きっかけ
人の声と食器のぶつかり合う音。都の中でも一番の騒音が鳴り響くここは冒険者ギルド。
昼間から酒を飲んで酔っ払った体格の良い男性達と、鍛え抜かれた体と、豊満な膨らみを惜しげもなく晒した露出の激しい格好で話し合う女性達。
「アレクの坊や!久しぶりだなぁ!依頼は終わったのか?」
明らかに周りと比べると年配で有りながら、周囲と一線を引いた存在感を放つ男性が、まだ青年と呼ばれる様な黒髪の男性に声を掛けた。
「久しぶりだなマスター。なんだよ、朝から飲んでんのか?」
そう言って笑いながらマスターと呼ばれる男性がいるカウンターに近づき腰を掛けた。
「ちょうど良かった!お前さん確か魔道士を探してたよな。」
突然振られる話題に青年が目を丸める。
黒髪の青年の名はアレクサンダー。あまり周りには知られて居ないが、現在王国の騎士団を纏めている騎士団長の一人息子で、大きな体格と、それをより大きく見せる鍛え抜かれた筋肉。一見怖そうにも見られる精悍な顔からは分かりずらいが、まだ十六になったばかりの青少年である。
「なんだよ、急だな。確かに魔道士を探してるが、そこら辺のやつだったらお断りするぜ。足手まといならはなっから要らねぇからな。」
「いやいや、そこら辺は保証するぞ!あ、ちょうどいいや、ほら、あれ!」
そう言ってマスターが指差す先にはローブを着て、フードを目深に被った小柄な人物がギルドに入って来た。
性別は分からないが、明らかに子供の体躯をしている人物は、依頼完了の際に行われる手続きをしに数メートル離れた窓口に直行し、手慣れた様子で会話を交わしている。
「いや、明らかにガキじゃねぇか......。後輩の育成とか俺は遠慮するわ。」
「そんな事いうなよ!まじで保証するぞー!あいつは今このギルドにいる魔道士の中で別格だ。なんなら俺はあれ以上の天才見たことねぇ。」
そう言うと、今度は少し声を落としてアレクサンダーに呟く。
「......ただちょっとばかし訳ありっぽいんだよ。出来ればもう少し此処に馴染んで欲しい。あのままだといつか一人でぽっくり逝っちまいそうでなぁ......。あれほどの才能をこんなとこで潰したくないだよ。」
ギルドマスターであり、元は最高ランクであるSランク冒険者であった彼にしては随分と高い評価をした。
「マスターがそこまで言うなんてな......。まぁ、俺もちょっと興味出てきたし、ちょっくら声かけてみるわ!」
そう言って小柄な魔道士が、早々に去って行った扉へアレクサンダーは駆け出した。
「まったく......。俺はお前のことも全く同じ様に思ってるんだかなぁ......。」