12話 訪問者の秘密ー03
湊渡さんは、僕が言った事がすぐには理解できないようで、ポカンとしていた。
蘇った僕のこの記憶が、アイツに植えつけられたものでないという保障はないが、【能力者】であるという事を知られるというのは、その人間に最大の弱みを握られる事と同義であるから、この反応も分からないではない、か?
「【能力者】を発見せしものは、直ちに1×0に通報する事。これに背いた者はその背景事情に関わらず、懲役30年の刑に処す。なお、通報者の情報は秘匿される」とかなんとかいう特別法律が有ると、確か栞から教えられた気がする。聞いた時にも思ったが、改めて思い返してみると、とんでもない悪法だよなぁ、これ。誰が【能力者】かなんて、自分からひけらかしたりしない限りまず分からないのだ。栞には他意が無いからよかったものの、今の栞と湊渡さんを見ていても分かるが、魔女狩りが蔓延るんじゃないのかコレ?嫌いな人間を、何人かで強力して【能力者】だという事にしたり。……………。
実際どうなんだろうか。あの場所で目覚めてからこっち、【能力】持ち以外の人とまともに喋った事がないからよく分からない。すっかり世間ずれしてしまったのだろうか、僕は。
「……………そうなんですか?……………。あ!!!じゃなくって、私!!違いますから!!【能力】とか知らないですし!!」
湊渡さんは、呆れる程に嘘が下手なようだった。よくこれで今まで通報なりされていないものだと思う。
これまで誰もカマをかけなかったのか、よっぽど友人に恵まれているのか、それとも最近【能力】が発現したのか、もしくはそれ以外かは分からないが、彼女はとても危ういように思えた。
「下手すぎる嘘はみっともないよ、湊渡君。……………君の心配も分かるが、こっちにも事情がある」
おい、出会って間もない子に喋るのか、栞?
慌てて栞を見る僕。とがめるような視線になっていただろう。
「事情?」
「ああ、私達に通報するメリットがない。それに私がしようとしても、このお人よしが力ずくで止めると思うよ」
僕は別にお人よしでも何でもないんだけどね。
「メリット、ですか?」
「そうだよ。実はこの茉莉君も【能力者】なんだ。わざわざ仲間を売る必要はないだろう?」
「ちょ、栞!?」
まるで自分は【能力者】じゃないような言い方をするなよ。酷くないか?
暫らく何か考えていた湊渡さんだが、ようやく落ち着いたようだった。
「分かりました。茉莉さんを信じます」
……………僕を信じるのか。栞の事はどうなんだろう?考えても詮無いことだが。
「それがいいね。それじゃあ依頼の事を話してくれるかい?」