怪人組織の下っ端の俺、良かれと思って頑張ったら組織が壊滅した件について
「新人はコレを運んで。 余ったヤツは好きに使っていいよ」
俺は自分と同じ黒一色のスーツに包まれた先輩に言われ、銃や火薬を車のコンテナに積み込む。
勿論それはレプリカなんかでは無い本物の武器だ。
そんな危ない物を取り扱う俺達は普通の人間ではない。 所謂、怪人の下っ端Aと呼ばれる奴らだ。
「・・・・・・今回は爆弾が少し余ったか。 銃ならともかくコレは使い勝手が悪いな」
今日もいつもの様に車のコンテナに武器や弾薬などを積み込んだ。危険物なので一つ一つ細心の注意を払って丁寧に。
そして、今回コンテナに積み込めなかったのはスペースを取る設置型爆弾だった。 俺は色々な理由から廃棄が決まっているそれを、先輩の許可を貰って受け取る。
俺は先日、同じ様に先輩から貰ったヒーロー達の進行ルートについて描かれた地図を見ながら悩む。
何かこの在庫品を有意義に使う事が出来ないかと。
「俺は先に帰るわ」
仕事が終わった先輩は用事があるのか先に帰って行った。 俺も考えが纏ったら直ぐに帰ろう。
「帰る・・・そうか! 奴らの油断している帰り道に特大の爆撃をお見舞いしてやろう!」
爆弾の効き目が薄い超人である彼らも、疲労が溜まった帰りの車を爆破されれば少しはダメージを喰らうはず。 それに効かなかったとしても精神的に追い詰める事が出来る。
そんな天才的な発想が浮かんだ俺は、計画を実行する為にすぐに動き出した。
「明日戦う可能性が高いのは、桃色戦隊ピーチガールズか」
早速地図から奴らが使いそうな交通経路を割り出し、大量の爆弾を鞄に詰め込み始める。
憎きヒーロー共に地獄を見せる為に。
「そう言えば新人に渡した地図、怪人の交通経路を記したヤツだったな」
ふと、新人の先輩である彼は背中を向けながら呟いた。 勿論それは離れた距離にいる彼には聞こえない。
────翌日、俺は近くのビルの屋上のテントの中で胡座をかいて下の様子を眺めていた。 奴らが暫くしたら来るかもしれないと。
「行きはこの道を使ったから帰りも使う可能性があるはず!」
あんぱんを口に入れ、それを紙パックの牛乳で流しこむ。
俺は昨日から泊まり込みでこの場所に張り付いている。 憎きヒーロー共に一泡吹かせる為に。
勿論爆弾は設置&カモフラージュ済みだ。 元々人通りの少ない道なので除去される事も無いだろう。
「怪人の恐怖、思い知らせてやる・・・っと遂に来たか」
下の人気の少ない道に一台の黒いリムジンが姿を現した。 それは特有の音を鳴らしながら前に進んで行く。
「覚悟しろよ・・・ヒーロー!!」
────その頃、リムジンの中では。
「流石です、カニ軍曹! あの桃色ピーチガールズを倒すなんて!」
「大した事ない奴らだったカニ、でも少しは疲れたカニね〜。 今日は帰りに焼肉でも行くカニよ!」
「やっほーい! 久々の焼肉楽しみっす!」
其処には専用の椅子に深く座り、満足げに笑うカニ型の怪人。裏では普通に話す数人の一般兵の姿があった。
「流石は怪人の期待の星、カニ軍曹!」
彼らはカニ軍曹の決死の戦いの末、なんとかヒーローの撃退に成功したのだ!
カニ軍曹の必殺技、クラブスイングでピーチガールズを一纏めに倒した時には怪人側の皆が歓声を上げた。
そんな百回に一回程度の奇跡の様な出来事があり、彼らのテンションは凄く上がっていた。 運転手でさえ前の景色が正しく認識できないくらい。
その為、目を凝らせば見えるかも知れない爆弾にも気づかなかったのかも知れない。
突如車の下から轟音が響く。
「なんだカニィィィィ!?」
勘違いしたままの奴が遂に爆弾を起爆した。 同時に多くの爆弾が誘爆し、凄まじい衝撃が彼らを襲う。
その衝撃は辺り一体を吹き飛ばし、爆風はビルの屋上にいる爆弾魔にすら微かに届く。
「何が起こ・・・」
そんな惨状の真ん中にいた疲労困憊だったカニ軍曹は、状況を飲み込む事が出来ぬまま意識を落とした。
─────その頃、知らないうちに怪人の英雄を倒した男はガッツポーズを取っていた。
「良し! ピーチガールズ共を黒焦げにしてやったぜ!」
これで暫くは重症で仕事もままならないだろう。 男は予想以上の戦果に雄叫びを上げながら歓喜していた。
いや、戦果を上げたのでは無く彼は戦犯になっているのだ。 だがそれに気づく事は無い戦犯は能天気に喜んでいた。
「俺ツエー! この調子で全員ヒーローを戦闘不能にしてやるぜ!」
────怪人協会本部は慌しい空気に包まれていた。
「帰還中のカニ軍曹が何者かに爆破され、意識不明とのことです!」
「如何いうことだ! 早く犯人の特定を進めろ!」
送迎中の怪人が襲われるという異例の事態。 その事件の所為で全職員が絶え間なく動いていた。
「帰り道に襲うのは一種のタブー・・・誰がこんな事を!」
それは怪人、ヒーローからも暗黙の了解として禁じられている遵守すべきルール。
そもそも、普通に考えて帰路を爆破するのは許されない卑劣な行為だろう。 そんな事をお互いやり合えば秩序の無い戦いが始まり、夜も安心して眠れなくなるだろう。
だからこそ、今回の事件はヒーローとの闘いを苛烈なモノにする危険性のある一大事件なのだ。 毒殺や暗殺がまかり通る仁義なき戦いになる可能性のある。
────同時期、ヒーロー協会も騒動に包まれていた。
「本当にウチの奴らは何も手を出していないのだな?」
始まりのヒーロー、現ヒーロー協会の会長である大文字アツトはその場に居る全員に向けて問いただす。
「全員に確認、可能性のある者に調査をしましたが一切関与した者はいない様です!」
「そもそも優勢の俺らが手を出す理由が無いからな!」
「口を慎みなさい、トウヤ」
大文字アツトの孫、五代目レッドである大文字トウヤが会話に茶々を入れる。 そんな孫に対してアツトは注意する。
「・・・奴らの仲間割れか? それか、もしかすると新たな勢力が筆頭してきたのかも知れんな」
大文字アツトはこれから起こる最悪の事態を想定しながら頭を悩ませるのだった。
────そんな事も梅雨知らず、事件の張本人である彼は一人ダンスを踊っていた。 ビルの屋上で呑気にリンボーダンスを。
「オッレイッ!」
こんな彼、【榊栄輔】に気づく術は無かった。 自分が取り返しの付かない事をしてしまった事に。
この事件を発端に下っ端Aであった彼は両陣営から恨まれる第三勢力の頭領になる事を。