16話 探索一日目ー03
「………何もない」
声に出した所で、何かが変わる訳でもないのだが、何となく声に出して確認してみると、やはり何もないことが確認できた。
もともと僕は独り言が多い方だとは思うけれど、最近は特に増えて来たように思う。んー、悪い傾向なんだろうなあ。人がいる場所で喋らないから独り言なのだろうし、別に直そうとも思わないのだけれど。だいたい意識している時点でそれは独り言ではないのではないかという、そもそもの意味が分からないうえに、明らかに間違っている考えを、僕はあわてて取り止めた。
だいたい。
栞に弱みを握られているという訳でもないのに、なぜ僕はこんなにも頑張っているのか。確かに湊渡さんの【何かよく分からないもの】を見つけてあげたいという気持ちはあるが、僕だけがこんな苦労をするのは割りに合わないのではないだろうか。
なんとなくいらいらした気分が消えないまま、僕は3階の男子トイレから出た。てっきり冗談だと思っていたのに、まさか本当に探す事になるとは。栞は栞で、やっぱりどこかずれているんじゃないかと思う。
というか。もう高校生なのだから、男子トイレにくらい平気で入れるだろうに。今は放課後で、生徒もほとんどいないのだ。何を二人とも小学生みたいな事を言っているんだ。今の世の中、男が女子トイレに入るのは犯罪だけど、女が男子トイレに入ったくらい、往々にして許されてしまうのだ。ましてやここは学校なのだから、見つかった所で教師の指導くらいで済むだろうに。
そうやって僕が、どこにぶつけていいか分からない怒りをこねくり回していると、向こうから栞と湊渡さんがやって来た。あの二人は校長室を探していたらしい。そっちの方がよっぽど危険じゃないのか?
「………どうだった?」
僕の怒りを、栞たちにぶつけるのは見当外れもいい所だと、本当は分かっていたから、僕は怒りが声に出ないように勤めて聞いた。
「何もなかったと思うよ~。絶対無いとは言い切れないけど~、でもそれを言うと他の場所も全部そうだから~、茉莉君の方は~?」
「何も無い。と思う。男子トイレにあっておかしいものは何も無かった」
「ん~、やっぱり物じゃないのかな~?」
「何とも言えないけどね。それは湊渡さんにしかきっと分からないし」
「そうかな~、まあとりあえず今日はありがと~」
「ん、まあぼちぼち探していけばいいと思うよ」
するとふいに、僕と湊渡さんが情報交換をしているのを黙って見ていた栞が口を開いた。
「………む。茉莉君、何か君、怒っているのかい?」
栞が全部の男子トイレを探せとか言うからだろうという気持ちと、なんで分かったんだろうという気持ちが同時に沸き起こって、結局僕はその栞の問いに対して、上手く返答できなかった