7話 みんなで?ー01
当然のように、何事もなく僕の記念すべき?井上高校での一日目は終わった。
これから湊渡さんの【何かよく分からないもの】を探すのだから、これから何かが起こるかもしれないが、とりあえず授業は何事もなく終了した。
「茉莉君」
と呼びかけられたものの、僕は呼びかけて来たその声が、誰のものなのか直ぐには分からなかった。分からないというより、判断がつかなかったという方がより正確だろう。
というのも、聞いた事がないような声だったからだ。
否、聞いた事が無いというのは的外れもいい所だろう。何せ、この声の主と僕は「知り合い」なのだから。「知り合い」と「友達」と「親友」との境界線は、どの辺りにあるのだろう。彼女と僕が「知り合い」程度の新密度しか持たないのだとすれば、僕には「友達」と呼べる人間がいなくなってしまいそうだ。彼女が何と言ったって、僕は彼女を「知り合い」だなんて他人行儀な枠に当てはめて置きたくはなかった。
だって彼女の行使するその理論でいくと、
強力な【能力】の【代償】として体に不思議な穴を持つ彼も、
見たくも無いのに他人の心を視る事が出来てしまう彼も、
簡単な範囲に限るが、自分の未来を選ぶ事が出来る彼女も、
その他のあの場所で出会ったみんなも、
「友達」ではなく「知り合い」という事になってしまう。
そんなのは、あまりにもあまりにも、寂し過ぎるじゃないか。
あの日。といっても一週間程前だが、栞と軽い口論らしきものを交わした日から、僕と栞の間には確かに溝のようなものがある。予想通りというべきか、次の日の朝には何事も無かったかのような態度で栞は話しかけてきた。だから僕も自分を誤魔化してしまいそうになるが、確かに僕らの間には溝が空いてしまっていた。
否。違うのだ。そうではなく、溝はあの時「空いた」のではなく、もともと「空いていた」のだ。栞の心に確かに近付いたと思ったのは、全て幻だったのだ。僕の勝手な一人よがりだったのだ。
「………おい、茉莉君。考え事は家に帰ってからにしないか」
少し低い、僕にとっては聞きなれた声が、耳元でした。
「……………あ、ああ。ごめん。で、どうしたの?」
栞はじとりと僕の事を少し睨んだあと、またあの聞き覚えのない声で言った。
「あのね、水木君が「みんなでカラオケにでも行かないか」って。歓迎会を開いてくれるんだって。茉莉君はどうする?」
栞はそこで声の大きさを落としてさらに続ける。
「できればごめん被りたいけどね」
どうやら栞は、学校では徹底的に仮面を被り続けるつもりらしかった。