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第1話:勇者、輝く

貧乳ヒロインとのラブコメです。もっと女の子が出てくる予定ですのでお楽しみに(不定期連載)

魔王城、最上階。

今、勇者と魔王が対峙している。

世界を支配しようと企む巨大な闇の魔王と、世界に平和をもたらすために立ち向かう光の勇者。


「絶対に、あなたには負けません…魔王!あなたを倒すために、私はここまでやって来た!」


勇敢に声を上げるのは勇者。

両手に大剣を構え、自分より遥かに大きな魔王を見上げていた。

勇者は、少女だ。細い腕にはわずかに筋肉が見られ、鍛えられていることがわかるぐらいに逞しい。勇者らしさがあるマントを翻し、ひとり、魔王に立ち向かっていた。


魔法使いや戦士など、同じパーティーの仲間はいた。しかし、魔王の元まで来る過程でひとりひとりが命を落としてしまったのだ。


今、魔王に刃向かえるのは、彼女だけ。


「くはは…笑わせてくれる。小娘に何が出来る」


空間に低音が響く。

深く、闇を感じさせる声を発したのは魔王だ。こちらは男だが、身長は2.5メートルを越えているほど長身だった。

魔王は紫色の肌に、漆黒の長髪をサラリと流して威風堂々としていた。

武器は持ち合わせていないが、圧倒的な魔力で対抗しようと企んでいる様子だ。


そんな魔王の挑発に、勇者は勇気を押し出した。


「魔王…!あなたの好きにはさせない!この世界に輝きを取り戻すその日まで…!」


勇者は大剣を携えながら、魔王に向かって走り出す…。









「っしゃあーーー!!!」


歓喜の声とともに両手を広げてバンザイをする。

彼の右手にはゲームのコントローラーが握られていた。


「リュウクエ最新作……面白すぎだろ!神ゲー!!勇者が使命背負って仲間が支えるの王道だけどすっげーよかった…」


リビングの大きなテレビに、ローテーブルを挟み、ソファに腰を据える少年。

大人気ゲームをクリアした余韻に浸り、ひとりで感動を覚えていた。

ローテーブルには先ほど食べたカップヌードル、適当に飲んでいるペットボトルの水が並べられていた。


彼の名は、五十嵐(いがらし)ケン。

私立教帝(きょうてい)学園高等部の2年生で、褐色の肌に銀髪が目立つ少年だ。

身長は成人男性の平均に届かず、少し低めの部類に入るが、肉体は筋肉質で引き締まっている。

今は自宅でゲームを楽しんでいるため、Tシャツに半パンというラフな格好である。


コントローラーを机に置き、エンディング画面に見入るケン。


「ここの勇者の顔がさあ……!死んだ仲間を想って……うわあ……!あー……辛かったけど頑張ったな、勇者…!」


彼はネットでゲーム実況を配信している…わけでもないが、独り言が多いようだ。

ケンは二階建ての一軒家に、一人暮らししている。

ひとりには必要のない部屋が多くあり、掃除も行き届かなく、出入りしない部屋のドアを開けるのが怖いぐらいだ。

彼は基本的に、リビングでゲームをしたり食事をしており、風呂やトイレ、一階の自室で眠ることにしていた。



「はあ……みんなもクリアしたのかなー。ネットの評価見るか」


ゲームを終了させ、本体の電源を切る。スマホでゲームのレビューサイトを開き、「リュウクエ」のレビューを見ていく。


『展開がベタ過ぎてつまらない ☆2』


『システムが古臭い ☆1』


『ファイキンと比べたら自由度低すぎ。今の時代、オープンワールドで作って欲しい☆2』


そこには、冷たいレビューがつらつらと並んでいた。


「なっ……!なんだこいつら!なにも……なにもわかってない…!ファイナルキングダムはアクションRPGだろ!リュウジン・クエストは古き良きRPG!区別しろっての…!」


共感したいレビューが見当たらず、イライラしてしまうケン。

そのまま、レビューの投稿ページに遷移し、フリック入力で自分の気持ちを綴っていく。


『リュウクエ最新作最高!グラフィックもBGMも良かったし、ストーリーも王道で最高だった!前作プレイしてる人間がニヤっとできる要素もあって楽しかった!とにかく勇者がかっこよくて、勇者に感情移入した!裏ボス攻略もやりたい!DLC楽しみにしてるぜ! ☆5』


「これでよし、と」


大好きなゲームの感想を書き、投稿ボタンを押す。批判が多いサイトだが、ケンの投稿には瞬時に5いいね、10いいね、20いいねがついた。書き込まないROM専の人達が共感してくれたようだ。


「なんだ、みんなリュウクエ好きじゃねーか!やっぱ、勇者っていいよなー!」


サイトを閉じ、ソファから立ち上がるケン。

金曜日の20時。

まだまだ夜更かし出来るので、ケンは張り切っていた。


「リュウクエクリア記念にコンビニでアイスでも買ってくるか」


サイフとスマホ、家の鍵を持って近所のコンビニに出掛ける準備をする。



「ちょっと行ってくるな」


靴を履きながら、家の中に声をかける。もちろん、家にはケン以外誰もいない。


ケンはゆっくり、いつも通り、家のドアを開いた。









「ん?」



家を出て1秒で異変に気付いた。

様々な形の住宅が並ぶ住宅街。電柱や街灯、地域の掲示板などが見られるいつもの光景に、非日常があった。


「人…?」


ケンの家の前に、ひとりの人間がうつ伏せで倒れていた。

長い赤い髪は乱れ、マントのようなもので身体を覆われているため体型がわからない。


ケンは駆け寄り、倒れている人物の身体を揺する。



「おい!おい!大丈夫か!」


揺すっても声をかけても返事がない。もしかして死んでいるのでは…と思ったが、身体のあたたかさ、呼吸を感じられたので生きているようだった。

うつ伏せ状態の人物を抱え、仰向けにさせてみる。苦しそうな顔で、口呼吸をしていた。顔色は青白く、非常事態なことは明白であった。


「いま、助けるからな!」


ケンはそう声をかけると、倒れている人物の腰や背中を支えるように抱き抱える。いわゆるお姫様抱っこ。

その場で救急車を呼ぶでもなく、目の前の自宅に連れて行くことにしたのだった。










「とりあえず寝かせたけど…助け方ってこれで合ってるっけか?」


再び自宅に戻り、倒れていた人物を自室のベッドに寝かせた。


赤髪の人物は相変わらず苦しそうにしており、呼吸するだけで精一杯のようす。


助けるとは言ったものの、どうすればいいのかケンにはわからなかった。


すると、赤髪の人物に動きがあった。

苦しい顔のまま、右手をゆらりと上げたのだ。


「どうした?」


ケンは屈んでベッドに近寄る。赤髪の人物の右手は弱々しく、何かを求めるように手を差し出していた。

すると、赤髪の人物は目を細く開いて、口を小さく開け、弱々しく声を発する。


「い…い……です、…か…?」


「お?意識がある!うん、いいよ!」



ケンはとりあえず、差し出された右手を重ねるように、自身の左手を絡めた。


「こうすりゃちょっとは落ち着くだろ…う?」


手を繋いだ、刹那。


倒れていた人物がゆっくりと身を起こしたと思うと。


静かに顔が、近付いてきて。


……唇と、唇が、合わさった。



「…!?」


ちゅう、っとリップ音が鳴る深めのキスだった。


甘く、柔らかな、しかし寂しさのある弱々しいキス。


瞬間、ケンと赤髪の二人の間にまばゆいピンクの光が浮かび、輝く。見慣れない魔法陣も二人の横に展開された。


ケンが狼狽えていると、唇が、離れた。


乱れた赤髪がさらりと流れる。


倒れていた人物を助けることを最優先に考えていたケンは、その人物が男か女かは特に考えていなかった。


だが…


目の前には、整った美しい顔があった。

眉毛はとても太いが、綺麗な睫毛に、美しい金色の瞳を持つ。

口元には官能的なホクロがついており、ツヤのある唇が確認できた。


そう、助けた人物は…


「お、女の子…」



少女、だった。










赤髪の少女に突然キスをされ、少女はそのままゆっくりと眠りについた。乱れた呼吸が嘘のように治まり、すやすやと眠っている。


その寝顔を眺めるわけにもいかず、ケンはリビングのソファで眠ることにした…のだが。


「女の子と…チューしちまった…」


ファーストキスの余韻が頭から離れず、先程まで好きなゲームに興奮していたことも忘れるほど、頭の中はキスのことだらけになっていた。


女の子と、キス。かわいい女の子と、キス。


困惑と喜びで満ち、ソファで悶えては寝付けず、どうにか次の日の7:00ぐらいまで過ごした。









朝。寝不足気味のケンは、自室のドアをノックする。自分の部屋をノックするのは違和感があるが、実際、今ここで過ごしているのは女の子なのだ。


「入るぞ」


ガチャ、と扉を開く。

すると、目に入った光景は予想外であった。


「す、すみませんでした!」


なんと、少女がベッドの上で土下座していたのだ。

身につけていたマントのような大きな布を折りたたみ、シャツのような軽装になっていた。


ケンは部屋に入ると、困惑しつつも返答する。


「謝ることないって。家の前で誰かが倒れてたらそりゃ助けるだろ!」


「ですが…その…」


少女は土下座のまま顔を上げる。

再び、ケンの瞳に美しい少女の顔が焼き付いた。

今まで見たアイドルよりも、美しい造形をしている、と感じるほどだ。


そんな、少女の顔をまじまじと見ていると、一点に目がいってしまう。

…唇。


「あっ…」


唐突すぎたファーストキスを思い出し、ケンは顔を真っ赤に染める。

少女も顔を赤くさせ、右手で唇を触る仕草をする。


「こちらの一方的なキス……ご迷惑おかけしました…」


少女は恥ずかしそうにそう言うと、再び頭を垂れる。


「いやまず、土下座、やめてくれよ。普通にしてくれ、普通に、な?」


ケンがそう笑いかけると、少女も少し微笑んだ。そして、ふたり並んでベッドに腰掛けてみる。


「名前は?俺、五十嵐(いがらし)ケン。ケンでいいぜ」


「ヒサオミと申します。シャイン・ラルジュ・ヒサオミ。その名の通り、シャイン・ラルジュ王国の者ですが……ご存知無いですか?」


ヒサオミ、と名乗る赤髪の彼女は首を傾げて質問をする。知っているわけがない。ケンはそこまで勉強熱心ではないが、シャイン・ラルジュ王国という国がこの世界に無いぐらいは瞬時にわかった。


「ああ……やっぱり……」


ケンが困惑の顔をすると、ヒサオミは太い眉毛を困り眉にした。数秒何かを考えたかと思うと、


「私、異世界に来てしまったようですね…」


「へ?」


とんでもないことを口走った。









客をもてなす用意は何も無い。

しかし、一晩飲まず食わずの相手をそのままにするわけにはいかず、ヒサオミをリビングまで連れてきて水が入ったコップを差し出した。


ヒサオミは両手でコップを受け取り、コクコクと飲む。


ケンはヒサオミの話を聞くことにした。どこから来たのか、なぜ倒れていたのか。……なぜキスをしたのか。


ヒサオミは語った。

「レミュザード」という世界で、世を脅かす魔王と戦い、最高禁断魔術である異世界転移の魔法を使われ、この世界に飛ばされてしまったらしい。


レミュザードには酸素のように魔力が浮いており、魔力を身体に取り込むことで人々は活動出来ていた。しかし、現代日本に魔力が無いため、苦しそうにしていたらしい。そして…


「禁断魔術……『魔力契約』を交わすことで、主から魔力を受け取って生活できる、ってか…?」


ひととおり説明されたケンは、頭の中がハテナだらけだった。


ヒサオミは顔を赤くしてコクコクと頷く。


「主となる人間と魔力契約を結び、キスをすることで魔力を受け取る最終手段を使いました。ああしなければ、私は…死ぬところでした」


ヒサオミはコトッとコップを机に置く。


「契約前に『いいですか?』と許可を取ったつもりでしたが…すみません、言葉足らずでしたよね…」


「あれってそういう意味だったのか……そっか…」


ケンは知らず知らずのうちに、ヒサオミによる「魔力契約」へ了承していたようだ。

ケンと魔力契約することでなぜ魔力が得られるのか。現代日本人が魔力を持っているわけではなく、「キス」を例に、愛を象徴する行為をすることで魔力は生まれるのだという。



さらに話を聞くと、ヒサオミ曰く、レミュザードにはモンスターがいて、剣と魔法が当たり前の世界であったという。そして…


「私、こう見えて勇者なんです」


自分が勇者だと突然名乗っていた。


「マジかよ……!すっげー!」



信じられないような設定が飛び出したが、ファンタジー世界大好きなケンにとっては夢のような話。


「なあなあ、どんな剣使うんだ!魔法は!?MP使うってどんな感覚!?」



勇者を名乗るヒサオミの両手を取り、ぶんぶん上下に振りながら質問攻めしていく。


「愛剣はマスターシャインブレイドです」「回復から攻撃魔法まで使えます」「えむぴー…ってなんですか?」と質問に答えていくヒサオミだったが、徐々に顔色を悪くし…昨日と同じように倒れそうになる。ケンが間一髪で支えた。


「おい、どうした!?」


「魔力が…足りません…」


ケンの腕の中で、力なくうなだれるヒサオミ。冗談を言っている様子は無く、また顔が青白くなっていく。


「ま、魔力を手に入れるにはまさか」


「はい……キス…してもいいですか?」


ヒサオミは弱々しく言うと、ゆっくり口付けを交わした。

二度目のキス。柔らかい唇に、感動を覚えるケン。

また、二人の間にピンクの光がポワ…と浮かび、輝いた。


唇を離すと、ヒサオミの顔色はどんどん良くなって元気を取り戻した。

しかし、ケンはヒサオミを見ては怒ってしまう。


「お、女の子が簡単に知らない男にき……キス、するなよ!しかも、2回も…!」


「ごめんなさい…でも、もう……ケン様を主として契約してしまったんです…!」


「契約ってまさか」


「はい……定期的にケン様とキスしないと、魔力を供給出来ない…ってことです……1日に、3回は必要かと…」


「1日3回、キス!?」


元気になっていくヒサオミとは対象的に、ケンが弱々しくなっていく。

夢にまで見たファーストキス。かわいい美少女とのキス。それが今後、1日3回をノルマにこなさなくてはならない唐突すぎる現実。

普段ゲームばかりで女性への免疫が無いケンには刺激が強い展開となってしまった。


ケンは目眩がしそうになるも、グッとこらえ、ヒサオミを真っ直ぐに見つめる。


「なあ、ヒサオミ」


「はい」


二度キスをした相手に、恥ずかしそうになるヒサオミ。

そこで、ケンはとんでもないことを口にする。


「結婚しよう!死ぬまで俺が…責任取る!」


「はい!?!?」



突然すぎる発言に、逆に驚かされるヒサオミ。ケンはそのまま、正面からヒサオミを抱きしめた。

…のだが。



「!?…きゃっ!?」


抱きつく勢いが激しく、ヒサオミを押し倒すように、そのまま床に倒れてしまった。ヒサオミが頭を打たないように、とっさに左腕を回して膝枕の形にしたところまでは良かったのだが。


ぷに。


「はわ…」


ヒサオミが小さな声を漏らす、その理由は。


「ちょ、あ、ごめん!!!!!」


…右手でヒサオミの左胸を服越しに揉んでしまっていたのだった。


仰向けになった胸は通常時より小さくなるのは一般的だが、それにしたって…



…ヒサオミの胸は小ぶりだった。



第1話:勇者、輝く



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