2話 ある朝の風景ー02
「………栞もトーストでいいのか?」
テレビを真剣に見ている栞に問う。
「ああ、よろしく頼むよ」
「ん、分かった」
パンにチーズを置きながら、このままではまずいよなぁと思う。
僕も栞も料理がほとんど出来ないからだ。
いつまでも外食で済ますという訳にもいかないだろう。
「………料理教室にでも通おうと思うんだけど」
ほかほかと湯気を立てるパンを乗せた食器を、机に置きながら言う。
「駄目だ」
にべもなく言う栞。視線はテレビに向いたままだった。
「何でさ。お金なら自分で何とかするから」
「お金の問題じゃないんだよ」
パンを皿から掬い取り、ようやく僕の方を見て栞は続ける。
「外食で別にいいじゃないか。若いんだから」
「それこそ関係ないよ。それに、あんまり夜出歩くと、追っ手に捕まるかもしれない」
あつつ、とパンを一度皿に戻しながら、栞は僕に対して呆れた顔を向けた。
「あのねえ。君は勘違いしているよ。私達を追いかけているのは、決して殺し屋じゃないんだから」
「でも――」
「それよりも怖いのは、人と深く関わって、顔を不用意に覚えられる事だ。だから適当に店を選んで外で食べてればいいんだよ。習い事やバイトの類いは、だから積極的に避けるべきだ」
ずず、とコーヒーを啜りながら栞はそう続けた。
「でも!!」
「でも?」
特に何も考えてなかったので、栞に聞き返されて少し焦る。
「………でも、どういう形であれ人と関わっていかなきゃ、亜空達の居場所の手がかりが掴めないじゃないか」
「はん。君は【特殊警察】の持つ【施設】の情報を、料理教室の先生が知っているというのかい?」
「そうじゃないよ。そうじゃないけど…」
「とりあえず、君も早く座るといい。せっかくのパンが、冷めてしまうよ」
何か言い返したいのに、何も言えないまま、僕は栞の向かいに腰を下ろした。
そんな僕の目を覗き込んで、
「何よりね、君の【代償】の事があるだろう。のんびりできる内は、精一杯のんびりしておくのが一番だよ」
と栞は言った。