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70 誓い 1

ゼウス視点

「――――ってわけなんだけど、ごめん! 結婚同棲その他準備も含めて諸々延期してもらってもいいだろうか!」


「うん、いいよ」


 本部を出たゼウスは一つの決意を胸にメリッサの勤める古書店へやって来た。大事な話があるから少しだけメリッサを借りたいとリンドに断りを入れると、奥の部屋を使えと二階の従業員用休憩室に通された。


 ハロルドは、メリッサに転勤の話をするつもりだと言うと、自分も一緒に行くとついてきた。ハロルドはメリッサと会うのは初めてだが、どうしてもメリッサに言っておきたいことができたのだという。


 メリッサは人数分のお茶を淹れようといていたが、時間がないからとそれを止めてゼウスは早々に話を切り出した。


 急な辞令のことを話して謝ると、メリッサは二つ返事であっさりと結婚延期を了承した。彼女に嫌われないようにと色々なことを考えながら店にやって来たゼウスは、正直拍子抜けしてしまった。


「そっか…… でも、そんなに遠い所へ行くとなると、なかなか会えなくなっちゃうね」


 メリッサは結婚云々よりも、遠距離恋愛になってしまうことを憂いている様子で、悲しそうな表情を見せた。


「メリッサ!」


 ゼウスはガタリと音を立てて椅子から立ち上がると、テーブルの向かい側で名前を叫ばれて驚いているメリッサのそばに寄って跪き、彼女の手を取った。


「メリッサ! 結婚しよう!」


「う、うん…… 結婚する、よ?」


 結婚することは既に二人で決めたことだ。改めての宣言を疑問に思ったのか、メリッサはやや小首を傾げている。


「俺が言っているのは、今日、今からすぐに婚姻届を出して結婚しようってことなんだ!」


「えっ?」


 自分の言いたいことが正確には伝わっていないと察したゼウスは、ここに来る途中でずっと考えた末に絞り出した決意を口にした。


 結婚延期や遠距離恋愛になることにメリッサが少しでも悲しそうな顔をしたら、すぐにこの話をしようと決めていた。


 転勤の話を少し前に聞いたばかりで自分でも少し直情的すぎるような気もしたけど、メリッサと結婚することはゼウスにとっての決定事項だった。


 あるのは多少早くなるか遅くなるかだけの違いしかない。ゼウスはメリッサの不安が少しでも和らぐのならば、今すぐ婚姻届に署名することに何の躊躇いもなかった。


 自分の生涯の相手はメリッサしかいない。メリッサと万が一にでも別れるような場合があれば、自分はきっと一生独り身のままでいるに違いない。


 メリッサは驚いて何も言えなくなっている。


「君のことがとても大好きなんだ。一度向こうに行ってしまったらいつ戻れるかわからないし、きちんとしておきたい。急すぎる話で驚かせてしまっているのはわかっているけど、婚約指輪も結婚指輪も用意する時間すらなくなってしまったから、せめて俺自身を受け取ってください。俺の全ての愛を君に誓う」


「ありがとう」


 メリッサが嬉しそうに笑った。太陽みたいに屈託なく笑う、ゼウスの大好きな笑顔。


「本当は離れたくない。ずっとそばにいたい」


「ゼウス、私もよ……」


 ゼウスがメリッサの頬に手を添えた。二人の顔が近付いて行く。


 唇が触れ合う寸前、ギシリ、と建て増しをされたという二階部分の木製の床が軋む音がした。


 ゼウスとメリッサがはっとして音のした方に目をやれば、『しまった見つかった』というような今にも泣きそうな顔をしたハロルドが、及び腰の状態で部屋の外へ出ようと足を踏み出したまま固まっていた。


 二人の視線を受けたハロルドは顔色を悪くしたまま狼狽えていた。


「いえあの……! お、おおお俺のことは気にせずに! ど、どうぞそのままごゆっくりっ!」


 ハロルドは普段どもったりなどしない。


 ハロルドがそばにいることを忘れていた二人は赤面した。


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完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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