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6話:異国から来た光田さん


光田(ひかりだ)さんってめちゃくちゃかわいいね!」

「どの国から来たの?」

五十嵐(いがらし)とはどういう関係!?」


1時間目の授業が終わったあと、案の定ヒサオミの席にはクラスメイトが集っていた。



ヒサオミ本人への質問はもちろん、ついさっき見せつけられたケンとのキスの件にもずけずけと踏み込んだ質問を投げかけられる。



「えと、ひとつずつお答えしますね。私の出身国は、シャイン・ラルジュ王国と言って…」


「「ちょちょちょーいストップストップ!!」」


クラスメイトへの質問に素直に答えるヒサオミを引っ張り、教室の隅に瞬時に連れていくケンと華蓮。

ヒサオミはきょとんとした顔で「?」を浮かべた表情をした。



そこで、ケンはヒサオミの目線の高さになるよう少しだけ屈んで。


「異世界のことは……言うな…!ややこしくなる…!」


ヒサオミへ注意を促した。


「何故ですか?私、嘘をつくことは苦手なのですが…」


真面目すぎるヒサオミはそう返答すると、華蓮も顔を寄せて。


「あのね、ヒサオミちゃん。異世界から来たとか、勇者だとか、そういうのをみんなに知られちゃうと…前のショッピングモールみたいに注目の的になったり、ネットで拡散されたり、最悪の場合……銃刀法違反とかなんか色々で警察に通報される可能性があるの…!」


「ああっ…!」


ショッピングモールでやらかした、ナンパ撃退事件。勇者としては全うしているが、現代日本の常識には通用しないことに今気付くヒサオミだった。


「そんな…!では私、ケン様と華蓮様以外にはこれから先も勇者であることを隠し通さねばならないのですか…!?」


「「うん!!!」」


心の底からガッカリするヒサオミと、こういう時だけ息ピッタリなケンと華蓮。

クラスメイトはその3人を眺めて不思議そうにしていた。教室の隅での会話が長引くとまた厄介になりそうなので早めに席に戻ることにする。


席に戻ったヒサオミは、先程の質問に再び答えていく。


「お、お待たせいたしました。出身国は…あの……南にあるとこです…」


(いや、嘘つくの下手か!?)


ケンが心の中で突っ込んだ。

すると、クラスメイトたちは意外な反応を示す。


「南?んー、台湾とかかな?ほら、名前もなんとなくアジア系だし」


タイワン、という馴染みのない国を出されたが、ヒサオミはそれに便乗することに。


「はい、そ、そうです!タイワン?です。でも両親がニッポンジン?なので、ニッポンゴペラペラ、です」


(いや、なんか、カタコトだぞ!?)


再びケンは心の中で突っ込む。本当は横からツッコミを入れて止めたかったが、またややこしくなりそうなので黙って見守ることにした。


華蓮はケンの後ろにそっと立ち、両目を閉じて「ヒサオミちゃんなんとかがんばって!」と念を飛ばしている。



「台湾よくわかんないけどいいなー。ってそれよりさー!さっきのなんなの?五十嵐とのキス♡付き合ってるの?付き合ってるよねー!」


「わかる!いきなりキス見せつけられてびっくりしたー!」


光田(ひかりだ)さんぐらい美少女ならもっといい男捕まえられるのに、五十嵐なんだね。」



どうにか誤魔化した台湾ネタをあっという間に流され、ケンとの関係性の話題へ切り替わる。クラスメイトの女子たちはきゃっきゃと勝手に盛り上がり、ヒサオミはそれを全て聞いた上で答えを口に出す。



「ケン様とはキスだけの関係です」


「おいおいおいおいおいおい!!!!!」



突拍子もないことを言い切ったヒサオミに、思わず激しめのツッコミを入れる隣の席のケン。華蓮も前のめりになり、驚きを隠せない。


「キスだけの関係?どゆこと?」


「まさか付き合ってないの?」


クラスメイトの疑問は膨らむばかり。それもそうだ。あれだけ熱のこもったキスを見せつけられて、付き合っていないなど傍から見ればありえなさすぎる。


しかし、嘘をつくことが壊滅的に下手なヒサオミは止まらなかった。



「はい。お付き合いはしていません。ケン様と魔力契………いえ、その…………う、うーん、……キスだけする関係になりたくて、私からお願いした次第でありまして……」


「それは無理があるだろヒサオミーーーッッ!!」


我慢ならなかったケンは自分の机を両手で叩くと同時に声を張り上げた。


「何よ五十嵐(いがらし)。こんな如何わしい関係作ってたんだ。キモ。」


気の強そうな女子生徒がキリッとケンを睨みつける。

女子と話すのに慣れていないケンだが、ここは負けじと口を挟む。



「違うんだよ!ヒサオミの言い方に語弊があった。俺たちは…最近婚約したんだ。お互いのこと好き過ぎて好き過ぎて……俺もヒサオミも、お互いの成分補給しないとフラフラになってしまうからさっきみたいに人前でもキスしてんだよ悪いかーーっ!!」


一方的にまくし立てるケンだが、女子の反応は微妙であった。その微妙な空気を誤魔化すため、華蓮が前に出た。


「あ、あのね!私はふたりのサポートしてる感じなんだけど…。ほら、外国ってキスぐらいのスキンシップ当たり前でしょ?だからヒサオミちゃんは人恋しいの~~!」


「えー?台湾ってそういうのあるの?アメリカとかじゃなくて?」


「あ…えと…」


一瞬で嘘が崩壊した。


「華蓮は余計なこと言うな!まあつまり、俺とヒサオミは既に切っても切れない関係。ヒサオミがこんなにかわいくても、横取りとか考えるなよ。数年後には籍入れるから!はい、この話以上!解散~~~!」


ケンは自慢(?)の大声でそうまとめると同時に、休み時間終了のチャイムが鳴る。

華蓮は「サポートできなくてごめんね」と小声でヒサオミに声をかけ、自分の席に戻る。



一方、ヒサオミは教科書をめくりながら複雑な気持ちを抱え、ぽつりと呟く。


「ケン様……私との結婚にこだわらくてよろしいのに…」


小さな声で発せられたそれは、誰の耳にも届くことなく消えていった。





どうにか午前の授業を終え、待ちに待った昼休み。購買でパンを買ったケンとヒサオミ、手作り弁当を持参した華蓮が揃って屋上へ向かう。


教帝(きょうてい)学園の屋上は、ベンチなどもあり、休憩スポットとして解放されていた。もちろん周りは高めのフェンスに囲まれており、安全である。


しかし学校にはエレベーターやエスカレーターは無いため、屋上には階段を登り続けて向かうしかない。登る手間が嫌、という理由で屋上で昼食を摂る生徒はほぼいないと言っていい。ほとんどの生徒は購買部の横にある食事スペースや、教室で昼食を摂っていた。


屋上へ辿り着くケンたち。

先程の事情により、今日も屋上は貸切であった……ように思えたが、ひとり、大きな人影が見える。



「来たか、華蓮」


「部長♡」


屋上には先客が立っていた。超長身のその男は鋭くも優しい目付きで華蓮を呼びかける。そう、この男こそが華蓮の彼氏であるテニス部の「部長」だ。


華蓮は弁当をベンチに置き、部長を正面から抱きしめる。部長と華蓮の身長差は凄まじい。抱きしめあっても、華蓮の頭は部長の腹~胸あたりに位置している。


これが、正真正銘の彼氏・彼女の構図であった。


その光景を見ていたヒサオミは、部長のあまりに大柄な体格に驚きつつも挨拶を交わす。


「部長さん、はじめまして。光田(ひかりだ)ヒサオミと申します。華蓮様とは、お友達として仲良くしていただいております。」


「ああ。話に聞いている。こちらこそ、華蓮と仲良くして貰えて、礼を言う」


部長は無表情ではあるものの、礼儀正しかった。そんな部長は少し目を鋭くして、ケンに目をやる。



「五十嵐は久しいな。あれからどうなった」


部長は低い声でケンに問いかける。

ケンは戸惑いながらも、声を発した。


「どうなったも何も……何も、変わってないっすよ、部長。俺、もう出来そうにないっす。」


「そうか。」


普段元気いっぱいのケンが、弱々しかった。それを部長は聞き流すように返事をして会話を切り上げる。


華蓮はベンチに置いた弁当を再び手に取り、ふたつあったうちのひとつを部長に差し出す。



「部長♡今日も愛情込めて作ったから食べてね♡」


「いつもすまない」


部長はそれだけ言うと、片手で弁当を受け取る。


「んー。そこはすまないじゃなくってえ…」


華蓮は少し拗ねたような顔をすると、


「……そうだな。いつもありがとう、華蓮」


無表情のまま、少しだけ、ほんの少しだけ口角が上がる部長。部長はそのまま華蓮の頭を撫でると、ベンチに座って弁当を広げる。華蓮もその隣に腰掛け、同じく弁当を広げた。



それを眺めていたヒサオミは片手にパンを持ったまま呆然と立ち尽くしていた。


「?ヒサオミ?どうした?」


ケンはポンポンとヒサオミの肩を叩くと、ヒサオミは目をうるうるとさせて。


「か…華蓮様が本当に素敵な殿方と出会えたようで…!感激です!おふたりとも、ずっとずっとお幸せにいてください!」


彼氏と仲良くしている華蓮に感動していた。そう言われた華蓮は「ありがとうヒサオミちゃん♡」と喜んで微笑みつつ、朝作った卵焼きを口に運ぶ。



ケンとヒサオミも近くのベンチに横並びに腰掛け、パンを頬張る。お互い色々あって疲れたため、黙々と食べ続けていた。


数分後、大柄の部長が立ち上がり、出口へ向かって歩き出す。華蓮はひらひらと手を振り、彼を見送った。なんでも、昼休みだというのに部活のミーティングがあるらしい。彼はテニス部部長ということもあり、部活動に熱心であった。


ベンチにひとりになった華蓮は立ち上がり、ケンたちがいるベンチへ近付く。隣いい?と声をかけ、右がケン、真ん中がヒサオミ、左に華蓮が座る形となった。


「それにしてもよ、ヒサオミも学校通うことになるなんて思わなかったぜ。ありがとな華蓮」


ケンがペットボトルの水を飲んでからそう言うと、華蓮がケンの方を向いて。


「それがね~!?大変だったんだから!理事長はヒサオミちゃんのことすんなりOKしてくれたんだけど生徒会長がね…!?」


華蓮が嘆いた。


教帝(きょうてい)学園の理事長は50代の男性で、よっぽど酷い案でなければわりとなんでも「いいよ~」と許可を出す緩い人なのだ。



「生徒会長…うわ、あいつか」


「生徒会長様がどうされたんですか?」


ケンが少しガッカリしたような顔を見せると、真ん中に座るヒサオミはまたしても頭上に「?」を浮かべる。


華蓮は生徒会長について説明をした。


「生徒会長はね…神咲薔薇(かんざきばら)アトリさんっていう3年生の人で……めちゃくちゃ美人さんなんだけど……なんていうか…うーん、意思が強いというかなんというか……」


「自己中だろ」


華蓮が言いあぐねていたことを、スパッと言い切るケン。


「学園中でアトリ様アトリ様ってもてはやされてて、ファンクラブまであって、なんかやべー女なんだよ。全校生徒の97%ぐらいはアトリ様信者だと思う。そいつがなぜか、理事長よりも色々と権限を持ってるんだよな」


「な、なるほど……その方にはなんと言われました?」


ヒサオミが華蓮に問う。


「まずね……ヒサオミちゃんの素性…あ、勇者のくだりはぼやかしたけど……全体的に伝えたらちょっと顔をしかめて無言になってたの…」


「まあ…私、転入するには唐突すぎですからね…」


「しばらくしたら、急に大笑いして…『これは面白いことになりそうね。いいわ、好きになさい』って言われて、結果的にOKになった感じかな…」



華蓮は今でもなぜOKになったのかわからない顔をしつつ、説明した。



「アトリ様に何か思うところがあったのでしょうか……?しかし、認めて貰えて嬉しいです。」


ヒサオミはニコニコして、華蓮を見て、ケンの方にも振り向いた。

しかしそのケンは、どこか複雑な顔をしている。


「アトリ様…ねえ……俺、あいつ苦手なんだよなあ……」


右手で頭を軽く掻くケンに、ヒサオミは意見する。


「ケン様。人間、性格上合わない方はどうしてもいらっしゃいます。しかし、苦手苦手と壁を作って………は………」



ふらり。


先程まではきはきと話していたヒサオミが後ろ向きに倒れ、華蓮の大きな胸にぽよんと後頭部が乗っかる。

…魔力切れだ。


「ケン、ヒサオミちゃんに…」


華蓮は自分の胸にヒサオミの頭が乗っかっていることを気にすることなく、むしろそのまま胸でヒサオミの頭を支えたままケンに言う。


「ん…わかった…」


ベンチの上、ケンはヒサオミに覆い被さるようになり、顔を徐々に近づけて行く。


ヒサオミは両目を閉じ、苦しそうに顔を歪めている。

しかし、歪んだ顔でも顔つきはいつ見ても綺麗で、「美少女」そのものだった。



「……」



顔が近付けば近付くほど、ヒサオミの睫毛1本1本が鮮明に見える。


あまりの美しさに、緊張に、ケンは途中で固まってしまう。


「もうっ!ケンったらあっ!」


第三者で見ていられないといった華蓮が、ケンの顔~頭を両手で掴み、強制的にヒサオミにキスをさせた。


照準が定まらず、唇と唇がズレて重なったが、これも確かなキス。


すると、2人のあいだにピンクの光が輝き、消えた。


ケンがガバっとおきあがると、ヒサオミもゆっくり身体を起こす。



「ケン様……華蓮様……ありがとうございます」


魔力供給完了。


やれやれ、と肩をすくめる華蓮と、まだ緊張で顔が真っ赤なケンだった。



キーンコーン…



昼休み終了を知らせる予鈴が鳴る。


3人は急いで片付けを済まし、教室へと向かうのであった。


3人が去ったあと、屋上にコツンと足音が響く。その足音で、雑な歩き方ではなく、上品な歩き方だとわかる。



「ふうん…光田ヒサオミ、ね…」


少女は、美しい金髪ロールを揺らして歩いていった。



6話:異国から来た光田さん





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