15.5話(番外編05):佐々木ユイという少女
佐々木ユイ。
2-Aの女生徒である。
ユイは前髪を横に流したセミロングの黒髪で、身長は小柄。ヒサオミほどではないが控えめな性格をした心優しい女の子だ。
ヒサオミとは日直が一緒になったことで仲を深めたようで、更に華蓮とも仲を深めた。
それからクラスでは、ヒサオミ、華蓮、ユイの3人で話すことが多くなった。
「私の部長がね~」
「昨日のケン様が…」
右から華蓮の強い惚気、左からヒサオミの報告が聞こえてくる。
「むう…」
それを聞いていたユイは、ぷくっと頬をふくらませた。可愛らしい童顔のせいで迫力は全くない。
佐々木ユイは、充分にかわいい女の子だ。
美しい赤髪が特徴的なヒサオミと、胸のボリュームがありすぎる華蓮が特別なだけであって……黒髪セミロング、身長低め、平凡な見た目のユイも「かわいい」部類であった。
性格も、ひねくれておらず、真っ直ぐで優しい。
しかし、ユイは恋をしたことがなかった。
仲良くなる男子からは、いつも子供扱いをされていた。茶化された時は、「ロリっ子」のように言われてしまったこともある。
ユイは小学生のように幼い……とまでは行かなくても、高校2年生にはとても見えない童顔であった。
美人なアトリと並ぶ日があれば、もうお姉様と妹にしか見えないだろう。
そんな見た目の幼さが、ユイにはコンプレックスだった。
女子の平均身長は157cmと言われているのに、
ユイの身長は146cmであった。
年齢的にもう伸びない、と思いつつ、牛乳や豆乳を必死に飲むも……どちらかというと胸が育った。
大人っぽく見せるためにヒールを履いたり、日頃から口紅をつけたり、メガネをかけたり…。
ユイは努力をしたが、鏡には「童顔の少女」が映っていた。
憧れのアトリは、手足がスラリと伸びており、腰も高く、背も高い。そして、ウエストはこれでもかと引き締まっているパーフェクトモデル体型だ。
(私も…アトリ様みたいになって、恋がしたい…)
そう思うも、身体は思うようにコントロールできないわけで。
ユイは自分に自信が持てず、恋も出来ずにズルズルと引き摺っていた。
朝のホームルーム前。
先程から華蓮とヒサオミの彼氏話が咲き乱れており、ユイは少し苦しくなって席を立つ。
そのまま教室を出て、階段の踊り場まで来て、壁にもたれた。
(どうしたらいいんだろう…)
成長しない身体。
子供扱いされる自分。
美少女の友達。
(華蓮ちゃんも、ヒサちゃんも、なんでそんなにかわいいの。ずるい、ずるいよ……私も…)
「私も可愛くなりたかったな…」
ひとり、俯いたところで……
「おい、どうしたんだよ」
声が聞こえた。
顔を上げると…階段の上から男が降りてくる。
褐色肌に銀髪が目立つ男、五十嵐ケンだ。
ユイとケンは同じクラスではあるものの、あまり言葉を交わしたことはなかった。
「五十嵐くん……な、なんでもないよ」
ケンはゆっくりユイのいる踊り場まで来ると、少し距離を開けて横に立ち、同じく壁にもたれた。
「困った顔でなんでもないって言う奴はなにかあるんだよ。なんかあったか?っと、その前に。いつもヒサオミと仲良くしてくれてサンキュ!」
ケンは元気よく礼を言いつつ、右手をグーにして前に突き出す。
ユイはそれほど人見知りする性格では無いので……それとなく、あまり詳しいことはぼかしてケンに愚痴をこぼしてみる。
それを聞いたケンはうんうんと頷きながら、たまに首をひねって不思議そうにしていた。
「…ということで悩んでたの」
「ほう~…?」
ケンは腕を組み、やはり首を傾げている。
やはり女の悩みは女にするべきだったか、とユイは一瞬反省した。恐らく、ケンにはピンと来ない悩みだったのだろう。
すると、ケンが顔を上げて。
「佐々木って普通にかわいいと思うぞ」
ケロッとそんなことを言った。
「え」
唐突さに驚くユイ。
「この世界…い、いや、この日本に疎いヒサオミともすぐに打ち解けたし、コミュニケーション能力高いだろ。そこも良いとこだし、背が低いのも守ってやりたくなる奴多そうだし。日直の仕事率先して取り組んでて真面目だし。それで…」
顔を赤くすることもなく、真顔でユイの良いところを複数挙げていくケン。傍から聞いていたユイはだんだん恥ずかしくなって、わたわたと慌てはじめる。
「も、もういいよっ!?大丈夫だよっ!?あああ、ありがとうね!?」
ユイが両手のひらをケンに向け、ぱたぱたと左右に振って「困るよ」と動作で見せる。
その慌て具合を見て、ケンは「ははっ!それだよ!」と笑った。
「他の人よりオーバーリアクションなとこも、佐々木の個性かもな。見てて飽きないっていうかさ」
「はわ……そ、なのかな」
「うんうん。人が話すことに適当に相槌入れられるより、リアクション大きい方が相手も喜ぶだろうしな。俺、今まであんまり佐々木と話してこなかったけど…」
ケンはここまで言うと、弧を描いていた眉を少し鋭くして。
「ちゃんと話してみたら、一緒にいて楽しい奴かも、って今思ったぜ」
言い切った。
(え……)
ユイが更に困惑を深める。
「だから背が低いとか、ちょっと幼く見えるとか、別に欠点じゃなくてそれはお前の個性だろ」
ニカッと歯を見せてケンは笑った。
ドキン。
今まで動かなかった心が、動く音。
ケンはなぜそのようなことを、ユイに言うのか。なぜ親身になってくれるのか。
ユイは疑問だらけであったが、そこでタイミング悪く予鈴が鳴ってしまう。
「おっと…ホームルーム始まるぞ。佐々木も教室来いよ~」
ケンが小走りで階段を駆け上がっていった。
その背中は、理想の男性よりは小さかったけれど……ユイにとっては逞しく見えた。
自分は、背が高くて、細くて、胸もあって、スタイルが良くて。
好きになる人は、とても背が高くて、顔が良くて、文武両道で、真面目で。
そんな現実離れした夢のような理想を描きながらも、ユイは現実に陶酔しそうになる。
理想が、永遠に手に入らない。
だが、現実を受け入れ、肯定してくれる存在がいた。
(五十嵐くん……)
ユイはじわじわと頬を赤く染めあげていき、慌てて両手で顔を覆う。
(だめだめ!五十嵐くんとヒサちゃんは結婚前提のお付き合いしてるんだもん!だめだよ!)
心の中で自分と戦う。
(でも…)
しかし、胸の鼓動は止まらない。
ユイは目線をキョロキョロとさせ、周りに誰もいないことを確認し、ゆっくり教室に戻っていく。
教室には藤野先生はまだ来ていないが、予鈴が鳴ったので生徒がほとんど席についていた。
「ユイ様、お加減大丈夫ですか?」
ヒサオミが心配して寄ってきてくれたが、ユイはコクリと頷いた。
「大丈夫だよ。ちょっとお腹痛かっただけっ!」
もう今は元気!と両手をグーにして元気さをアピールするユイ。
ただ、一瞬ヒサオミを見る目が憂いになって…。
そのまま、薄目でケンの顔を見た。
「……………」
ユイは黙って、自分の席に着く。
そして、心でこう思ったのだ。
(一生片想いなら、許される、かな?)
15.5話(番外編05):佐々木ユイという少女
完




