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75 探る男

ユリシーズ視点

 ユリシーズは本部から出たゼウスとハロルドの後をつけた。


 ゼウスとハロルドは真っ直ぐゼウスの恋人が働いている古書店に向かった。二人は彼女と店の奥に行ってしまったが、ハロルドもいるのだからおかしなことにはならないはずだ。

 道路を挟んで反対側にある数軒離れた雑貨店に入り、店内を物色するふりをしながら彼らが出てくるのを待った。


 隊服のままのユリシーズは目立つのだが、雑貨店の店員が何か言ってくるわけでもないし、ゼウスを含めた監視対象者たちにさえ気付かれなければ大丈夫のはずだと思った。


 しばらくすると銃騎士隊員二人とゼウスの恋人、それから店主らしき人物が軒先まで出てきた。


 彼らは何事かを話していたが、何の前触れもなく突然、ハロルドがその場から脱兎の如く走り出した。


 いきなりだったので一瞬何かの非常事態かと思ったユリシーズは、雑貨店から飛び出してしまった。


「ハル! 待てって!」


 ゼウスが逃げるハロルドを追いかけて消えていく。


(あの二人、何かあったのか?)


 二人の後を追おうとしたユリシーズは、ハッと視線を感じてその方向を見た。


(ゼウスの恋人が、こちらを見ている)


 雑貨店は古書店を挟んでゼウスとハロルドが消えた方向とは反対側にある。


 ゼウスたちの背中を見送りこそすれ、全く反対側に視線を向けてきたことに違和感を覚えた。


 彼女と視線が合ったのは数瞬だけだ。彼女はすぐにユリシーズから視線を外して、再びゼウスたちが走り去った方向に視線をやり、名残惜しそうに佇んでいた。


 ハロルドとゼウスの足が早すぎるので、こちらも見失わないように全速力だ。


 道路を挟んではいるが古書店前の歩道を通り過ぎても、再度彼女がこちらを気にした様子はなかったが、自分がゼウスたちを追っていることを彼女に気付かれた。


 ユリシーズは内心で失敗したかなと思っていた。











 ハロルドの家でゼウスと別れたユリシーズは、ゼウスが自宅に入る所までを確認した後、再度古書店に向かった。


 本当は明日の朝までゼウスに張り付き、恋人との接触に警戒する必要があるが、ユリシーズはもう一度だけ彼女の様子を探りに行くことを選択した。


 引っかかりを覚えたからだった。なぜあの時ゼウスの恋人が振り返ってこちらに気付いたのか、どうしても気になった。

 ただ、たまたま周囲を見回した時に隊服を着ているユリシーズが目についただけかもしれないし、自分が気にしすぎているだけなのかもしれない。


 しかしユリシーズの直感が、この違和感を見逃してはならないと告げていた。











 古書店のある南大通りに着いたが、ゼウスの恋人には先程自分の姿を見られている。


 ゼウスたちを追っていた男が再度現れたら変に思うだろう。彼女には自分が近付いたことを気付かせないつもりだった。


 これはただの自己満足である。彼女の様子を少しだけ観察したら、ゼウスの見張りに戻るつもりだった。


 軒先に立っていた先程とは違い、彼女は古書店の中にいるはずなので、雑貨店に潜んでいた時よりも接近しなければ彼女の様子はわからない。


 どう探ろうかと考えながら古書店へ続く道を歩いていた時だった。


 視線を感じる。ごくごくほんの微かな気配。


 ユリシーズはゆっくりと歩きながら僅かに目線を上に向け、何気ない風を装い感じた視線の先を確認した。


 古書店の二階の窓に誰かが潜んでいた。


 ユリシーズからはその姿は見えないが、誰かがこちらを見ている。


 ユリシーズは幼い頃より残飯を食らって命を繋ぐ生活の中で、飲食店の従業員に生ゴミを漁っているのを見つからないように、破落戸(ごろつき)や不良少年たちに捕まって暴力を振るわれないようにと、人の気配を察することには野生動物並の勘を培ってきた。


 今ではその力も格段に研ぎ澄まされ、銃騎士隊の中では誰よりも人の気配を読むのが上手いと自負している。


 古書店の二階にいる人物は気配を押し殺しているようだったが、「人の気配を探る」能力において神の領域に近い位置にいるユリシーズの敵ではなかった。


 それはほんの出来心だった。ユリシーズはそれとわかる殺気を身体から出してみた。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」


 殺気を出したまま、道行く体格の良さそうな男に声をかけた。

 あくまでも偽装(カモフラージュ)のつもりではあるが、突然銃騎士に声をかけられて驚いている男と、道を尋ねるふりをして二言三言会話をし、男と別れてから殺気を消す。


 ユリシーズが殺気を出した瞬間、古書店二階のカーテンが揺れてその人物が反応を示した。


 真っ赤なスカートの端がわずかに見えた。


 赤いフレアスカートに白いブラウスは、今日のゼウスの恋人の服装だ。


 ウィンストン古書店の従業員は、店主とゼウスの恋人の二人だけであるが、たまに店主の孫娘が手伝いにやってくるという話を、ゼウスとの何気ない話の中で聞いたことがあった。


(二階にいるのならば客ではなく身内だろうし、恋人か孫娘のどちらかだろうが、まだ確定はできない)


 窓際の気配は未だそこにある。


(ゼウスの恋人には極力近付かないつもりだったが、作戦変更)


 このまま店に入って一階部分の店舗にゼウスの恋人か、または孫娘がいるかどうかを確認しようと思ったが、ユリシーズは結局店内に入ることはなく、何食わぬ顔で店の前を通り過ぎた。


 時間帯は夕刻。ちょうど豪華な馬車がやってきて古書店の前に停まり、中から金髪をツインテールにして通学鞄を背負った美少女が降りてきたのだ。


 少女は杖を突いて片脚を引きずるように歩きながらも、「たっだいまー」と元気な声をかけて店の中に入って行った。


 表情は変えなかったが、ユリシーズは確信した。


(玄人でなければ気付かない殺気に反応し、隠れてこちらを探るように見ていたのは、ゼウスの恋人で間違いない)


 現にユリシーズが殺気を出しても、目の前で道を尋ねた男は、銃騎士に話しかけられたことには驚いた様子だったが、それ以外については特にこちらを警戒した様子もなかった。


(少なくとも、ゼウスの恋人は何某かの戦闘訓練を受けたことがあるはずだ。ただの一般人ではない)


 しばらく歩いて古書店が見えなくなった頃、ゼウスの自宅へ向かうために道を歩きながら、ユリシーズは思案顔になっていた。




(あの娘…… 一体何者だ……?)


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完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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