王都混乱編 背後に立つもの
革命軍を名乗る勇者が率いる軍勢は既に王城の目の前に迫っていた
「国王を出せ! 魔族に国を売ろうとする売国奴を出せ!」
勇者が叫ぶ。それだけで民衆は勇者の後に続く。今の民衆はバラバラな民兵ではなく、国王という餌に向かってひたすらに突き進む怪物と化していた。王城への道を守っていた衛兵をいとも容易く飲み込み、その怪物が通った後には装備を全て剥がれた衛兵が横たわっているだけであった
「ダメです! 城門防衛班はもう持ちません! 撤退指示を!」
「ダメだ! まだ王城内の避難が完了していない!」
「無理です! もう突破されます! ここで犬死しろと言うのですか!」
「城門を守り通せば貴様らは英雄となるのだ! 上からの撤退指示が来るまでは死守せよ!」
「東門からの定期通信無し! 突破された模様です!」
「クソッ! 何してんだ東門は!」
「隊長……アレ」
「なんだ……!? 総員撤退! 急げ!」
その瞬間西門は爆炎に包まれた。その少し前
「他の防衛班との連絡がつきません!」
「クソッ! 通信妨害か! 西門との連絡もつかないのか!?」
「ダメです……」
「そうか」
「どう致しますか? このままでは東門が突破されるのも時間の問題かと」
「伝令を走らせろ。どこでも良い! 増援を呼んできてくれ! 同時に伝えろ! 東門に勇者ありだ! 繰り返す! 東門に勇者あり!」
しかしその数秒後、東門は勇者の放った魔法によって氷像が大量に作られることとなった。そして中央の指揮所では
「東門及び西門からの通信が途絶。観測員より東門に勇者がいる模様。さらに西門にも大規模な魔法を扱える人物が存在している様子です」
「そうか……南門と北門の兵を下げろ。第二次防衛ラインまで撤退だ。それ以上は下がれない! 総員! 王城前の跳ね橋に集合せよ! 橋を落とすぞ!」
「「了解!」」
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(フン。聖騎士はまだ間に合ってないようだな。それなら俺1人でも王城に乗り込めたか……いやまぁ肉壁は多い程よい。ここにいるヤツらは所詮自分で考えることを放棄した哀しき生き物だ。こういう時勇者の肩書きは便利だなぁ! 恐らく城の前の橋は落とされるだろうが……最悪ここにいる人間を突き落としてでも橋にして突破してやる。絶対あの王は俺が討ち取る!)
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「王よ! 早く避難してください!」
「ならん!」
「今も兵士が王を逃がす為に戦っております! 今こうしている間にも命を散らす者も居るのです!」
「であるならば……兵を退かせよ。余は国民を見捨てて逃げる訳には行かぬのだ! それに……いやそれは今は関係ないか」
「何を言っているのですか! 王が敵に討たれるようなことがあれば、周りの国になんと言えば良いのでしょうか! 王を戦場に取り残すなど言語道断です! 早く避難を!」
「余はな? これでも昔はそれなりに剣の腕前は良かったのだぞ? 今でこそ衰えもあるだろうが……そこらへんの剣を触ったこともないような兵など、赤子の手をひねるよりも簡単なことよ。お前には苦労をかけたと思っている。最後の命令だ! 余を残し他のものを引き連れて王都から避難せよ! 隣国のタンセン王国であれば受け入れてくれるだろう」
「王よ……」
「さぁ行け!」
隣国タンセン。亜人と呼ばれる種族が多く居る国家であり、来る者拒まず去るもの追わずの精神でありとあらゆる種族が暮らしている国家である。確かにそこに逃げ込めば匿ってもらうことも容易だろう……だが
「王よ! 私も最初で最後のわがままを言わせていただきます! 王の命令には反対です! 私も残らせていただきます! 王の稽古相手はいつも私でしたからね? 久しぶりに稽古をつけて差し上げましょう」
「……クッ! ハァーッハッハッハ! 最初で最後のワガママだと? 貴様はいつもワガママばかりではなかったか!」
「そんなことはありませんよ! エルガルド!」
「遂には呼び捨てであるか! 面白いヤツよのぉ! まぁ貴様がそう決めたと言うなら仕方ない。こうなれば貴様はテコでも動かんからな! 他のものに伝えてこい! 余は貴様、ゾルエスデムと共に王城にて敵を迎え撃つと!」
「了解!」
そしてその頃遂に援軍が到着した。聖騎士、60名が革命軍の背後に追いついたのだ




