3話 ある朝の風景ー03
「ところで茉莉君。頼んでいたものは出来たのかい?」
ずずず、とコーヒーを一口啜ると、栞が聞いた。
「頼んでいたもの?」
「……………まあ出来てなくても、そんなに変わらないんだけどね」
そう言いながらも、心底呆れたような目で僕をじとりと睨む栞。
うーん、忘れているんじゃなく、急に問われたから聞き返しただけなんだけどなあ。今更言うと嘘っぽくなるか?
「いや、出来てるよ」
「ふーん、何が?」
「何がって、だからホームページだろ?」
「………何の?」
「何でも屋のホームページだよ」
「……何でそんなものを作ったんだい?」
その理由は僕より栞の方が詳しいと思うんだけど。栞は怒ってしまったのか、執拗に質問を並べててくる。
「………機嫌を直してくれよ栞。朝っぱらからそんなに怒ってると―――」
しわが増えるぞ、と続けようとしたが、それがやぶへびになるだろう事ぐらいはいくら僕でも分かったので、出しかけた声を引っ込めた。
「……怒ってると?なんだい?」
「いや、何でもないよ。それよりもホームページを作った理由は僕が聞きたいくらいだ」
「そのぐらい自分で考えなよ」
「……………いや、考えたんだけどさ。せめて検索サイトぐらいには登録しないか?」
僕達のサイトはこのままの設定だと、せっかく作ったにも関わらず、某有名検索サイトだけじゃなく、あらゆる検索に引っかからない。直接URLを打ち込むくらいしかアクセスする方法が無いのだ。それならば何故ホームページなど作ったのだろう。
「だめだよ。さっきも言っただろう、あまり露出すべきではないと」
「でもアクセスする方法が無いじゃないか」
「それは考えてある。ほら、コレ」
と言って差し出したのは、昨日の日付の夕刊だった。わざわざ買って来たらしい。
栞の指が指す部分を見る。【あなたの悩み、何でも聞きます。詳しくはこちらへ】という文字の後にURLが書いてあった。
「これで十分だよ」
「いやいや、こんな一行の文、見逃しちゃうよ」
僕がそう言うと、栞はあからさまに溜め息をついて言った。
「あのねえ茉莉君。君はもっと【代償】というものを理解しなくてはならないよ。断言しよう。身の回りに【能力】関係のいざこざがある人間は、無意識のうちにホームページにアクセスしてしまう筈だ」