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13話 栞と水木ー03


人は他人にほとんど興味がない。


学校に昼から登校するという件について、茉莉君は「いっそそれなら休んだ方がいい」とか何とか訳の分からない事を言っていたが、どうという事はない。私の予想通り注目らしきものを集めたのは教室のドアを開けたその瞬間だけで。それにしたって「あ、来たのか」くらいのものだ。ちらりとこちらを見た後、各人それまでしていた事に取りかかる。友達と話していた者はその続きを。次の授業の宿題を移している者は机へと視線を戻した。机に突っ伏して寝ていた者は、こちらを一瞥すらしていない。


人は他人に興味を示さないのだ。なによりもまず自分の事。自分が満たされて始めて周りに目を配る余裕が出てくる。だからーーーだけどーーー私は「茉莉」という人間にここまで興味を示しているのかもしれない。彼は変人だ。いろいろな意味で。だが変人でなければあの場所から生還する事など出来なかった。個々人が得体のしれない【能力】を持つあんな場所で、全員とそれなりに心を通わせていた。少なくとも通わせていたようには見えた。本当の所はどうなのか私にも分からないけれど。


つまり。結局人間は自分さえよければいいのだ。こんな風に決めつけると、あの変人はまた文句を言いそうだが、これは事実そうなのだ。あの場所で色々な人間を観察して来た私が弾き出した一つの真実。例外としては、親族や恋人、或いはーーー


「ああ来たんだね、栞ちゃん。なれない環境で病気にでもなってないかと心配したんだ」


例外の一つが話しかけてきた。例外とはつまりその人間に興味を抱いている人間だ。この水木の場合は私に対する明確なまでの下心。


ーーー何故こんな人間が人気なのか。


分かっている。人が人を慕うのは、純粋な尊敬以外には、金、権力、力。或いはそれら複数。

昨日のカラオケを全員分奢っていた事からも容易に想像がつくが、この人間は金と、おそらく権力を持っているのだ。


「ちょっと昨日は疲れちゃって。寝坊してしまったみたい」

自分で話していて、果たしてこれは私なのか分からなくなる。また「私」は「わたし」を作り始めているのかもしれない。まあまだ2日目だ。徐々にならしていかなければ。


「昨日は楽しかったね。また行きたいな。できれば今度は二人きりで」

気持ちの悪いウインクとともに水木がそう言う。どうやらこの男の事は、根本的に好きになれそうにない。


「そうですねぇ~」

私らしくもないが、曖昧に語尾を濁した。或いは湊渡君の口癖が移ってしまったのかもしれない。このいけ好かない男と二人きりなんてごめんだが、敵としてみなされるのは得策ではない。


「ところで栞ちゃん。茉莉君、だっけ?君の弟だけど、なんで和田なんかと話してるのかな?もしかして昨日の俺の話聞いてなかったのかな?和田はろくでもない奴だから話さない方がいいって遠回しに警告したつもりだったんだけど。ーーーどう思う、栞ちゃん?」


顔は笑っているが目が笑っていない。

「そんな事私は知らない。彼は変人だからね」と答えたい所だが、二重の意味でそういう訳にもいかないようだ。

まったく、あの変人は。

やはりどうしようもなくトラブルメーカーらしい。

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