6話 茉莉と和田ー02
「?」
声には出さずに、和田君の方を見ると、彼は目線を外した。気まずそうな雰囲気はない。
「和田君………だよね」
「………何で俺の名前を知ってるんだ」
視線を逸らしたまま、彼はそう聞いてきた。
「それは―――」
しまったな。事前にクラスの名簿を手に入れて、名前をある程度覚えて来たなどと、言える訳もない。
「あ?それはなんだ?」
「それはアレだよ。あの。先生がさっき言ってたんだ。お前は和田の隣りに座れって」
微妙に苦しい言い訳だった。
「あの先生がか?嘘だろ?」
何でこうもあっさり見破られるんだ?僕には嘘つきの才能が欠如しているとでもいうのだろうか。
と思ったが、どうやらそうではないらしい。嘘だと見抜いた訳ではなく、僕の発言の真実性を疑っているらしい。
「嘘なんかじゃないよ」
「そんな馬鹿な。あの出来損ない教師が俺の名前を呼んだだと?」
「出来損ない教師?」
「ああ、いや、なんでもない」
なんでもないって訳はないだろう。なんでもないのに、初対面の僕の前でこんなに取り乱すわけがない。
それは向こうも感じていたのだろう。バツが悪そうに言葉を付け足した。僕にしか聞こえない程の小声で。
「………そうだな。お前も覚えておいた方がいい。アイツはな、生徒のエコ贔屓が酷いんだよ」
「エコ贔屓」
「そうさ。お前もせいぜい嫌われないように気をつけるこったな……………そんだけだ」
「そうは言っても和田君………」
「それと。お前の事は何だか気にいったからこれも教えてやる。俺とはもう関わるな」
気に入ったのに関わるなとはどういう事だろう。
何故かは分からないが―――強いて理由を探すなら、きっと馬が合ったのだろう―――この和田という人間とは上手くやれそうな気がしていたのに、そんな事を言われると悲しいじゃないか。
「………それはどういう事」
「そこ!!五月蠅いぞ!!」
理由を問いただそうとしたが、その声は先生の怒声によって掻き消された。
注意されたのは、どうやら僕たちらしかった。
そんな馬鹿な。僕達を注意するのなら、それより先に、後ろの栞と……水木とかいう奴を注意すべきだろう。
……………なるほど。面倒臭そうな教室に転校して来てしまったものだ。