転生編 ①
その日、僕は死んだ。酷く呆気なく死んだんだ。
今日は月曜日。前日までの休日を思い出してこれからの1週間に顔を曇らせる人も多いだろう。それは守宮 シュウも例外ではなかった。今日も遅刻ギリギリに家を出ていつも通り小走りで学校へ向かっていた。但しいつもと違ったのは・・・
いつもより3分早く家を出た。赤信号をいつもの感覚で飛び出してしまった。前日までの週末気分が抜けず朝方まで遊んでいた僕は慌てて家を出た。そして、赤信号に気が付かずそのまま交差点に飛び出した。気がつけば僕は大型トラックの目の前に居た。響き渡るブレーキ音とクラクション、周囲の悲鳴を最後に僕の記憶は暗闇へ落ちていった。
〜〜〜〜〜〜
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹・・・456匹。
何をしているのかって?自分でもよく分からない。だって目が覚めたら赤ん坊になってたんだもん。喋ろうとしても
「あぁ〜」
しか出ないんだもん・・・いやほんっと意味がわからないよ。目が覚めたらいきなり知らない美人が居て嫌味かってぐらいイケメンが居て・・・最初は病院かな?とも思ったよ?でも声を出そうとしても出ないし、体も上手く動かないし。周りが何言ってるのかも理解ができないし?やっと動かせた手を見てびっくりしたよ。赤ん坊の肉団子みたいな手なんだもん。凄いびっくりした上いきなり泣き出すんだもん。てんやわんやだよ全く。
「oyusednakizonnahog~」
またこの美人さんが来たよ・・・いやもう認めるよ。だって赤ん坊だし?コレ異世界転生ってヤツでしょ?まさかホントになるとはねぇ・・・さぁ何言ってるか分からないけど多分ご飯の時間なんだろうね!ほら抱き上げられて〜ここから先は言えないね!
それにしても落ち着いてよく考えてみれば、めちゃくちゃ美人なお母さんと、さっきまでいたイケメンはおそらくお父さんだよな?めちゃくちゃ大当たりなご両親じゃない?
まぁ言葉わかんないから顔でしか判断できないけどね!それより僕日本語しか分からないけど大丈夫なのかな・・・母国語日本語なんだけど異世界語とか分からないよ?それに神様にも会ってないよ?こういうのってさ?神様に会ってチート能力とか貰って無双するぜ!ってやつじゃないの?その大前提の異世界言語が出来てないよ?
〜〜〜〜〜〜
結論から言おう。大丈夫であったと。まぁたしかに海外に3ヶ月もいれば言葉覚えるって言うしそれに近いものなのかな?それとも子供が親の話す言葉を理解出来るって言うやつなのかな?ともかく!僕は異世界言語を理解出来た!昨日でこっちの世界に来てから5年。もちろん転生してきたなんて言うのは秘密にしてある。この3年間でこっちの世界のことをかなり理解できたと思う。
まずは僕の転生先だね。家は貴族のシャクルトン家。王国の端っこの方の統治をしているらしい。爵位は青貴族。下から数えた方が早いらしい。折角なら大貴族みたいなのが良かったな、と思ったけれどもそれはそれで貴族としての圧みたいなのが厳しそうだし丁度良かったかな?と思い始めてるよ。
父はヨーシュ=シャクルトン。イケメンのイクメン。素晴らしい人格者だよ。
母のフラシカ=シャクルトン。めちゃくちゃ美人なお母さん。怒らせたらかなり怖いよ。
長男はフリーク=シャクルトン。父譲りの顔立ちにすごく頭が切れる頼れる長男。我がシャクルトン家の次代当主。僕とは丁度10離れてるね。
長女のプリシラ=シャクルトン。キレイめな顔立ちのキリッとしたお嬢様。でもすごく優しいお姉様。7歳年上。
次男のトリグス=シャクルトン。母様寄りの綺麗めな顔立ちをしているけれども父様譲りの性格で正義感が強い。魔法適性も高いらしくて父様は期待してるみたいだね。僕の4つ上だよ。
そして僕。三男のシエル=シャクルトン。金髪碧眼という素晴らしい外国人フェイスを手に入れた中身は普通の高校生。可もなく不可もなく平凡な日常がすごしたい。そんな5歳。
次女のフィーシャ=シャクルトン。僕の可愛い妹!神様がいるのなら僕をいきなり異世界に放り出したことをチャラにしてもいいぐらい可愛い妹!まぁまだ2歳だけども。とにかく可愛い!
うむ。多い。いくら貴族と言えど多くない?こんなものなの?まぁいいや!次は国だね!父様の治めてる地域はノリタス王国の端っこ。王国は昔は魔族と戦争してたみたいだけどすごい昔みたいで今は人と魔族が混じって生活する平和な国になったみたいだね。父様はその王国の最も端っこダエマ地域を治めてる。魔物も近くに居て結構危ないけどその分王国中から沢山の冒険者が来て賑わってるよ。勿論父様も騎士団を派遣して街を守ってる。父様、辺境の貴族だけど魔物の脅威が多いからか貴族の中でも多くの騎士団を持ってることで有名なんだ!それなりに貴族会議でも発言力があるみたいだよ。
まぁ長々と説明したけどとにかく僕は異世界転生で貴族な生活をしているって訳だ。
「シエル〜父様が呼んでるよ!」
どうやら父様がお呼びのようだ。
「わかったよフリーク兄様。今から行くよ」
〜〜〜〜〜
父様に呼び出されるなんてそんなに無かったんだけど・・・急に呼び出しなんてなにかしちゃったかなぁ。出来れば穏便にせっかくの異世界生活楽しみたいんだけどなぁ。
「父様、シエルです。」
「よく来てくれた。入りなさい。」
扉を開けて中に入る。豪華では無いが質素でもない。調和の取れた静かな部屋だ。
「シエル。お前ももう5つだ。今後どうするのかを決めなくてはならない。」
この世界では15には1人の大人として社会に出る。フリーク兄様は後継として貴族の立ち振る舞いや政治を学ぶ。トリグス兄様は魔法研究学校へ入学すると聞いた。僕は異世界転生者だ。折角異世界に来たのに冒険しないなんて考えられない。でも僕は貴族の子だ。それに僕は兄様達のような優れた才能は無い。
「父様。僕は・・・僕は冒険者になりたいです!」
「冒険者、か。お前は冒険者になりたいのか」
「はい」
「騎士ではなく冒険者か」
沈黙が流れる。父は厳しい人だ。きっと許してはくれない。それでも考えてくれる人だ。きっと
「駄目だ」
でも現実はそんなに簡単じゃない。それもそうだ。貴族の子どもが冒険者になんかなれない。僕は貴族の三男として兄様達を支えなくてはならないのだ。
「お前は弱い。人が良すぎる。フリークのように騙し合いができない。トリグスのように魔法に適性がある訳でもない。貴族としても冒険者としても才能が無さすぎるのだ。」
そうだ。兄様達はいつだって凄かった。僕にはできないことを平然とやってのける。フリーク兄様は既に貴族会議にも出席している。生粋の貴族だ。トリグス兄様だって魔法陣構成に長けている。僕と同じぐらいの頃には既に大人顔負けの魔法陣構成速度を誇っていたらしい。今ではほぼ無詠唱で魔法を連発できる。それなのに僕は
「だから強くなれシエル。」
強く・・・なる?
「お前には優れた師匠が2人もいる。私の自慢の息子たちだ。そしてお前はまだ才能が埋もれたままだ。お前は私の子だ。フリークもトリグスも私を超えるだろう。そしてそんな兄弟を持つお前が凡人であるはずがないのだ。お前も私の自慢の息子なのだから。」
父様・・・僕は何をしても普通だった。だから父様も僕のことなんて見てくれていないと思っていた。兄様達が優秀だったから、僕より優れていたから。
「お前は強くなれる。あと3年だ。その時までに力をつけて好きな道に進むが良い。」
8歳になるとこの世界では学校へ通う。そこから7年間学び社会へ出るのだ。つまり僕はあと3年で学校に通うことになる。それまでは待ってくれると言うのだ。
「私はフリークにもトリグスにも悪い事をしたと思っている。あの二人もやりたいことがあっただろう。しかし私の期待に応えようと自分を犠牲にしてきたのだ。私が気付いた時には遅かった。彼らは私の為に、私に認められる為に己のスキルを磨いた。私はお前に、シエルには好きに生きて欲しいのだ。」
「父様」
「しかし今のお前は弱い。力がない。冒険者になったとて、人に騙され魔物に殺されるだろう。だから3年間でお前は強くなれ!」
「はい!父様!」
父様は僕のことを見ていてくれた。それだけで嬉しかった
「父様。それは間違いです」
ふと声のした方を見ると兄様達が居た
「父様。私は父様に憧れて、父様のような立派な貴族になりたいと心から思っております。父様の息子として恥ずかしくない貴族になるために。」
「私もです。私はフリーク兄様のように器用な人間ではありません。しかしフリーク兄様よりも魔法で優れていた。だから私は魔法を極めたい。そのために鍛錬を積んできたのです。」
兄様達はハッキリと、生き生きとした目でそう言った。そこには嘘も強がりもなく純粋にそう思っている、そういう目で父様を見ていた
「お前たち・・・ほんとに立派になったな」
そういった父様の目には涙が浮かんでいた
〜〜〜〜〜〜
それから僕は兄様達にありとあらゆることを教えてもらった。僕が聞けばなんでも答えてくれた。なんでも教えてくれた。フリーク兄様も昔は冒険者に憧れていたそうで剣術も教えてくれた。
「シエル!まだ踏み込みが甘いぞ!」
「はい!フリーク兄様!」
兄様は強かった。王国騎士流剣術は護り強くなる剣術だ。長い歴史の中で完成された護るための剣。初めて見た時、美しいと思った剣術だ。
「今日はここまでにしよう。無理して詰め込んでも怪我をしては良くない。お前は強くなる資質がある。頑張れよ!」
「はい!兄様!ありがとうございます!」
兄様の剣は受けるだけで手が痺れる。でも段々と兄様の剣も見えるようになってきた。最初なんて何が起きたのか分からないまま1本取られたからな
「この陣は魔力の許容量が多い。これを効果的に配置することで魔法陣全体の魔力許容量が大幅に増加する。そうすれば初級魔法でも十分な火力を得られるぞ」
トリグス兄様の魔法勉強もすごく分かりやすかった。効果的な陣の組み方。魔法教科書には載っていないような組み方も教えてくれた。兄様は独自に陣を改良していたんだ。
「まぁ?そこら辺の魔術師じゃ僕の魔法の前では手も足も出ないだろうね!」
魔法のことになると他者を見下すのは悪い癖だと思うけど
「ソウデスネ。兄様ハスゴイデス」
「そうだろうそうだろう!ハッハッハ!」
この兄様・・・そのうち痛い目を見るぞ
「とはいえこんなに増強陣を置いてもこの魔法陣に魔力行き渡らせるのは相当な魔力量がないと厳しいだろうがな!だから適度な配置が大事なんだ。だから先ずはっと、こんなもんかな?このぐらいならシエルでも問題なく扱えると思うよ。1回試してみて」
言われた通り魔法陣に魔力を流す。この感覚を掴むまでがすっごい大変だった。けれども兄様の教えを受けた今なら
「ザピ」
魔法名を唱えた瞬間目の前に炎が上がった。初級魔法だ。それもほんとに簡単な魔法なのにこんなに燃え上がる炎が出るなんて・・・
「おぉ!凄いぞシエル!やっぱり僕の魔法陣構成は間違いじゃなかった!増幅陣も上手く組み込めば初級魔法でもこんなに!」
こうなった兄様はしばらく戻ってこない。マジックハイってやつだ。今日はここまでかな
初めての小説投稿です。もし今後とも見ていただけるようならブクマ、評価の方よろしくお願いします