6話 ある夜の風景ー03
こういう時なんて声を掛けていいのか、僕は分からなかった。
知り合いなら「いらっしゃい」とか「よく来たね」とかだろう。
知らない人でも、新聞屋とか、配達員とか、もう少し分かりやすい格好なら対応のしようもあるのだけれど。
目の前の女の子は、知り合いでもないし、分かり易い格好でもない。
否、分かり易いと言えば分かり易いのか。制服なのだから。コスプレとかでない限り目の前の人間は学生だろう。
……もしかすると宗教の勧誘だろうか?その可能性はあるかも………いやないか。どちらにしろ制服というのが引っかかる。
「……何のようですか?」
結局僕は、そんな何とも言えない微妙な言葉を発した。
「あの~、この家の人ですか~?」
控えめに、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、女の子は質問に質問で返してきた。
それにその質問は何なんだよ。僕が泥棒にでも見えたのか?
「あー、まぁそうですけど。何のようですか?家間違えてないですか?」
一番有りえそうな可能性を提示する。
「いえ~、それはそのぅ~、間違えてないと思うんですよぉ~」
声が小さい。語尾が聞こえにくい。僕は別に気にしないが、こんな話し方をしていたら、頑固親父とかに怒鳴られるんじゃないか?知らないけど。
「でも、僕はあなたの事を知らないんですけど。何のようですか?」
栞の知り合いだろうかとも考えたが、こちらから名前を出す気にはならなかった。
「え~、だって知らないのは当たり前じゃないですかぁ~?初対面なんですから~」
だから。それをさっきから聞いているのだ。初対面なんだったら、なお更何の用だか分からない。
「だから、何の用ですか?」
少し声が大きくなってしまった。僕は結構気の長い方なのになぁ。
女の子はびくっとして、ますます声が小さくなった。
「えぇ~、お客さんにそんな大声出していいんですかぁ~?」
「お客さん?」
何の事だ?
「【茉莉何でも相談所】ってここで有ってますよねぇ~?」