4話 ある夜の風景ー01
結局今日も一日これといった変化を見ないまま、夜を迎えた。
このままで本当にいいのか、と未だに悩み続ける僕の隣りでは、栞が本を読んでいた。
ピンポーン
というどこか間の抜けた音が家に響いた。
栞も僕も、数秒の間ぽかんとしたまま固まっていた。
もう一度音がなってようやく、それがこの家のチャイムだという事に気付いた。
鳴らす必要がなかったので、この家に住んで一週間にもなろうというのに、いままで聞いた事がなかったのである。
「……………心当たりは?」
栞が、弱冠の緊迫感を伴なった声で聞いてくる。
もちろん、僕にはなかったので、黙って首を振る。
「ふむ。出るべきか出ざるべきか。普通に考えれば居留守を使ったほうが得策だと思うんだが、君はどう思う?茉莉君」
「………仮に。もし仮に奴の差し金だとしたら、居留守を使った所で、ドアを壊して入って来るんじゃないか?」
「……かもしれないね」
「それに、関係なかったとしても、ここは僕は出ておくべきだと思うよ。近所付き合いとかもあるし」
「だから。近所付き合いはしない方がいいんだよ」
「それは違うよ栞。まったく無視していた方が、帰って目立つ事もある。ある程度はしておく方がいい」
ピンポーン
と急かすようにまた音がなる。
「……………まあどちらにしろ、これだけ煌煌と明かりをつけているのだから、居留守というのは苦しいか。出てきてくれるかい?茉莉君」
栞の言葉に頷いて、僕は玄関へ向かった。