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第十五話 白魔女と帝国騎士団

後から追いついてきたアインハードの部下の騎士たちに男の事は任せて、リラはアインハードと共に騎士団本部へ向かうこととなった。

その間、アインハードは何も言わず、ただあからさまに不機嫌そうな顔をしていた。

その傍らで、リラはこれ以上無言の圧力に耐えきれそうもなかった。


どうやらあの現場にアインハードたちが駆けつけたのはほんの偶然のことだったらしい。

住人が通りがかった騎士たちに向こうで何やら騒ぎが起きているらしいと助けを求めたところ、ああなっていたのだからそれはもう驚いたと。

白髪の少女が人質に取られていると聞いた瞬間、アインハードは恐ろしい形相になり、部下たちを置いて一目散に駆けていってしまい追いかけるのが大変だったと部下の騎士たちが言っていた。

偶然だったとはいえあの時間帯に彼らが騎士団本部と真逆の方向にいたということは、リラが道を間違えさえしなければ、アインハードに気づかれることなく騎士団を訪ねることができたはずだったということにもなる。

なんというか、色々と失敗しすぎたのかもしれないとリラは後悔した。


ようやく騎士団本部の中へたどり着けたが、当初の予定通りにはならないだろう。


「どうして騎士様がそれほどお怒りになるんです。私に何があろうと、騎士様が怒る理由にはなりませんでしょう」


リラには彼が怒る理由が分からなかった。

犯罪に巻き込まれたのだから心配されることはあれど、こんなふうに彼が怒る必要はないはずだ。

それに、リラは怪我ひとつしていない。

むしろあの男の方が被害は甚大といえるぐらい。

だがアインハードは、リラのその質問を聞いて余計に苛立ってしまう。


「むしろなぜ怒らないと思ったんだ。どうして一人で出かけたんだ、用があったのなら行ってくれれば良かったのに。俺は、俺の知らないところでリラさんが傷つくのは許せない」


「別に私は一人でも大丈夫ですよ。騎士様にわざわざ心配していただかなくとも、自分のことは自分でなんとかできます」


「・・・・・・それは、リラさんにとって俺はその程度の存在だということか?」


「え・・・・・・?」


思わずリラは言葉を失った。

そんなことが言いたかったわけじゃないのに。

アインハードのことを軽んじているつもりなどリラには一切ない。

それに、自分たちは契約夫婦だ。

リラとアインハードは恋人ではない。

リラに何があろうと、アインハードがそこまで感情を乱すような必要はないはずだ。


「騎士様・・・・・・?」


アインハードの唇が震えて、声がこぼれる。


「俺は、リラさんのことをこんなにも想っているというのに・・・・・・!」


今聞いた言葉が、リラには信じられなかった。

リラとアインハードの間には、友愛のようなものはあれど恋愛は無いと、そう思っていたはずなのに。

彼のその眼差しは、まるで、恋焦がれるようなもので。

見つめられると、頭ならつま先まで固まったように動けなくなる。

自分の知っている彼は、こんな顔をする人だっただろうか。


どんな返事をすればいいのか分からない。

今きっと自分の顔は真っ赤になっているだろうと、リラは半ば現実逃避のようにそう思った。

こんな展開、ありえない。

一体どうしたら、どうすれば。


「あれ?君たち夫婦は熱愛だって聞いてたけど、こんなところで夫婦喧嘩?」


一瞬にして冷静になった。

振り返ると、二人組の男性がリラとアインハードのことを見ていた。

金髪の若い青年が笑顔でこちらに手を振ってきて、その隣にいる黒髪の青年は興味が無さそうに他所を向いている。

ここは騎士団本部の廊下だ。

リラたち以外にも人がいることなんて、ちょと考えれば分かる事だったというのに、二人とも冷静でいなかったおかげで目撃されてしまった。

人前で言い争いなんてした挙句、こんなやり取りまで見られていたなんて恥ずかしくてたまらない。


「どちら様です?」


騎士団員かとおもったが、二人の青年の装いは騎士団とは違うもので、白を基調とした装飾品の多い衣装だ。

騎士団員ならまだしも、外部の人、それも客人であったらこんなに恥ずかしいことはないだろう。

アインハードは邪魔が入ったことで仏頂面をしている。

リラとしても正直、このタイミングで彼らの相手をする気にはなれなかったが、このままここで話を続けていれば彼らに筒抜けも同然なので見過ごすわけにはいかなかった。


「どうも初めまして。僕は魔術師団のハインツ・ノイラルト。こっちは僕の上司のヴェルナーさん」


ハインツと名乗った金髪の青年は、魔術師団の紋章を見せる。

騎士団へは仕事の関係で来ていたと言い、アインハードも以前に彼を見かけたことがあったそう。

一回きりの客であるのなら口論を見られてもいいかと思ったが、そう上手くはいかないらしい。

ヴェルナーと呼ばれた男性が前に出てきて、リラの顔を覗き込む。


「ヴェルナー・ヴォーリッツだ。つい先程噂を耳にしたばかりなのだが、魔術師でもないのに魔術を使う面妖な娘とは君のことだろうか」


「・・・・・・」


なんということか。

リラは何も答えられず唖然とした。

リラが魔女であるとバレてしまった上に、騎士団にそのことが既に伝わってしまっているようだった。

わざわざ人目につかない所で魔法を使ったはいいものの、アインハードの部下たちに任せた時はまだ魔法の効力が切れていなかった。

そのため、リラが魔法をつかったことが彼らに把握されてしまったのだ。

さらにハインツとヴェルナーは魔術師であるから、二人が調べればすぐに痕跡をたどられてしまう。

騎士団本部に着いてからずっと口論をしていたが、そんなことをしている場合ではなかったようだ。


「だから一人で出歩いては危険だと!」


「騎士様しつこいです!まだ言いますか!」


頭を抱えるリラにアインハードがまた同じことを言うものだから、負けじとリラも言い返す。


「たしかに私も悪かったですよ。騎士様が私を心配してくださっているのも分かります。でも私は騎士様が常に守らなければならないようなか弱い存在ではありません!」


「だが実際には事件に巻き込まれて危ない目にあっているだろう!」


確かにそれはそうだ。

そこに関しては反論の余地はない。


「俺だってリラさんのことを縛りたくて言っているわけじゃない。妻のことを心配しない夫がこの世のどこにいる?俺はただリラさんのことが」


「はいはいそこまで」


アインハードの言葉を遮り、二人の間に割って入って来たのはリーヴェスだった。

騎士団長らしい威厳のある佇まいでありながら、その微笑みは優雅である。


「団長・・・・・・!」


「騎士団長様!」


叱られてばつの悪そうな顔になるアインハードと、救世主の登場に歓喜をあらわにするリラ。


「二人とも、話し合いが必要なのは分かるけどまずは一旦落ち着いてからだね。お客様の前で、言い争いなんてしていてはいけないよ。アイン、お二人を案内してあげて。そのついでに頭を冷やしてくるといい」


「・・・・・・わかりました」


アインハードは渋々といった様子で頷く。

微笑んでいるリーヴェスだが、さすが、長い付き合いとあって彼の扱いに関しては誰よりも長けているだろう。


「わあ、有名な黒騎士さんに案内してもらえるなんてありがたいなあ。第二部隊のヘルベルトさんに話が聞きたいんだ。来月の遠征の件で、依頼されてたことがあって」


「・・・・・・それでしたらこちらに。ついてきてください」


ハインツは茶化すように笑いつつアインハードの後ろについていくが、アインハードはそんなハインツに少し苛立った様子だ。

だが、ヴェルナーはまだなにか気になるようで動かない。

どうしたのか、リラのことを訝しむように見ているのだ。

それを察してくれたリーヴェスが、リラとヴェルナーの間に入ってくれる。


「彼女はアインの妻です。ヴェルナー殿はリラ嬢のことが気になっているようだけれど、彼女はただの薬師の娘です。魔術を使った言う話も、勘違いではないでしょうか?リラ嬢にそのような力はありませんよ」


リラも後ろで首を縦に振る。

おそらく、どう考えてもヴェルナーはリラが魔女ではないかと疑っているのだろう。

だがリラは、表向きの設定ではただの薬師の娘だ。

治療がきっかけで黒騎士アインハードの心を射止めたという馴れ初めを持つだけの、ただの娘である。


「・・・・・・そうか。もしかすると、リーンズワールの森の白魔女とやらではないかと思ったのでな」


やはりそうだったらしい。

しかもよりにもよって、リーンズワールの白魔女とわざわざ名前を出してきたが、できるだけ正体がバレるのは避けたいところだ。

リラはあの家で白魔女として町の人々や森の住民たちの為に力を使いたいと思っている。

だが帝都の、それも魔術師団という国の組織の人々にとっては、リラの力は研究対象であり国のために使うべきであると考えるのが普通だ。

先代の頃にも、魔術の研究をさせて欲しいと帝都から人々が何度も押し掛けてきて追い払うのが大変だった。

まだ見習いだったリラは当時の出来事によって、魔女であることはあまり公にせず町の人々だけに知られるひっそりとした存在としているべきだろうと強く思った。


(知られたら、魔術の研究に協力させられてしまうのでしょうか・・・・・・)


それだけは嫌だ。

彼らの使う魔術と、リラたち魔女が古より受け継いできた魔法は、相容れないものだ。

魔術師団のことを悪く言いたいわけではないが、彼らが魔法を使い掟を破るような真似をしてしまえば、古からの力は失われてしまう。

どうにかして、上手く追い払えないものか。

そう頭を悩ませるリラだったが、次の瞬間すぐに顔を上げた。


「白魔女に、なにかご用でも?」


ヴェルナーに冷たく言い放ったのはアインハードだった。

美しい瞳が、鋭い光を放ってヴェルナーを威嚇している。


「知っているのかね」


「リーンズワールの白魔女は帝都の人間を相手にしません。地元の住人以外には、めったに薬を渡すことはありません。依頼をしたいのなら諦めた方が良いかと」


きっぱりと強い口調で言い切った。


「・・・・・・なるほど。ご忠告ありがとう」


ヴェルナーもこれで諦めてくれたようで、お互いが無愛想にそう言うと話は終わる。


「あーあ、ヴェルナーさん嫌われちゃったね」


ハインツが茶化すようにそう言ったが、ヴェルナーは全く反応せずハインツに冷ややかな視線を送るだけだった。

アインハードのその口ぶりからしてもう察しはつくだろうが、触れないでおくべきだと理解してくれたのならそれでいい。


「じゃあ、私たちも行こうか。おいで。美味しいお茶を入れてあげよう」


安心したのも束の間、リーヴェスに案内されて客室へと通される。

色々あったものの、騎士団長であるリーヴェスに話を聞くという当初の目的は達成できそうだ。



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