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13話:君が望む片想い

観覧車の中でも、ヒサオミのクールな態度は変わらなかった。

しかし、顔色が悪くなっていることはケンにもわかる。そう、魔力不足だ。1日3回必要なキスが、今日は0。

昼を過ぎた今なら、もう2回済ませないといけない時間であった。


「ヒサオミ…」


ゆっくり、本当にゆっくり上昇する観覧車。

ケンは身を乗り出し、ヒサオミに迫る。


ヒサオミは顔を背けようとしたが、ケンの両手に拒まれる。ケンはヒサオミの顔を両手で固定し、正面を向けさせた。


ヒサオミは迷った目をしていた。

ケンはごくりと喉を鳴らすと、そのまま顔を近付けて…


チュッ…


はじめて、ケン自らヒサオミの唇にキスをした。

そう、今までの魔力供給キスは全てヒサオミからだったのだ。(華蓮が無理やりさせたこともあったが。)


ふたりの間にピンク色の光が輝き、消える。すると、ヒサオミの顔色が明るくなり、一瞬、ふわっと微笑んだ……気がした。


ケンは席に再び座ると、向かい合いながら問いかけた。


「ヒサオミ、話してくれないか。最近……どうしたよ?」


偉そうな態度にならないように、優しく。目線を合わせて。ヒサオミの両手を、自分の両手で包み込む。


「っ……」


ヒサオミは手を振りほどこうとしたが、観覧車で暴れるわけにもいかないのでやめた。

ヒサオミが何も話さないので、ケンから語りかけていく。



「俺さ、ヒサオミと出会って人生変わったんだよ」


「……」


ヒサオミは黙っているが、無視はしなかった。



「今まで華蓮以外の女の子と縁がなかったし。部活は……辞めちゃったし。文字通り「ひとり」だし。なんとなーくゲーム続けて過ごしていくんだと思ってた」


「………」



「でもさ。ある日、家の前で誰かがボロボロになって倒れててさ。心配にきまってるじゃん。助けるじゃん。」


「………」



「そしたら、いきなりキスされてさ。しかもよく見たらめちゃくちゃかわいい子でさ。そんなの……そんなのさ……」



「めて…ください…」


少し俯いたヒサオミが、震えて声を出した。


「やめてください…!その前に…私から…言わせてください…!」


「ヒサオミ…」


震えつつ、強く声を発するヒサオミ。

ゆっくり顔を上げて、ケンの顔を凝視する。


「…命の恩人であるケン様に冷たい態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした」


そして、座ったまま腰を折るように頭を下げた。

ケンは驚きつつも、内心ホッとした。

ヒサオミの本心は変わっていなかったようだ。


「いや…俺こそ悪かったよ。傍にいる、離れない、とか言っときながらアトリに連行されてたしさ」


「いいえ。急に拗ねる私の方が悪いのです」


「そんなことない!ヒサオミが拗ねても仕方ないんだよ!だから俺が………って、もういいか、こういうの」


あはは、と笑うケンにつられ、ヒサオミも微笑む。数日ぶりに見た心からの笑顔だった。


するとヒサオミは観覧車の窓から景色を見下ろし、興奮気味に語る。


「本当は!ユウエンチ、とても楽しみにしていたんです!こんな楽しい場所、私知りません!じぇっとこーすたー、すごい!すりーでぃー映像、すごいです!久しぶりにドラゴンにも会えました!もう、ずっと叫びたくて仕方なかったんです!」


「叫ぶか?」


「はい!!たのしいーーーー!!!!ケン様とお出かけできて、うれしいーーー!!!」



ヒサオミは今までのクールな素振りが嘘のように、観覧車内で大声を出した。ちょっとうるさいですかね、と自重する。


それを見たケンは、もう感無量。


「ヒサオミ…俺だってなあ!デートめちゃくちゃ嬉しいんだよ!今、幸せだよ!ヒサオミ!」



ゆーっくり上昇する観覧車内で、ふたりはアトラクションの感想を語り出す。





観覧車がやっと頂点に着き、折り返し始めた頃。

景色に飽きてきたふたりは黙っていた。

しかし、ヒサオミが太ももに置いた手を握ってケンを見つめる。


「…ケン様に、きちんとお話しなくてはなりません」


ヒサオミはそう切り出すと、続きを発した。

すう……と深く深呼吸して、ゆっくり紡ぐ。


「私は……私は、ケン様のことが好きです。大好き、です。出会った時から…助けられた時から……。この人となら魔力契約出来ると思えたから、結んだんです。ずっと伝えていなくてごめんなさい。あなたが……好きです」


ヒサオミは少し頬を赤く染める一方、ケンは金魚のように口をパクパクとさせていた。


「ま…まじか……!ヒサオミ、まじか…!え?だってお前、前はキスだけの契約関係だって…」


「はい。それは事実です。私はケン様のことが好き。魔力供給のためのキスはする。でも…」


ヒサオミは少し目を逸らして、呟くように。


「でも……私の片想いにさせてください…。両想いには…なっちゃ、いけないから…」


数秒、沈黙。

『両想いになっちゃいけない』

言葉の意味が理解できないケンは、頭の中がぐちゃぐちゃだ。


「なんで…そんなこと言うんだよ。何か、理由があるんだよな。俺はさ、ずーーっと言ってるけど、ヒサオミのこと、大好きなんだよ。めちゃくちゃ好きだよ。キスしたからってのもあるけど、顔がかわいいってのもあるけど、でもそれだけじゃなくてさ!ちょっと謙虚な性格も、天然なとこも、でもやっぱり勇者ってとこもかっこよくてさ…!だから、そんな悲しいこと……言うなよ…」


ケンは少しずつ、声のトーンが下がっていく。


「ケン様、私があなたとキスをする理由を覚えていますか?」


「ああ。魔力の補給だろ」


「はい。ですから…いずれ、魔力が全快したら…」


そこでヒサオミの目付きが真剣味を帯びた。



「私は異世界に帰ります」


「へ?」


ヒサオミは真っ直ぐそう言い切った。ケンは素っ頓狂な声を漏らしてしまう。


「異世界…本来の世界『レミュザード』に戻り、今度こそ、魔王を倒します。必ず、この手で」


ヒサオミは自分の胸に手を当て、目を軽く閉じた。


「そっか。そーだよな。それがお前の使命…だもんな。じゃあさじゃあさ、パパっと倒したらこっちの世界に」


「戻れません」


ケンが現実逃避のように声を紡ぐのを、ヒサオミが事実として上書きした。


「本来、世界を超越することはありえません。最高禁断魔術である異世界転移魔法が使えたのは魔王だからこそ。私は、異世界レミュザードに居るべきなのです。あっちへ行ったり、こっちに戻ったり、そういったことは…できません」


「マジかよ…」


ケンは頭を抱えた。勇者であるヒサオミの使命は応援したい。しかし、ヒサオミが異世界に帰ったらもう二度と会えなくなる。

そこで、ケンはハッとした。



「まさか、二度と会えなくなるから、好きになるなってことか…?」


「…はい。その通りです。ケン様の期待に応えられそうに、ありませんから。だから、あのままアトリ様と結ばれる方が良い、と思ったのです。冷たくすれば、自然と離れるんじゃないかと思ったのです。私はケン様が好き。でも…あなたは私の事、好きに……ならないでください。片想いでいさせてください!」


「そんなの無理だ!!!」


ケンはガバッと席を立ったが、天井が低い観覧車内では頭をぶつけてしまう。そのままよろよろとまた座り込む。



「いてぇ……いや、あのな。好きにならないでください、だって?無理に決まってんだろ!こんなかわいい女の子と毎日毎日毎日毎日毎日何回も何回も何回も何回も何回もキスして、好きになるなって……無理!!俺はっ!!」


ケンは少し息を吸って、


「ヒサオミのことが世界で一番好きなんだよ!!!」


大きな声で言い切ると、ヒサオミを正面から抱きしめた。ヒサオミは更に顔を赤くして、抱きしめ返す。



「ケン様…嬉しいです……けど、私はケン様を、幸せにできません…だって、私、帰らなきゃいけないから…」


「帰る方法はわかってるのか?」


ケンとヒサオミの顔が、触れる直前に迫っていた。


「帰る方法は……まだ、わかりません。魔王が使った異世界転移魔法の逆の術式を組まなければいけないのです。そんな高度な技術、私には…まだ…」


ヒサオミがもごもごと言い淀むと、ケンは「ほれみた」と言い寄る。


「じゃあ帰らなくていいじゃん!俺とこの世界で過ごして、大人になったら結婚して、幸せに暮らそうぜ!」


「……今現在、簡単な『転移』の術式は組めます。あとは異世界へ紐付ける術式を考えられれば……私は、戻れる……」



ヒサオミは軽くケンの胸を押し、離れさせた。

再び、お互いが席に座って向かい合う形となる。



「そこまでして……魔王倒さないといけないのかよ」


「はい。だって私は……勇者ですから」


太い眉を少し釣り上げ、ヒサオミは言い切った。


「現在の魔力回復量は40%ほど。100%になって、異世界転移の術式も組めたその時は……私、戻ります。魔王を必ず倒します」


「……わかったよ。行くな、なんて言わない。けど…けどさ…」


ケンは弱々しくも、強く主張する。


「この『今』、ヒサオミと…幸せな時間…過ごさせてくれ!頼む…頼むよ……!」


ヒサオミは困惑し、迷った。中途半端に恋をさせては、別れが悲しくなるだけだと思っていた。しかし……ケンの想いは限界突破しており、100%を越えていたのだ。


「ケン様…」


「ちょっと変なこと言うけどさ…俺、永遠の愛とか信じてないタイプなんだよな」


「そうなんですか?」


「ああ。だって、人はいつか死ぬじゃん。こうやってヘラヘラしてる俺もいつか死ぬんだよ。死んだらこの現世での活動は終わる。だから…ヒサオミが帰ろうが、帰らなかろうが、永遠ってのは、どっちみち、無いんだよ」


明るいケンが珍しく根暗なことを発した。ヒサオミは不思議に思ったが、今度はヒサオミがケンの手を取る。


「そうですね。ゲームや漫画ではよくある、『蘇生魔法』はレミュザードにもありません。人は…いいえ、生まれたものはいずれ土に還る運命…」


「だろ?だからさ……ヒサオミがこっちの世界にいる間だけでもさ……幸せ、築きたいんだよ。最高の、思い出、作りたいんだ…」


少し湿っぽい空気になったが、ケンは再びヒサオミに顔を近付けて……軽く唇に口付けした。

そうして、ふたりは見つめ合って…こう言った。



「大好きだ、ヒサオミ」


「私も大好きです、ケン様…」




0.5時間観覧車がようやく1周して地上に戻った時。ふたりは伸びをして身体をストレッチさせると、顔を見合わせて赤くする。

そして自然に手を繋ぐようになり、歩き始める。


先程はヒサオミがノーリアクションだったので、朝と同じアトラクションに並んだ。


今度はヒサオミがきゃーきゃーと叫んだり驚いたり、本当の「デート」を堪能できた。


だんだん日が落ち、夕方へ差し掛かったところで…。ヒサオミは珍しいものを見つけて指を差した。


「あれはなんですか!?」


中学英語の例文のようなことを言うヒサオミの視線の先を見ると、そこには。

遊園地内のミニステージが広がっており、何かしら催し物の準備をしていた。


近くに看板が置いてあり、確認してみる。


『スカイレンジャーショー 夕方の部』


どうやら、戦隊モノのヒーローショーがもうすぐ始まるらしい。ヒーローショーといえば朝や昼だが、この遊園地では夕方にもやっているらしい。


ヒーローものを小学生でスパッと卒業したケンは、「懐かしいなー」と言いつつステージ観客席に近づいていく。


「ヒーローショーがはじまるらしいぞ。人間を襲うわるーい敵キャラを、正義のヒーロー5人が倒す……みたいな、子ども向けのやつだよ」


ケンがそう言いながら、後ろの方の観客席に座る。無料だし、せっかくだから見ていこう、と思ったのだが…


「悪い人が出てくるのですか!?私、成敗します!」


「待て待て待て待て」


ヒサオミの悪い癖が出た。そう、随分現代日本に馴染んだとはいえ彼女は根っからの『勇者』なのである。


「劇だから、劇!劇は異世界にもある…よな?お芝居、お芝居!」


「お芝居…ですか」


ヒサオミはきょとんとしつつ、ケンの隣に腰掛けた。周りを見回すと、ヒーローの出番を待つ親子連れ、大きなお友達が座っている。



「休憩兼ねて見ていこうぜ」


ケンがヒサオミに声をかけると、ヒサオミはコクリと頷いた。

…しかし、ヒーローショーで悲劇が起きることを、まだふたりは知らない………。



13話:君が望む片想い


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