15話:惚気VS惚気
遊園地デート翌日、日曜日。
昨日のことがあったケンは、爆睡したため起きるのが遅くなった。
朝9:00頃になると、台所からかちゃかちゃと音が聞こえてくる。
リビングのソファで眠っているケンはその音に気づき、目を擦る。
「ん?」
身を起こし、台所を見ると、ヒサオミが朝食を作っていた。
匂いからして、目玉焼きだろう。トーストも焼いているようだった。
パジャマから部屋着に着替えて髪も整えてるヒサオミは、半目でこちらを見ているケンに気付くと微笑んだ。
「おはようございます、ケン様」
*
テーブルには食パンと目玉焼き、簡単なサラダと野菜ジュースが並んだ。
昨日のことがあったにも関わらず、ヒサオミは率先して料理をしてくれたようだ。
ケンは手を合わせて「いただきます」と言い、食パンの上に目玉焼きを乗せて頬張る。
ヒサオミもパンを口にしていたが、少し表情が曇っていた。
ケンが口に含んだ分をごくんと飲み込むと、話を切り出した。
「昨日色々あったけど大丈夫か?」
「はい……まだ、戸惑っていますが……あれは、夢ではなかったのですね」
あれ、とは。説明しなくてもわかる。
異世界のモンスターのことだ。
「俺、ヒサオミが勇者だってことはわかってたけどモンスター相手ならあんなに強いなんて思わなかったぞ!すっげーな!……ちょっとグロかったけど」
「申し訳ありません……刃で肉を斬る、つまり血は……出ます……」
ゲーム脳のケンには少し刺激が強かった。対象年齢17歳以上のアクションゲームでも、あそこまでリアルに血が出るものはなかったからだ。
「それはそうとさ!なんでこの世界にモンスターいたんだよ!」
ケンが謎に迫った。
ヒサオミは野菜ジュースをコクリと飲み、考え込む。
「わかりません…今まで、こちらの世界では見かけたこともありませんし…。」
「まさか、あのダークウルフも転移してきたのか?」
「いえ……上級モンスターとはいえ、ウルフはウルフ。異世界転移どころか、普通の転移魔法すら使えないはずです」
そうかー、とケンはまた食パンを頬張る。
パンをある程度食べたヒサオミは、ウェットティッシュで口を拭って。
「…もしかしたら、アトリ様が関係するかもしれません」
「え?」
ヒサオミのその言葉は、謎をさらに深めていった。
ケンは話に集中しようと、食パンと目玉焼きをあっという間に食べきってしまう。ごくんと飲み込み、ヒサオミを見つめて話を再開する。
「それって…異世界のローズ姫とアトリが似てることと関係ある?」
口元にパン粉がくっついたケンを見て、ヒサオミはウェットティッシュを差し出した。
「はい……おそらく、関係はあります。むしろ、私には、アトリ様以外からは異世界の情報を得られません…」
「マジか…」
ケンは口元を拭いて、そう声を漏らした。
異世界の姫、ローズ姫にそっくりなアトリ。
異世界からきたであろうダークウルフ。
一体、どういうことなのか。
「これってさ、華蓮に共有していいか?」
「はい。かえって、混乱させてしまうかもしれませんが…」
わかった、と、ケンはスマホを取り出したのだが……。
ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!
「わあっ!?なんだよ!?」
ピコンピコン!ピコン!ピコン!ピコン!
ケンのスマホからありえないほどメッセージ通知が来た。
送り主は華蓮。
内容はというと…。
『昨日の部長かっこよかったから見て~!!やっぱりサーブ打つ時が1番かっこいい…♡』
昨日、テニス部の練習試合があったらしく、それを応援しに見に行った華蓮からの熱烈なメッセージだった。
そしてサーブを構えるテニス部部長の写真が何枚も送られてくる。
『でもでも~リターンの時の脚の踏み出し方とかすごくて~』
相手が打ったボールを打ち返そうと構える部長の写真が何枚も送られてくる。
『点を取った時、大喜びはしないんだけどちょっと口角上がってるのが最高で~~♡』
続けて、何十枚もテニス部部長……華蓮の彼氏の写真を送り続けてきた。
部長は男女問わず人気の美貌で、高身長ながら寡黙なところがさらに人気を高めている。それはケンにもわかるが…
ケンは通話ボタンを押し、一方的にまくし立てた。
「華蓮!いい加減にしろ!!朝っぱらからなんなんだよ!」
いきなりにも関わらず、反射的に通話に出た華蓮は。
『いい加減にって…どーいう意味!?部長のかっこよさをおすそ分けしてるんだよ!?ありがたく思ってよ!』
逆ギレした。
「そんなものはもういい!あのな!大事な話があるんだよ!」
ケンが叫ぶように言うと、華蓮は拗ねた声を出した。
『んもう!!………何?どうしたの?』
彼氏の事になると惚気が酷い華蓮だが……相談事があると親身に答えてくれる。そこはケンも評価していた。
「街に異世界のモンスターが現れてさ…」
ケンが昨日のあらましを伝えると、華蓮は、え?え?と困惑の相槌を打った。
『…ゲームのしすぎ?』
「ちがわい!証拠に、ヒサオミと代わってやるよ!ほい、ヒサオミ」
ケンはスマホをヒサオミに手渡すが、ヒサオミは両手で掴んで頭上に「?」を浮かべている。
…スマホの使い方がわからないみたいだ。
「えっと……色々使える便利な機械だよ。昨日も俺使ってただろ。そこに耳を当てて、そのまま話せば華蓮と通じる」
ケンが指を差して伝えると、ヒサオミはうなずき、耳にスマホを当てる。
「あのぅ……華蓮様…ヒサオミですが……あのう……本当に声が届いているのでしょうか?聞こえていたら返事してくださ~~いっ」
それはトランシーバーではない。
『あ!ヒサオミちゃん!ケンが…』
華蓮が普通に返事をすると、声が聞こえたヒサオミはとても驚いてしまう。
「華蓮様……この箱の中にいらっしゃるのですか!?そんな……どうして……開けて、助けてさしあげ……」
「やめろーー!!」
ヒサオミがスマホを分解しようと試みたが、ケンが必死にスマホをひったくって防衛。
どうやら、スマホ(箱)の中にいる小さな華蓮と通話出来た、と思ったらしい。なんとも異世界人らしい勘違いである。
*
もうややこしいので徒歩5分の華蓮には五十嵐邸に来てもらった。
華蓮がヒサオミに、スマホの仕組みを簡単に教えていたりと、のほほんとした光景が繰り広げられたが…。
本題はそれではない。
いつも通りリビングの椅子に3人腰掛けると、話し合いになった。
「さっき言ってたモンスターがどうこうって……どういう意味なの?」
デート用におめかしした華蓮がケンを見た。そう、華蓮は2時間後には駅前集合となっている。デート相手はもちろんテニス部部長だ。
「そのままだ。俺のゲームのしすぎとかじゃない。遊園地に異世界のモンスターが出て……ヒサオミが勇者の力でなんとか倒したんだよ」
「はい」
ヒサオミが力強く頷いた。
根が真面目で、嘘をつくことが下手すぎるヒサオミ。そのヒサオミがそう言うなら、華蓮も信じるしかなかった。
「ほんとなんだ……大変だったね。誰も怪我しなかった?」
「ああ。あ、でもヒーローショーのレッドはガチの怪我してたかも…」
これで子どもにトラウマが残らないといいが、とケンは気にした。
五十嵐邸のことを知り尽くした華蓮が勝手に冷蔵庫を開けて、アイスコーヒーを3人分作ってテーブルに載せる。
自分のコップにミルクを入れ、ストローでかき混ぜながら華蓮は考えた。
「うーん。私にはさっぱりわかんないよ。でも、生徒会長……アトリ様ならなにか知ってるかも」
華蓮にアイスコーヒーを用意してもらったことに頭を下げ、ヒサオミが言う。
「やはり…アトリ様に行き着きますね…」
ヒサオミはシリアスな顔でコーヒーをストローで飲むも、ブラックだと苦かったようで渋い顔を作る。華蓮が砂糖とミルクを用意して傍に置いてくれた。
そして、意外とブラックのままごくごく飲めるケンがストローから口を離す。
「そうだよなあ……異世界に関しての手がかりは、全部あいつだよなあ。うーん。今度学校で直接聞くしかないか」
ケンがそう言うと、向かいに座っていた華蓮が僅かに眉を下げた。
「アトリ様のことだから、何か条件とか出されちゃうかもね………何もしないで情報貰えるとは思えないかも」
「だよなあ……絶対そうだよなあ……不安だ…」
ケンはブラックコーヒーを飲み干し、Tシャツで雑に口元を拭いていたところ……ふと思ったことを口に出す。
「そうだ華蓮。俺とヒサオミは正式に両想いになったぞ」
「ぶふーーーっ!?!」
華蓮がギャグのようにコーヒーを噴き出す。ヒサオミが慌ててタオルを差し出した。
「ヒサオミちゃん……大丈夫?脅されたりしてない?だって前は付き合うとかは考えてないって…」
「大丈夫です。むしろ……本当は私の片想いでいたかったぐらいですから…」
ヒサオミがなぜ片想いにこだわるのか、理由を改めて説明。
華蓮は両眼に涙を浮かべていた。
「ヒサオミちゃんほんとに異世界に帰っちゃうの!?やだーー!!お友達になれたと思っだのにいいい!!!」
ヒサオミ本人以上に駄々をこねる華蓮に、ヒサオミは頭を撫でてよしよししてやる。同い年のはずなのにヒサオミの方がお姉さんのようだ。胸の大きさは圧倒的に華蓮の方が大きいが、それは言わないお約束。
「私も寂しいです。でも、まだまだ魔力全快には程遠いですから、しばらくお世話になります。」
「うん……うん……こっちの世界のことなら任せて!あと、一応お祝いした方がいいかな。ケンとヒサオミちゃん、おめでとう!」
華蓮は涙を拭って、ふたりに笑顔を向けて祝福した。
はじめてキスをした時から、彼女を愛することを決めたケン。
現代日本に飛ばされて、介抱してもらい、好きになったヒサオミ。
実はお互い、ほぼ一目惚れに近い関係だったのだ。
恋とは案外、一目惚れが多いのかもしれない。
ヒサオミはケンに近付いて、手を握る。ケンは少しドキリとして頬を染め、握り返す。
…のを華蓮もバッチリ見ていたが。
「ふふ、ふふふ!めちゃくちゃ初々しくて素敵だなあ~~!キスは何十回もしてるのに手を繋ぐの恥ずかしがってるのなんだか変な感じするね?」
ちょっと茶化した華蓮であった。
バカにされた気がしたケンは口をムッとさせ反論する。
「仕方ないだろ、初めての彼女が、特殊な契約を結んだんだから!そういう華蓮は、彼氏とどこまで行ってるんだよ」
先程までニヤニヤしていた華蓮が顔を真っ赤にし、視線を彷徨わせる。
「どこまでってそのぉ………部長はテニス日本代表選抜があるからお泊まりとかはまだだけど………うん、まだ夜は過ごしてないんだけど……でもふたりっきりじゃないと出来ないことは済ませたというか……うん、想像におまかせ?」
匂わせしつつ、誤魔化す華蓮。
どうやら、テニス部部長がかなりの硬派らしく、テニスの大会で結果を出すまで「大人の関係」にはならないと決めているらしい。
「そーかよ。なんか生々しいからあんま聞きたくなかったかも」
「ケンが聞いてきたくせになんなの!?」
「俺はなあ!結婚するまでエッチはしないぞ!!!!!!!!!」
「すごい大声で言うね!?」
漫才のようなケンと華蓮のやり取りに、ヒサオミは少し違和感を覚えたのでツッコミを入れる。
「ケン様……そのような考えは素晴らしいのですが、その……私は異世界に帰るので、結婚はできないのですが……」
「ええっ!?嫌だ嫌だ嫌だ結婚する結婚するー!だって何十回もキスしてるんだぞこんなの結婚しないほうがおかしいおかしいんだーーー!」
脳内お花畑すぎるケンに、華蓮が提案をした。
「法律的にはまだ結婚できないけど、身内だけで軽く結婚式挙げるのはどうかな?」
華蓮の提案に、ケンは思わず指パッチンして「それだ!」と声を出した。
「ヒサオミ!俺たちだけの結婚式を挙げよう!そしたらさ……お互い離れても、その証は残るから」
ケンはヒサオミの両肩を揺すり、興奮してまくし立てる。
ヒサオミも顔を赤くし、少し目をうるませた。
「はい……もっと思い出、作りたいです」
「はわぁ!眩しい!初々しいカップルが眩しい!というか私そろそろデート行ってくる!」
あまりにキラキラしたふたりの関係性に華蓮はやられ(正確には「私と部長もキラキラしてるもん!」という対抗心)
あっという間に五十嵐邸を去って行った。
*
華蓮が帰り、昼間はリビングでゲームをしたり宿題をしたりとふたりで過ごしていた。
…もちろん、魔力供給のためのキスも欠かさない。
今日はケンが毎日プレイする「剣神」というソシャゲの新ガチャが実装されたため、ケンが有償石で30連するも、欲しいキャラが出ず凹む。残りの無償石10連分があり、ヒサオミが回してみると…
「嘘だろ…」
☆5キャラ 7体
☆4キャラ 2体
☆5武器 1本
現時点で☆5が最高レートのガチャで、ありえない結果を残した。
「10連を回す」ボタンを押しただけの当の本人には何も分かっていないようで…。
「私、またなにかしちゃいました?」
勇者ならではの、運ステータスが高かったのだろうか。ケンはヒサオミに感謝し、新キャラを育成してゲームを楽しむのであった…。
15話:惚気VS惚気
完




