表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

15.5話(番外編05):佐々木ユイという少女

佐々木ユイ。

2-Aの女生徒である。


ユイは前髪を横に流したセミロングの黒髪で、身長は小柄。ヒサオミほどではないが控えめな性格をした心優しい女の子だ。


ヒサオミとは日直が一緒になったことで仲を深めたようで、更に華蓮とも仲を深めた。


それからクラスでは、ヒサオミ、華蓮、ユイの3人で話すことが多くなった。



「私の部長がね~」


「昨日のケン様が…」


右から華蓮の強い惚気、左からヒサオミの報告が聞こえてくる。


「むう…」


それを聞いていたユイは、ぷくっと頬をふくらませた。可愛らしい童顔のせいで迫力は全くない。


佐々木ユイは、充分にかわいい女の子だ。


美しい赤髪が特徴的なヒサオミと、胸のボリュームがありすぎる華蓮が特別なだけであって……黒髪セミロング、身長低め、平凡な見た目のユイも「かわいい」部類であった。


性格も、ひねくれておらず、真っ直ぐで優しい。


しかし、ユイは恋をしたことがなかった。


仲良くなる男子からは、いつも子供扱いをされていた。茶化された時は、「ロリっ子」のように言われてしまったこともある。


ユイは小学生のように幼い……とまでは行かなくても、高校2年生にはとても見えない童顔であった。


美人なアトリと並ぶ日があれば、もうお姉様と妹にしか見えないだろう。


そんな見た目の幼さが、ユイにはコンプレックスだった。



女子の平均身長は157cmと言われているのに、

ユイの身長は146cmであった。


年齢的にもう伸びない、と思いつつ、牛乳や豆乳を必死に飲むも……どちらかというと胸が育った。


大人っぽく見せるためにヒールを履いたり、日頃から口紅をつけたり、メガネをかけたり…。


ユイは努力をしたが、鏡には「童顔の少女」が映っていた。


憧れのアトリは、手足がスラリと伸びており、腰も高く、背も高い。そして、ウエストはこれでもかと引き締まっているパーフェクトモデル体型だ。



(私も…アトリ様みたいになって、恋がしたい…)



そう思うも、身体は思うようにコントロールできないわけで。


ユイは自分に自信が持てず、恋も出来ずにズルズルと引き摺っていた。


朝のホームルーム前。

先程から華蓮とヒサオミの彼氏話が咲き乱れており、ユイは少し苦しくなって席を立つ。


そのまま教室を出て、階段の踊り場まで来て、壁にもたれた。



(どうしたらいいんだろう…)



成長しない身体。

子供扱いされる自分。

美少女の友達。



(華蓮ちゃんも、ヒサちゃんも、なんでそんなにかわいいの。ずるい、ずるいよ……私も…)



「私も可愛くなりたかったな…」



ひとり、俯いたところで……


「おい、どうしたんだよ」


声が聞こえた。

顔を上げると…階段の上から男が降りてくる。

褐色肌に銀髪が目立つ男、五十嵐ケンだ。


ユイとケンは同じクラスではあるものの、あまり言葉を交わしたことはなかった。


「五十嵐くん……な、なんでもないよ」


ケンはゆっくりユイのいる踊り場まで来ると、少し距離を開けて横に立ち、同じく壁にもたれた。


「困った顔でなんでもないって言う奴はなにかあるんだよ。なんかあったか?っと、その前に。いつもヒサオミと仲良くしてくれてサンキュ!」


ケンは元気よく礼を言いつつ、右手をグーにして前に突き出す。


ユイはそれほど人見知りする性格では無いので……それとなく、あまり詳しいことはぼかしてケンに愚痴をこぼしてみる。


それを聞いたケンはうんうんと頷きながら、たまに首をひねって不思議そうにしていた。



「…ということで悩んでたの」


「ほう~…?」


ケンは腕を組み、やはり首を傾げている。

やはり女の悩みは女にするべきだったか、とユイは一瞬反省した。恐らく、ケンにはピンと来ない悩みだったのだろう。


すると、ケンが顔を上げて。


「佐々木って普通にかわいいと思うぞ」


ケロッとそんなことを言った。


「え」


唐突さに驚くユイ。


「この世界…い、いや、この日本に疎いヒサオミともすぐに打ち解けたし、コミュニケーション能力高いだろ。そこも良いとこだし、背が低いのも守ってやりたくなる奴多そうだし。日直の仕事率先して取り組んでて真面目だし。それで…」


顔を赤くすることもなく、真顔でユイの良いところを複数挙げていくケン。傍から聞いていたユイはだんだん恥ずかしくなって、わたわたと慌てはじめる。


「も、もういいよっ!?大丈夫だよっ!?あああ、ありがとうね!?」


ユイが両手のひらをケンに向け、ぱたぱたと左右に振って「困るよ」と動作で見せる。

その慌て具合を見て、ケンは「ははっ!それだよ!」と笑った。


「他の人よりオーバーリアクションなとこも、佐々木の個性かもな。見てて飽きないっていうかさ」


「はわ……そ、なのかな」


「うんうん。人が話すことに適当に相槌入れられるより、リアクション大きい方が相手も喜ぶだろうしな。俺、今まであんまり佐々木と話してこなかったけど…」


ケンはここまで言うと、弧を描いていた眉を少し鋭くして。


「ちゃんと話してみたら、一緒にいて楽しい奴かも、って今思ったぜ」


言い切った。


(え……)


ユイが更に困惑を深める。



「だから背が低いとか、ちょっと幼く見えるとか、別に欠点じゃなくてそれはお前の個性だろ」


ニカッと歯を見せてケンは笑った。


ドキン。


今まで動かなかった心が、動く音。


ケンはなぜそのようなことを、ユイに言うのか。なぜ親身になってくれるのか。


ユイは疑問だらけであったが、そこでタイミング悪く予鈴が鳴ってしまう。


「おっと…ホームルーム始まるぞ。佐々木も教室来いよ~」


ケンが小走りで階段を駆け上がっていった。

その背中は、理想の男性よりは小さかったけれど……ユイにとっては逞しく見えた。



自分は、背が高くて、細くて、胸もあって、スタイルが良くて。

好きになる人は、とても背が高くて、顔が良くて、文武両道で、真面目で。


そんな現実離れした夢のような理想を描きながらも、ユイは現実に陶酔(とうすい)しそうになる。



理想が、永遠に手に入らない。


だが、現実を受け入れ、肯定してくれる存在がいた。


(五十嵐くん……)


ユイはじわじわと頬を赤く染めあげていき、慌てて両手で顔を覆う。



(だめだめ!五十嵐くんとヒサちゃんは結婚前提のお付き合いしてるんだもん!だめだよ!)


心の中で自分と戦う。


(でも…)


しかし、胸の鼓動は止まらない。


ユイは目線をキョロキョロとさせ、周りに誰もいないことを確認し、ゆっくり教室に戻っていく。



教室には藤野先生はまだ来ていないが、予鈴が鳴ったので生徒がほとんど席についていた。



「ユイ様、お加減大丈夫ですか?」


ヒサオミが心配して寄ってきてくれたが、ユイはコクリと頷いた。



「大丈夫だよ。ちょっとお腹痛かっただけっ!」


もう今は元気!と両手をグーにして元気さをアピールするユイ。

ただ、一瞬ヒサオミを見る目が(うれ)いになって…。


そのまま、薄目でケンの顔を見た。



「……………」



ユイは黙って、自分の席に着く。


そして、心でこう思ったのだ。


(一生片想いなら、許される、かな?)



15.5話(番外編05):佐々木ユイという少女



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ