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第二十話 白魔女と理想の恋

「こうして改めて考えると・・・・・・騎士様以外にドキドキした人はいませんね」


リーヴェスの他に最近出会った男性と言えば魔術師団の二人だろうか。

ハインツとヴェルナーといった名前だった。

ハインツの方は綺麗な金髪の明るい若者だったが、ヴェルナーの方はずっと難しい顔をしていて、同じ魔術師でありながらなかなかに対照的な二人だった。

魔術師団というと騎士団同様に立派な国家組織で硬いイメージがあったが、ハインツはそれにそぐわない明るさと元気の良さがあった。

彼の性格を考えれば女性には人気がありそうだが、リラの琴線にはこれといって触れなかったので、やっぱりアインハードだけが特別だという気がする。


「もしかしたら騎士様が一番かっこいいのかもしれませんね・・・・・・」


自分がアインハードのことを普段どう思っていたのか、気づかされてしまったようだ。

なんだか少し恥ずかしい。


「やっぱり旦那さんのことが大好きなんじゃないですか〜!」


リラがぽつりとこぼした言葉に、ビアンカはきゃあっと喜んでいる。


「でも、ビアンカが好きそうなかっこいい人なら色々知っていますよ。騎士団の人だけでなくても、魔法使いとかの類も知り合いはいますし」


「ま、魔法使い・・・・・・!」


リラの言葉に目を丸くしてしまった。


「この国にも魔法使いはいますが、隣国の方が数が多いですね。彼らは癖のある人も多いですが、紳士的で面白い人が多いですよ。花をプレゼントするのが好きみたいで、会う度にブーケを貰いました」


「それってすっごく素敵じゃないですか!羨ましいですよ〜!」


だがビアンカのことは彼らには紹介できないだろう。

魔法使いは独占欲が強いので、ビアンカのことを気に入られてしまえば連れ去られて隠されてしまう。

それで、各々の屋敷やら城やらに閉じ込めて花嫁にしてしまうのだ。

それもひとつの愛であると彼らは主張するが、紳士的な仮面の下の本性をリラとしては好ましくは思えない。

もちろん、ビアンカの夢を壊したくは無いので絶対に言わないが。


「あとは、煌国の龍ですかね・・・・・・」


「龍!?」


「長く生きている強い龍ではありますが、人間体がかなりの美男子らしいんです。彼の人間体を知っている魔女は、みんな揃って彼のことをかっこいいと言うんですよね」


煌国の大龍、シェンユゥ。

かつてペルスネージュがリラと結婚させようとしていた相手だ。

シェンユゥとの結婚話が持ち上がったおかげでアインハードと契約することになったので、ある意味二人の出会いのきっかけとなったとも言えるだろう。

シェンユゥの人間体はリラはまだ見た事はないが、ビアンカにとっては心躍る話だったようでうっとりしている。


「美形の龍に魔法使い・・・・・・!素敵すぎますよ!そんな理想的な恋愛小説があったら、絶対に読んでみたいです・・・・・・!」


「でしたら、書いてみたらどうでしょうか?」


「え?」


何を言われているのか分からないと、きょとんとした顔をするビアンカ。


「ですから、ビアンカも恋愛小説を書いてみると良いと思ったんです。魔法使いの話も、大龍の話も、ビアンカが書いてしまえば良いでしょう」


「わっ、私がですか!?」


「きっとビアンカならできますよ。もし行き詰まったのなら私が相談に乗りますし、応援しますよ。ビアンカの理想の恋愛物語を、私も知りたいです」


「は、恥ずかしいですよぉ・・・・・・」


自分が作品を制作しているところを想像したのだろう、頬が赤く染まっている。


「大丈夫ですよ。好きこそ物の上手なれと言うでしょう。あなたのその情熱があれば、きっと素晴らしい物語が出来上がるはずです」


恋愛小説の話をするビアンカは輝いている。

酒について語る時のノーディカのように、そして薬について語る時のリラのように、彼女だけしかもっていない特別な熱がある。

魔女の勘ではないが、ビアンカの情熱はきっといつか形になるのだと思えるのだ。

それに、理想の恋を読みたいのなら、誰かが作るのを待っていないでその手で作り上げてしまえばいい。

魔女というのは時に謎の行動力を発揮するもので、気が向いたから家を建ててみただとか、暇なので石像を作ってみただとかそういうことをする者もいる。

ビアンカは魔女ではないが、それだけの熱意があるのならその気になればできないことは無いだろう。


「じゃあ、ちょっとだけ考えてみますね・・・・・・」


「はい。前向きにがんばっていきましょう」


やってみたいけれど、中々勇気がでない。

そんな表情で照れながらもそう言ってくれた。

あとはビアンカが一歩踏み出してくれればいい。

本人がやってみようと思えるまで、リラは傍で見守るだけだ。


「そ、それより縫い物を早く完成させちゃいましょうよ!もうずいぶん時間も経ってしまいましたし!」


照れ隠しのようにビアンカはそう捲したてると、再び針を手に取り黙々と作業を進め出す。

恋の話もいいが、今日の本題は縫い物だ。

まずはそれを終わらせてからだったとリラも手を動かし始める。


「そうですね、暗くなる前には終わらせましょう。帰りは送っていきますよ」


「そんな!すぐ近くですし、気にしなくてもいいですよ」


「いえ、私が心配なので。良ければ箒に乗せましょうか?」


「えぇ!?それはずるいですよ!絶対乗りたいです!」


魔女や魔法使いは箒に乗って空を飛ぶ。

リラとしては当たり前のように使用する魔法だが、普通の人にとっては物珍しくてしょうがないらしい。

喜びながら一生懸命手を進めるビアンカが楽しそうで微笑ましかった。



しばらく経ったころ、そろそろビアンカを帰らせないとと思っていたらようやく完成したようだ。


「やーっとできました!」


そう言って嬉しそうにぐんと伸びをしている。


「うん。良い出来ですね、さすがビアンカです」


リラの部屋にあるようなキルトの小さなクッションだが、可愛く作ることができただろう。

本人は否定しているが、手先は器用で飲み込みも早く、なかなかの手際だっただろう。


「そういえば、ビアンカに渡す花を選んでいませんでした。ちょっと待っていてくださいね」


外はもう夕陽で赤く染まっていた。

庭に出て、どの花がいいだろうかとじっくり眺める。

やはり、ビアンカの名にふさわしい白い花が良いだろうと考えていると。


「・・・・・・?」


ふと、遠くの方から足音が聞こえてきた。


「そういえば、今日は早く帰ると仰っていましたか・・・・・・」


きっとアインハードが帰ってきたのだろう。

そう思って出迎えようとしたのだが、何か引っかかる。


(何か、違和感が・・・・・・)


複数人の足音に、知らない人の話し声。

武器でも持っているのか、金属がカチャカチャと触れ合う音も聞こえてくる。

だんだんとその声と足音はこちらへ近づいてくる。


───────違う。

これは、アインハードではない。


こんな帝都の端で、リーンズワールの森の入口にある小さな家に用のある人間なんて限られてくる。

すぐ近くには町があるとはいえ、そこへ繋がる人通りの多い街道からは外れているのだ。

それが、複数人でわざわざこんな所を通ってくるなんて。


「まさか・・・・・・」


よく目をこらすと、遠くの方に黒服の集団が見えた。

リラの心の中にずっと残り続けているある記憶が、呼び覚まされる。

微かに感じる、魔女や魔法使いとは違う魔力の流れ。

どうか思い過ごしであって欲しいと思いつつも、リラはすぐさまビアンカのところへもどった。


「リラさんおかえりなさ・・・・・・ど、どうしたんですか?そんな顔して」


「すみませんビアンカ。理由は聞かずに、とにかく、こちらの部屋で隠れていてください」


唖然としているビアンカを連れてきたのは、素材の保管や薬の調合で使用する一室だ。

机や棚が並んでいるのでビアンカ一人が身を隠せるような場所はあるだろう。


「もし大きな物音がしたり、私が戻ってこなかった場合はそこの裏口から外に出て、騎士様を探してください。そろそろ帰宅する頃ですから、街道を真っ直ぐ行けば出会えるはずです」


相手がもしリラの想定通りの人物であれば、町の大人が太刀打ちできる相手ではない。

アインハードに助けを求める方が確実だ。


「急にどうしたんですか?何かあったんです・・・・・・?」


「後で話します。今は来客の対応が最優先ですから。でも安心してください。私は必ずビアンカを守ります。リーンズワールの白魔女の名にかけて」


「わあっ、綺麗・・・・・・」


リラがビアンカに向けて手をかざすと、ぱあっと白い光が一瞬放たれる。

念の為、守護の魔法をかけておいたのだ。

守護の魔法をかけたと言うと余計に驚かせてしまうかもしれないので、何をしたのかは言わないでおいた。

ビアンカは魔法も剣も知らない普通の少女だ。

一人にしてしまうのは不安だが、ここで隠れていてもらう方が隣にいるよりかは安全になるだろう。


と、その時。

玄関の方から、コンコンとドアを叩く音が聞こえる。


(複数人・・・・・・武器と、魔術・・・・・・)


強い魔力の流れを感じる。

それも、リラのものとは明らかに違う、異質な魔力。

残念なことに、嫌な予感は的中していたようだ。


「とうとう来ましたか・・・・・・失礼なお客様が」


リラは部屋の隅に立てかけてあった、布や紐の装飾が施された棒を手に取る。

アインハードの剣よりは大きいが、箒よりかは小さいそれは、先代白魔女が使っていたものだ。


「それ、何に使うんですか・・・・・・?」


「うーん、あえて言うなら『お掃除』ですかね」


怪訝そうな顔をするビアンカに、リラは苦笑するしかなかった。



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