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8話:勇者、はじめての。

R15らしい展開

常に自信ありげな、勝気な佇まいの神咲薔薇(かんざきばら)アトリ。

この学園の生徒会長であり、正真正銘のお嬢様であった。


「ローズ姫様…なぜここに!?」


ヒサオミは机の教科書などを放り出し、すぐさま廊下へと駆けた。


4人のメイドと1人の赤髪男子生徒(以後、アトリ親衛隊とする)が身を乗り出し、アトリを守ろうとする。


そこでアトリは挑戦的な目をし、右手を横に出した。「お前たちは下がりなさい」の意味だ。


察した親衛隊は下がり、アトリの様子を見届けることにする。


駆け寄ったヒサオミは、あと数歩でアトリの目の前に来るほど近寄った。

158cmの自分よりも少し大きいアトリ。近くで見ても肌のシミひとつなくキメ細やかな肌が透き通るようで………などと思っている場合では無い。



ヒサオミはこの世界に来て以来、最大の驚きを隠せないでいたのだ。



「ローズ姫様……ローズ姫様ですよね!?なぜ…なぜ!?」


「あなたそれしか言えないの?みっともなくてよ」


アトリはフッと笑うと、ヒサオミはたじろいだ。



「ごめんなさい…しかし……私は…あなたを知っているんです…」


「そうね。わたくしも、あなたのことは知っているわよ」


「えっ…」



ヒサオミはアトリを知っている。

アトリもヒサオミを知っているというのだ。


周りの生徒は「なんだ?小競り合いか?」「よくわからんがアトリ様は美人」と適当に見ているようだった。


華蓮は「どうしようどうしよう」とひとり慌てており、ユイが落ち着かせている。


一方大山小山はソシャゲのデイリークエスト消化に励んでいた。



「どういう…意味ですか…ローズ姫様…」


「アトリ様」


「あ……アトリ様…」


「あら、言えるじゃない。良い子ね」



アトリはクスリと笑うと、少し屈んでヒサオミの耳に唇を近付ける。

そしてそっと、耳打ちした。




「今度こそ、あなたのたいせつなものを奪ってやるわ、勇者ヒサオミ」



「っ…!?」


優しくも恐怖を帯びた声色で、アトリはそう囁いた。ヒサオミ以外には聞こえないように。



「今日はご挨拶に来たまでよ。わたくし、暇じゃないの。では、ごきげんよう」


アトリは身を翻すと、親衛隊と共に再び足並み揃えて歩き去っていく。


アトリの美貌が見れて嬉しかった生徒たちはあっという間に帰宅したり部活動へ向かって行った。


廊下は、生徒や教師が向こうへあちらへ行き交ういつもの光景となる。


「…………そんな……」


ぺたり。

ヒサオミは廊下に、ひとり座り込んでしまった。

その手足は震えている。


教室の中から見ていた華蓮はヒサオミに駆け寄ろうとするが、ケンが顔を左右に振る。華蓮は放課後、いつも彼氏の部活動を応援しに行くのだ。こちらのことは気にせずに彼氏の元へ行け、というケンの優しさだった。


華蓮はひとこと「ごめんね」と言い残し、教室を去る。

ユイも家の手伝いがあるので、申し訳なさそうに教室を去った。



「五十嵐、今日『剣神』クエストできそうか?」


遠くの席で、小山が声をかけてくる。帰り支度をする小山と大山に対し、ケンは


「んー、わり。今日ゲームできなさそーだわ。また誘ってくれ」


後ろを向いたままそう言うと、大山小山は「おつかれー」と教室を去っていく。


ケンは廊下に向かい、ヒサオミの元へ寄る。黙ったまま、ヒサオミを立たせ、手を引き、教室に招き入れる。

ヒサオミは震える脚をどうにか動かし、歩いていった。

席にヒサオミを座らせると、ケンは念の為教室の窓やドアを閉めておいた。


ヒサオミは手足どころか、全身の震えが止まらない。さっきから言葉を発せない。


そこでケンは、「俺ので悪いけど…今更気にしないよな?」とお茶の入ったペットボトルを差し出した。


ヒサオミはふるふると頭を左右に振ったが、ケンは「いいから一旦飲んで落ち着け」と半強制的にお茶を飲ませる。


わずかにぬるい液体がヒサオミの喉元を通り抜けたあと、少し気が晴れた気がした。

ケンも隣に座り、ヒサオミの背中をポンポン撫でていく。


「ケン様…っ…」


いきなり声を出したヒサオミは、声が上擦った。


「急がなくていい。ゆっくり、な」


ヒサオミは少し涙目になりつつ、こくりと頷いた。ケンは、愛する女性が弱みを見せていることに耐えられず、席を立ち、座っているヒサオミを正面から抱きしめた。


やはり、ヒサオミの震えは止まらない。

こんなに密着してるのに、ドキドキや嬉しさを感じる余裕が無い。


俺が助けなきゃ、俺がどうにかしなくちゃ。

ヒサオミの悲しむ顔は見たくない。


そういった気持ちでいっぱいだった。


すると、ヒサオミも腕をケンの身体に伸ばし、背中に回す。お互い抱きしめ合う形になる。

身長差があまり無いので、ケンの顔のすぐ横にヒサオミの顔がある。

ヒサオミは顔を見られたくないのか、ケンの胸で俯いた。



「…泣いても、いいぞ」


「…泣きません、絶対……泣きません…」



だって、勇者ですから。



その声は、わずかに鼻がかった声だった。





夜。五十嵐邸。


風呂とご飯(作る気力がなかったのでインスタント)を済ませ、お互いひと段落したところ。


部活の応援も終わった華蓮もリビングにやってきて、3人で話すことになった。


「ヒサオミちゃん、大丈夫?私、別のとこ行っちゃってごめんね……ほんとごめんね…」


「いえ……こちらこそ、取り乱してしまい申し訳ございません…」


ヒサオミはパジャマ用のTシャツとハーフパンツ姿で謝った。


3人は適当な椅子に腰掛け、話をする。


「ヒサオミ、間近で見てよくわかっただろ?神咲薔薇(かんざきばら)アトリはやべー奴だってこと」


ケンが炭酸飲料を飲みつつそう言うと、


「はい…ある意味、とてつもない人物であることは確かです」


ヒサオミが頷いた。


「ところで、アトリ様が誰かに似ていたってどういうこと?」


「おい華蓮…!」


華蓮がサラっと質問を投げかけ、ケンが焦る。

今、ヒサオミの心を傷付けている真実だった。


しかし、勇者であるヒサオミは真実から目を背けない。


ケンと華蓮のふたりを眺めて、ヒサオミは声を発する。


神咲薔薇(かんざきばら)アトリ様のお姿が…私の大親友の姿そのものだったのです…」





順を追って説明すると、


ヒサオミのいた異世界全体が「レミュザード」。


その世界の一国「シャイン・ラルジュ王国」の勇者 兼 王女が「ヒサオミ」。


「シャイン・ラルジュ王国」と同盟を結んでいた隣国が「チャーム・マイン王国」。


その「チャーム・マイン王国」の姫が「ローズ姫」。


その「ローズ姫」と瓜二つな外見をしているのが「神咲薔薇(かんざきばら)アトリ」。


というわけである。


ヒサオミ曰く、他人の空似の話ではなく、「ローズ姫のコピー、クローンと言っていいほどそっくり」なのだという。目付きや喋り方は違うが、髪や目の色、声までも同じだそうだ。


更に、ローズ姫は穏やかで、毎日花壇に水魔法をかけるほど心優しい女の子だったという。


勇者になるための特訓を続けていたヒサオミに励ましの言葉をくれたり、辛い出来事があった時は嘆き事も聞き入れてくれた。「わたし、なにもしてあげられないけど、ヒサオミのことずっと応援してるわよ」と、頭を撫でてくれた。


またある日は、全身血まみれになってチャーム・マインの城下町に訪れたヒサオミを出迎えるなり、従者たちにヒサオミの手当をするよう手配し、とにかくヒサオミの無事を願うローズ姫がいたらしい。



ヒサオミ勇者一行が本格的に魔王討伐に向かう日も、ローズ姫はわざわざシャイン・ラルジュ王国までやって来て「生きて帰ってきて!絶対!」と大泣きで見送りに来た。


勇者ヒサオミは、魔王討伐まで絶対に泣かない。


しかし、ローズ姫の熱い気持ちを受け取った時は思わず涙目になったのを今でも覚えている。


お互いがお互いを想い合った、友達以上の関係性であったのだ。


そのような過去がありながら…

ローズ姫そっくりのアトリが現れ、尚且つ高飛車な態度を取られ、衝撃的な言葉を囁かれたのだ。


『今度こそ、あなたのたいせつなものを奪ってやるわ、勇者ヒサオミ』


ヒサオミは念の為、耳元で囁かれたこの言葉はふたりに伝えず、胸に秘めることにした。

ふたりをこれ以上心配させたくない。


ローズ姫についての話が一通り終わったところで、ケンが疑問に思う。


「まさかそのローズ姫ってのも現代日本に転移してきたんじゃないか?」


「いえ……異世界転移の魔法はかなり高度な最高禁断魔術。それこそ、魔王クラスにしか扱えません。戦士ではなかったローズ姫が魔王と対峙したはずもありません」


「そっか……まあそうだよね…」


華蓮も、わからないなりに異世界について考える。

それに対してケンが。


「でもよ、どう見ても神咲薔薇アトリの見た目がローズ姫なんだろ?ローズ姫がこっちに来たとしか考えられねえよ。記憶喪失になって高飛車の性格になったとかじゃないか?」


「いいえ…その理論でも、やはり異世界を越える必要があります」


あーそうか…とケンは腕を組む。

華蓮は、解決できそうにないのを悟り、少し話題を変更する。


「あのねあのね、そもそもアトリ様、どうしてヒサオミちゃんのこと知ってたのかな?」


それに関してケンが冷静に返す。


「単純に、転入手続きの時の書類でわかってたってことじゃねえのか?」


「あ、そういえばそうか……写真も貼っておいたし…そっか、そうだね…」


その点で行くと、書類上ではあるものの「ヒサオミを知っている」という事には当てはまる。高飛車なアトリは、相手より強く出るために強い態度を取ったとも考えられる。


「……」



しかしヒサオミ本人は黙っていた。

そう、ヒサオミには不思議に思う点が更にあったのだ。


(どうして私が「勇者」だとわかっていたのでしょうか…)



ヒサオミが勇者であることは、ケンと華蓮しか知らない。ショッピングモール事件では、結果的に映画の撮影として拡散され、もう話題にもなっていない。


…リビングが、しん、と静まる。


そこで華蓮が立ち上がり、鞄を肩にかける。


「時間だし、そろそろ帰るね」


「おう、おやすみ」


「おやすみなさい、華蓮様」


華蓮はそのまま、五十嵐邸を去っていく。


「じゃあ俺たちも寝るか」


ケンは立ち上がり、ヒサオミをケンの部屋へ連れていく。


まだまだ掃除の行き届いていない五十嵐邸は、相変わらずケンの部屋とリビングしか機能していない。


ヒサオミをベッドに座らせると、ケンが身を翻し、リビングへ行こうとするが…


グイ、と服を引っ張られる。


「ん?」


「あの…」


ヒサオミは少し俯いて、顔を赤くしたまま。


「あ、夜のキスまだだっけ」


「それもです、けど、お願いがあるんです…」


ヒサオミは口をもごもごさせ、その後、はっきりと言い切る。


「今夜は、一緒に…寝ませんか…」


「………は?」



ケンが振り向くと、ヒサオミはかなり顔を赤くしていた。


「違うんです!あの…私から誘っておいて申し訳ないんですけど……寝ると言っても…『眠る』の意味、ですから…」


それを聞いたケンはホッと安心し、ゆっくり頷いた。


「いいぞ。俺のベッド狭いけど、いいか?」


「はい…今夜は……ひとりだと寂しくて…」





ケンの部屋。

電気を消し、お互いベッドに横たわる。しかしやはり、1人用のベッドにふたり寝るには狭く、お互い身を縮めなければならなかった。


ヒサオミが壁側、ケンが手前で横たわっている。

眠る前に、夜の魔力供給ということで、ベッドの上で唇を重ねた。ふたりの間にピンク色の光が浮かび始める。

キスをする。

キスをする。

キス…を……


(なんか……なんかなんか、長い!)


普段なら1秒も経たずに終わるキスが、今回は10秒近く経過している。これ以上はまずいと思ったケンが口を離そうとすると、ヒサオミが追いかけて口を塞ぎ続ける。2人のあいだのピンク色の光もまだ絶えず光り続けている。


「ん……ふ……」


ヒサオミは夢中になっているようだった。

ケンは今までのキスでは感じられなかった甘さを強く感じる。頭がクラクラしそうになる。


「だあーっ!」


我慢ならなくなったケンはガバッと起き上がり、強制的にヒサオミから離れる。そのため、ピンク色の光も消えてしまった。


「も、もう魔力供給できただろ!?」


「はい…いっぱい…できました。ありがとう…ございます」


ヒサオミはそう言うと、ケンに背を向け(壁側に顔を向けて)寝る体勢に入る。


眠ろうとするヒサオミと対照的に、ケンの胸の鼓動はドキドキと高鳴りっぱなしだ。

あんなに長くて甘いキスはしたことがない。

ヒサオミはなぜあんなことをしたのか?

少しは自分を受け入れてくれているのか?


年頃のケンは、このまま自分を抑えることができず……横たわるヒサオミを後ろから抱きしめた。


「ケン様?」


眠ろうとしていたヒサオミは少し驚くが、ケンは黙ったまま更に密着する。


お互い、パジャマ同士。


薄い生地越しにお互いの体温が伝わる。


ケンはヒサオミの髪を掻き分け、うなじに軽く息を吹きかける。


「…っ!?なに、を……」


「ごめん……我慢できそうに、ない…」


更にケンは、寝そべったまま両腕をヒサオミの正面に回し、脚や腹を撫でていく。


「ケン様……だめぇ…」


ヒサオミは本気で嫌がるでもなく、少し吐息がかった声を漏らした。


「ヒサオミ、かわいいよ……なにがあっても…俺が傍にいるから…」


ケンはそのまま、両腕を上へ運ぶ。

ヒサオミのわずかに膨らんだ胸を、優しく撫でた。


「っあ……だめ……」


パジャマ姿ということで、ノーブラ状態のそこは、よく触ってみるとツンと張り詰める突起の存在が。


(やば…こんなんほぼ生乳だろ…)


ケンは夢中で、胸を撫で、服越しに軽く揉む。


「だめ……やめて……」


「嫌か…?」


「………小さいから触っても楽しくないですよ………」


ヒサオミがそう囁くと、ケンは「はあ」とため息をつく。


「小さくてもヒサオミのおっぱいだから、俺は好き」


ケンは、エロ漫画などで得た知識をフル活用し、優しく胸の先端を責めていく。指先でくりくりとこねるように。


「あっ………んん……」


服越しでもわかる。胸の突起が硬くなり、主張が強くなっていることに。


ケンは興奮し、また胸をぷにゅぷにゅと揉み続ける。


「好きだ……ヒサオミ……お前の全部…好きだ……」


「ケン様…あっん♡……胸ばっかり…♡なんだか…えっちです……ん…♡」


「服越しでもこんなに…勃つんだな……すげー敏感っ♡…エロいよ、ヒサオミ……!」


「そんな……誰にもここまで触られたことないのに…♡ひ、あっ♡あああああっ!」



胸を揉みつつ、突起に刺激を与え続けるとヒサオミが悲鳴のような声を上げる。


おそらく絶頂したのだ。


すると…


ピカッ!!


部屋の照明が壊れたような、眩しい光が迸った。もちろん、ヒサオミとケンの間に出来たピンク色の光だった。

今までキスでピンク色の光は出ていたが、ここまで眩しく輝いた光は初めてだった。


ケンは驚き、ベッドから起き上がって照明をつけてみる。


ヒサオミは少し乱れた髪を背中に流し、むくりと身を起こした。


「ケン様……私…私…!」


ヒサオミの顔はリンゴのように真っ赤で、こちらを見つめていた。

ケンはそれ以上に顔を赤らめている。


「ヒサオミ…」


ヒサオミはスタッと立ち上がり、部屋を出ようとした。


「ど、どうした!?」


「なんだか、魔力がいっぱいで!!眠るなんてとんでもない!動きたくて仕方ないんです!モンスター狩……ることはできないので……ちょっと走ってきます!!!!」


ヒサオミは昼間の弱気な姿が嘘のように、一目散に部屋を出て行った。運動用のジャージに着替え、あっという間に家を出ていく。


「お、おい……あんま遠く行く…な……よ?」


置いてけぼりにされたケンは、先程の興奮も落ち着き、一旦ベッドに座ったが…。


「うん、やっぱ今日もリビングで寝よう」



先程の行為を思い出してまた興奮しそうだったので、リビングで『己を鎮めてから』眠るのだった。


ちなみに、ヒサオミは夜0時から3時まで全速力で地元を走り回り、200km近く走ってから五十嵐邸で眠りについたそうだった。


勇者の力、恐るべし。




8話:勇者、はじめての。



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