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7話:ゆかいな仲間と女王登場

ヒサオミが登校するようになってから、1週間が経った。なんとか勇者であることは隠し通し、無事過ごせたようだった。(もちろん、定期的なキスは欠かさない。)


ちなみに五十嵐(いがらし)家での過ごし方は、相変わらずケンの自室でヒサオミが寝て、ケンはリビングのソファや床で寝る生活が続いていた。大型連休の時に空いている部屋の掃除をしよう、とケンは心に決めた。


高校生活において、異世界人であるヒサオミは、日本での勉強が全く理解出来ず困ってしまった。特に理解不能なのが歴史だ。異世界の歴史が自分の中の歴史なので、日本だのアメリカだの過去の話をされてもヒサオミにはちんぷんかんぷん。



その他の科目はなんとかなったが…女子体育の時間ですごいことをしてしまった。


「勇者であることを悟られないようにする」ことを頭に置いてあったはずが、50メートル走で前人未到の「2秒」を記録してしまったのだ。


棒高跳びではハードルより更に更に高く飛びすぎたり、砲丸投げで投げた砲丸がはるか遠くに飛んで見つからなかったり(※海外ニュースによると、フランスに砲丸が飛んできたようだがけが人は無し)



「あれ…私、なにかしちゃいました?」


勇者であるスーパー超人っぷりを発揮してしまい、同じ体育を受けている女子生徒から囲まれて質問攻め。


華蓮だけは事情を知っているので、頭を抱えつつ「たまたまだよ~」「ちょっと腕の調子良かっただけだよ~ね、ヒサオミちゃん?」と無理矢理フォローを入れる。


しかし女子高生の興味は衰えることなく、特に運動部の生徒はヒサオミのスカウトに殺到した。


「陸上部入らない!?」

「テニス部どう!?」

「バスケも出来るよね!?」

「サッカーやろうぜ!」

「バレーでしょ!?」



ヒサオミはありとあらゆる勧誘にあたふたし、しかも控えめな性格的にキッパリ断ることが出来ずにいた。


華蓮もこれ以上はフォロー出来ないとヒサオミに頭を下げたところで…



「おーい」


向こうから銀髪褐色の男が片手を上げて小走りしてくる。


五十嵐(いがらし)ケンだ。男子の体育が終わって迎えに来たようだ。



「ケン様…!」


ヒサオミは太い眉を八の字にさせて、ケンに向かって腕を伸ばす。


ケンはその手を取り、ヒサオミを引き寄せ、密着する形を取る。

そして、群がる女子生徒にひとこと。


「ヒサオミは忙しいから部活はしないぞ。じゃあな」



ケンはヒサオミと共に早歩きで校舎に向かっていく。


「横からなんなの!?あいつ!」

「チビ五十嵐!」

「ばーか!」


運動部女子たちのブーイングの嵐に、華蓮は呆れてしまうのだった。





…というようなことはあったものの、他は特に大きな進展もなく。

一般的な高校生として過ごしていた。


特にヒサオミに大きな変化を見せたのが、もうひとりのクラスメイト「佐々木ユイ」と仲良くなったことだ。


ユイは前髪を横に流したセミロングの黒髪で、身長はやや小柄。ヒサオミほどではないが控えめな性格をした心優しい女の子だ。

日直が一緒になったことで仲を深めたようだった。



水曜日の朝、教室にて。



そのユイが、ヒサオミの席へやってきた。


「ヒサちゃんおはよ~」


「おはようございます、ユイ様」


ユイは眠そうにあくびをしており、ヒサオミがふふっと微笑む。

そこから宿題はしたかどうかの確認から、ユイが飼っている犬の話題になり、スマホの写真を見せて「かわいい」というやり取りをしてきゃっきゃと盛り上がる。

そこに華蓮も仲間入りし(華蓮とユイはクラスメイト程度の仲だったが、ヒサオミのお陰で仲良くなったようだ)、女子トークに華を咲かせる。


華蓮はもちろん、彼氏の惚気トーク多めだ。ヒサオミは「素晴らしい部長様です…」と毎回感動し、ユイも「いいなー彼氏いいなー」と相槌をうつ。



…のを、ケンは離れた席から眺めていた。


(ヒサオミ、だいぶ日常生活に慣れたみたいでよかった)


ケンは色々と心配だったのだ。異世界から来た勇者が、日本に馴染めるのか。控えめで繊細なヒサオミが、健やかに過ごせるのかを。

毎度のキスと勇者の超人パワー以外は、ごく普通の女の子として生活出来ているようだった。


「おい、聞いてんのか五十嵐!」


「んあ?」


ケンは肩を大きく揺さぶられて気付いた。そう、目の前には男子生徒ふたりがいる。

ひとりは、ケンより背が低い男である「小山(こやま)」だ。もうひとりは、大柄な「大山(おおやま)」。なんてわかりやすい名前なのだろう。


その大山小山のふたりとケンはクラスメイトであり、ゲーム仲間だ。


ケンの肩を揺さぶったのは、小柄な方の小山だ。長い前髪で片目を隠し、姿勢もあまり正しくない。いわゆる「陰キャ」である。


「最近五十嵐反応悪いよなあ」


小山は机に腰掛け、そう言った。


「そうか?」


同じく机に軽く腰掛けていたケン。


その席の主である大山が声を上げる。


「そうだね。おそらく、光田(ひかりだ)さんが来てから変わったのかな。…っておい、僕の机に乗るなと毎回言っているだろう」


大山はクイッとメガネを上げる仕草をし、横向きのスマホ片手にそう言った。スマホ画面にはゲームアプリが立ち上がっており、ガチャリザルトが表示されていた。「くそっ……2万入れてすり抜けとは…」と小さく嘆いている。


大山の注意を受け、机から身を起こすケンと、気にせず乗りかかる小山。

その小山が少し目を鋭くして、


光田(ひかりだ)とかいう赤髪美少女と毎日チュッチュチュッチュしやがって……どういう神経してるんだよ!エロゲか?お前はエロゲの主人公なのか?」


「落ち着けって。俺だって…まだ慣れてないんだ、キスするの…」


ケンが小さめの声でそう言うと、ふたりは目を見開く。

ゲームのガチャに絶望した大山はスマホをポケットにしまうと、右手を眼鏡に添えて言う。



「五十嵐…朝からこんな話をするのも何だが……まだ…していないのか?」


「いや、キスは…してるけど」


小山はチラリとヒサオミの顔を見て、再度ケンを見た。


「お前な~~~っカマトトぶってるんじゃないぞ…!わかるだろ!エッチだよ!セックスだよぉ!」


「エッ……おい小山、直接的な表現を教室でするんじゃない…!下品にもほどがある…!」


やんややんやと騒ぐ小山に、焦りながら大山が諭した。

ケンは右手の人差し指を立て、口元へ。静かにしろの合図だ。そして、再び小さめの声で言う。


「…ヒサオミは確かに俺の未来の嫁だ。決定事項だ。でもな、それ以上のことは結婚してからだし、ヒサオミの気持ちも大事だろ」


小山が呆れたように、両手を頭の後ろに置く。


「お前本当に男子高校生かぁ?ヤリたくてたまんねー年頃だろうに…」


「おい小山…!だから下品だぞ!」


大山がまた小山を止めようとすると、予鈴が鳴った。


そして、ダルそうな風体の男性がガラリと教室のドアを開く。



「はあ~~~、はいはい、ホームルームですよっと」


いつもダルそうな藤野先生がやってきて、教室に点在していた生徒たちがぱたぱたと自分の席に戻る。


ケンも自分の席に戻る。もちろん隣の席にはヒサオミが。


「ケン様、本日も、よろしくお願いいたしますね♪」


そこにはごきげんな、まぶしい笑顔が咲いた。



(ああ…かわいい……)


家でも学校でも未来の嫁(仮)と共にいられる喜びを噛み締めるケンであった。



(やっぱ女の子って、笑ってる顔が1番良いな…)




キーンコーン…


今日の授業の終わりを知らせるチャイムがようやく鳴る。



「あー、今日のねえ、76ページのねえ、1行目から2行目を復習しててねえ」


よぼよぼの年老いた歴史教師が雑な宿題を出して、教室からとぼとぼ去っていく。

勉強全般が得意でないケンはもちろん、歴史がわからないヒサオミは、眠気がすごく、2人揃ってあくびしてしまう。


すると、担任の藤野先生が現れて「報告特に無し解散」と言い放ち帰りのホームルームが秒で終わっていく。

そして待ちに待った放課後が訪れたが、何やら教室内がざわざわし始める。


華蓮がこちらに寄ってきて、「見て!」と廊下を指差した、その先には…。


6人組の謎の集団がスタスタと廊下を歩いていた。


うち、4人が女子生徒で、皆、清楚ながらも美しい容姿をしていた。服装はフリルがたっぷり使われた白いエプロンに、黒い独自の服。いわゆるメイド服だ。歩き方も行儀良く、育ちの良さが伺える。


そこで、4人のメイドたちに囲まれるように歩く唯一の男子生徒がいた。赤い短髪、緑の瞳を持つ男。更にその男の隣を堂々と歩く者がひとりいた。


「ヒサオミちゃん、あの人だよ…」


「え…?」


華蓮がそういうと、ヒサオミは目を見張った。


コツン、コツン。


美しい靴音が響く。


その者は見るもの全てを魅了し、陶酔させるほどの美しさを誇っていた。


輝いて見える金色の髪、美しくカールしたおさげ。


主張が強い髪留めのリボン。


艶やかな唇は自信に溢れており、目元は力強く、凛とした印象を持つ。


そして圧倒的な脚の長さは皆の息を呑むレベルだ。


そこに美しく咲き誇った薔薇が名乗りを上げる。



「わたくしが神咲薔薇(かんざきばら)アトリですわ。2-Aのみなさま、ごきげんよう」


2-A教室内がワッと声を上げた。



「アトリ様!?」

「きゃー!アトリ様!アトリ様!」

「うおー!アトリ様踏んでくれ!」

「アトリ様…なぜ2年棟に…!?」

「麗しい~!」



それを見ていたヒサオミは先程の眠気が吹っ飛ぶような感覚に陥った。

ケンが隣で、ちょいちょいとヒサオミの肩に触れる。


「あいつが生徒会長のアトリ様だ。なんか…目つけられたりしないようにな。面倒だし」


「………………」



「おい、ヒサオミ」


「………………」



ケンが声をかけても、軽く揺すってもヒサオミは反応しない。絶句したように、神咲薔薇(かんざきばら)アトリを見続けるだけだ。


「アトリ様が美人すぎてびっくりしちゃってる?ヒサオミちゃんってば」


華蓮が、あはは~とヒサオミに手を振ると、ヒサオミはようやく口を開く。



「ローズ…姫様…?」


ヒサオミは、何者かの名を、声に出していた。



7話:ゆかいな仲間と女王登場





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