部屋に置かれた一輪のカキツバタの花だった。


「...夢...?」


 そうか。あれは「悪夢」という(たぐい)の夢だったのだ。脳がやっと理解し、その事実を受け止め、無意識的に思い出す。すると、信じられない速度で彼女を襲ったのは吐き気だった。


「うっ...きもち...わるい...」


 この後のことは、詳しく覚えていない。いや、思い出したくないだけかもしれない。


―――


 物静かな雰囲気を醸し出しているカフェ。否、カフェバー。その店のカウンター席には、クリーム色の髪をツインテールにした半獣の少女が一人。


「なるほど...?つまり~、ないとちゃんは今朝、悪夢見て吐いたから顔色が悪い、と?」


 彼女の名は犬束(いぬづか)マキ。犬の獣耳は左側だけ垂れており、服装は学校の制服だった。心配と少しの呆れを浮かべるマキの目は深い青色で、カウンターの向こう側の少女をまっすぐ見つめていた。


「あはは...。うん、まぁ、そんな感じかな?」


 カウンターの反対側、苦笑いを浮かべながら返事をするのは、これまた半獣の少女。河坂(かわさか)ないとである。長く降ろされた茶色の髪には青い部分が少しあり、川獺(かわうそ)の獣耳がついている。


「でも大丈夫よ。今は元気だし」

「ウチは今が元気とかいう問題じゃないと思うけどなぁ」


 ないとが笑みを浮かべると、マキはため息をついてそう言った。頬杖をつくと、彼女のツインテールが揺れる。それをないとは無意識的に見ていた。


「まぁ、いいや。ないとちゃん、何言ったってどうせ聞かないもん。この前だってウチが言ったの無視してぶっ倒れたじゃん。そこら辺の女子高校生の言葉だからって、本気にしてないんじゃないの?」

「そんな事はないってば…。あの時はやらなきゃいけない事がいっぱいあったの」


 ないとの弁解と困ったような笑顔を同時に受け止めたマキは、またため息をついた。諦め半分、心配半分から漏れ出たため息だった。


「それは確かにそうだけどさぁ...。とにかく、無理はしすぎんなって事だよ」


 マキはココアを啜る。するとマキの表情は、頭からピコっと「!」が出ているような、そんな表情に変わった。何を思い出したのか、16歳らしい目の輝きを見せつけるように、カウンターに身を乗り出し、「あ!でもさ!」と叫ぶ。ないとは思わず体を引いてしまった。驚きが顔に出ている。


「ハルっちが言えば聞くじゃん!あれはなんでよ?」


 まさに興味津々。そんな様子のマキを見て、ないとは呆困ったような表情を見せる。互いに相手の感情を表情から読み取った後、ないとは答えた。


「マキちゃん、なんか勘違いしてない?私とハルは親友なだけ。ハルの言う事聞くのは...私がちょっと体調崩すと血相変えて飛んでくるから...」


 聞き捨てならない追加情報に、マキは少し驚き表情を変える。そして、話の途中もおかまいなしに、ないとに向けて追撃を加えた。


「え、まじ?もうそれ彼氏も同然って感じじゃん!」


 ないとは肩をすくめた。どうやら追撃の効果は薄いらしい。


 そこら辺の女子高校生はこういうことしか考えていないのだろうか。「ハルっち女だけど、恋人とか彼女って感じじゃない。あいつは絶対彼氏」と早口で妄想を広げ始めるマキに対して、ないとはやはり苦笑いを浮かべるしかなかった。否定する気はないけれど、それがなぜ妄想に繋がるのかは理解が追い付かない。


「あなたは何が言いたいんだか...。たしかにハルはかっこいいけど...ね?」


 ないとが続けようとしたところで、店のドアにつけてある鈴が鳴った。視線を向けると、誰が来たかはすぐに分かる。


「おっ、噂をすれば。いらっしゃい。ハル」


 そこ立っていたのは、皆葉(みなば)ハルその人だ。勤め先のカジノのディーラーの服装をしている。ないとの出迎えに「おう」と答え、マキと席を一つ飛ばして座った。


「ないと、カフェラテ一杯くれるか?」

「おっけ~。カフェラテね」


 ないとの返事を聞くと、ハルの眉が下がった。何か違和感がある、そう感じたのだ。そしてその違和感について切り出した。


「おい、その顔、朝なんかあっただろ。何があった?」

「あ~...。いや、特になにも...。」


 嘘だとわかった。ないとの言葉の真偽は、本人の顔を見るとすぐにわかる。言及しようとすると、マキが先に口を開いた。


「悪夢見て吐いたんだってさ。ウチが休めって言っても聞かないんだよね。ハルっちから言ってやってよ」

「なるほどな..。だろうと思ったよ」


 ハルはため息をついて下を向いた。数秒の時間が過ぎると、ハルは腕を組み直し、顔を上げる。オレンジ色の髪の間から、ないとを見つめた。


「ないと?あれほど言ったのになぜアタシに連絡してくれなかったんだ?」

「連絡...?」


 マキが聞いた。


「前に色々あってな。それ以来心配で、何かあったら何時だとしても連絡しろと言い聞かせたんだが...」


 ハルはそう答えると、ないとの方へ向いた。ないとは明らかに焦っている。


「で、ないと?連絡は?」

「えっと...ハルに..迷惑かけたくなくてですね...」


 ないとの青い目はあっちこっちに泳いでいる。


「あっそうだ!カフェラテいれてこなきゃね!」


 「いれてくるー」と言いながら、ないとが裏にすっ飛んで行くと、ハルはまたため息をついた。「カフェバーcrocus」の店内にはため息が充満している。


「まったく...。昔からあいつは...」


 そう言うと、マキもため息をついた。店内のため息の濃度が上がる。


「まぁ、ないとちゃんはなかなか難しいと思うよー?ハルっちに迷惑かけないっていうのを一番気にしてるみたいだしね」

「んなこと気にしねぇのにな。せめてアタシといるときぐらい、もっと気楽にいてくれりゃあいいんだけど」


 ハルの愚痴を聞いて、マキは口を尖らせて言った。


「ハルっち完全にないとちゃんの彼氏じゃん。もう付き合いなよ....」


 おもむろに発せられたワードに、ハルの顔はみるみる真っ赤になった。それを否定するようにハルは叫ぶ。


「なっ!?んな訳ねぇだろ!誰があいつとなんか...」


 と、そこまで言うと、言葉を詰まらせてしまった。マキはニヤニヤしている。


「ただ単に唯一の友人だから死なれちゃ困るだけだ」


 少し早口で述べられたハルの弁明を、マキは変わらずニヤニヤして聞いていた。


「ははっ。照れてやんの。ま、これ以上言ったら私がぶっ飛ばされそうだから言わないでおくね~」

「マキ..おまえはアタシをなんだと思ってんだか」


 手をヒラヒラとさせるマキを見て、ハルがまたまたため息をつく。ため息の濃度が上がったカウンターに、カップを持ったないとが出てきた。


「二人仲いいねぇ。前はハルが嫌がってたのに。ほい。カフェラテできたよ~」

「さんきゅ」


 カフェラテを冷ますハルを見て、ないとは聞いた。


「てか、ハルがこんな昼に外歩いてるなんて珍しいね。今日カジノ定休日じゃなかったっけ?」

「あ」

「ハルっち....もしかして日にち間違えた?」


 マキがまたニヤけて指摘すると、ないとは弾けんばかりの笑顔で笑い声を上げた。


「あはははっ!ハルも私の事言えないじゃない」

「うるせぇ。黙れ。散歩だ、散歩」

「ハル...引きこもりゲーマーの言い訳にそれは無理があると思うよ...?」


 ぶっきらぼうになったハルをなだめようとすると、ドアの鈴が鳴った。


「あ、お客さんだ。いらっしゃいま...って」


 そこには、犬の獣人が立っていた。


「ジンさんじゃないですか!?カフェ営業の時間に来るなんて珍しい...」

「やぁ。ないと君にハル君...」


 ジンと呼ばれた男は、目を見開いた。その目は、マキを見ていた。


「に、マキ!?」

「げっ、パパ!?なんでここに...?」


 ジン。本名を犬束(いぬづか)ジンという。同じ方の耳が垂れている親子は、互いに互いの驚いた顔を見ていた。


「俺が聞きたいよ...。まさか娘が学校サボってカフェでくつろいでる、なんて思わないだろう」

「えっ、今日ってマキちゃんの学校、臨時休校なんじゃ...」

「マキ、お前...」


 マキの額から汗が吹き出る。全てを白日の下に晒されたマキはダメ元で父親に掛け合った。が、


「えっと......たまには...ね?いいでしょ?パパ...?」

「はぁ...。マキ、後でパパから話がある。いいな?」


 さすがにダメだった。そこで、ツインテールの少女は一人に助けを求めた。


「えぇぇぇぇ...。ハルっち~助けてよぉ~」

「絶対に助けるもんか。こういうのを『自業自得』というんだぞ。覚えとけ」


 ハルが笑顔で却下すると、ないとが「まぁまぁ...」と場を和らげた。そこで、話を変えるため、気になっていたことについてジンに聞いた。


「それにしても、ジンさんどうしたんですか?まだカクテルは出せない時間ですよ?それともハルとポーカー?」


 ジンは話しだした。


「ないと君のは美味いからね。できる事なら頼みたかったかなぁ。はやくアルコールの入ったものを作れるようになって欲しいものだ。ハル君とのポーカーは勝てたためしが無いから遠慮しておくよ」


 そこまで言うと、ジンは思い出したように手を打った。


「って、そんな事はどうでもいいんだよ。今日は二人に、ないと君とハル君に伝言があって来たんだ。例の白衣の彼女からね」


 これを聞いて、二人はげっそりとした。


「うわぁ、嫌な予感しかしない」

「絶対行きたくねえ。素直に行ったら地獄見るだけだ」

「でも、いつもの馬鹿馬鹿しい実験のために、わざわざジンさんに伝言頼むかな?」


 ないとの言いように苦笑しながらも、ジンは言葉を続ける。


「その通り。なんだかとっても重要なことのためみたいなんだ。できるだけ早く行ってやってくれないかな?大分ソワソワしていたからね」

「それはちょっと心配ですね...。わかりました。わざわざありがとうございます、ジンさん」

「アタシもないとと同じ考えだ。ジンさん、ありがとうな」


 二人からの礼に、ジンは笑って答えた。


「ハハッ、いいんだよ。さて、俺はマキに話をするから先に失礼するね。また来るよ。さぁ、マキ。こっちに来なさい」


 ジンがそう言うと、マキは素直にジンの方へ向いた。


「はぁい...。あ、ないとちゃんココアありがとう!」

「うん。じゃあね~」


 店内の人数が半分に減ると、糸が解けたように空間の緊張が緩む。それに合わせて、ないとがおもむろに口を開いた。


「ふぅ。さて、準備しますか」

「おうよ。あ、その前に、今朝の話詳しく聞かせろ」

「えぇぇぇ~~~~??」


 柔らかい空気が満ちたカフェバーに、ないとの声が響いた。

編集後記(的な)

原作者の素晴らしい思いやりにより、

アニメ外にて一部設定を公開して下さっている。

それについては小説化に伴い盛り込み、

この小説版だけで物語が理解できるように努力する。

全体の感想だが、まず、キャラクターの説明が非常に難しいと感じた。

それにより、説明が非常に乱雑になっている。

キャラクターの姿を絵で知りたい方は、ぜひ原作を見てほしい。

そして、小説化のために原作を何回も見返した。

これは非常に楽しかった。改めて素晴らしい作品だと思った。

先に言うと、原作は全20話で構成されている。

それに対応するように、小説化を進めていきたい。

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