64 実らなかった恋 1
この章はジョージ視点の回想・説明過多な話が続きますm(_ _)m
その日、本部にある一番隊長執務室へ現れたその人物を見たジョージは、かつての部下の訪れに顔を綻ばせた。
「やあやあ、これはジュリアス君、久しいね」
「ご無沙汰しております、隊長」
ジュリアスもジョージに向かって麗しい笑顔を見せた。根無し草の二番隊長アークに代わり、普段ジュリアスは本部にいることも多いのだが、年明け以降彼はずっと獣人による深刻な被害を受けた村々の復興支援のために各地に滞在していたので、顔を見るのは久しぶりだった。
ジュリアスは最初から二番隊に所属していたわけではなく、銃騎士養成学校卒業後は一年間だけジョージの率いる一番隊に配属されていた。
今は二番隊に移って隊長代行として忙しくしているようだが、ジョージはその当時のことを懐かしく思い出す。
ジュリアスは最初からとてつもなく有能で、頼もしい新人だった。しかしその容貌から貴婦人たちに粉をかけられまくることも多く、少し前のゼウスのようにかなり大変な思いをしていたと推察される。その様子は一時期のゼウス以上だった。
出待ちのようにどこへ行くにもファンの女性が付きまとい、手紙やらプレゼントやらが毎日のようにジュリアス宛で本部まで送られてくる。自宅にも物や人が押し寄せていたらしく、彼は途中から実家ではなくて隊員の独身寮に住居を移していた。
最初の頃の令嬢たちによるジュリアス争奪戦は苛烈だった。
「ジュリアス様と肉体関係を持ちました!」だとか、「ジュリアス様の子供を身籠りました!」などと、偽装妊娠も含めて言い出す令嬢が後を立たなかった。
しかし不思議と令嬢がジュリアスと関係したとされる時間帯に、彼には必ず不在証明があった。かなり巧妙に仕掛けられたと思われる場合であっても、後から必ず証拠が出てくるので、ジュリアスが責任を取らされる形で結婚に追い込まれるようなことには全くならなかった。
妊娠した令嬢たちのお腹の子はジュリアス以外の種だったらしく、相手がどこの誰かもわからないような場合もあって、かなり揉めたと聞く。
一連の騒動においてジュリアスが常に、女性を和姦もしくは孕ませたという汚名を着せられそうになった被害者であり続け、彼への誹謗中傷すら立たず一度も立場が悪くならなかったのは、ひとえに彼の生家であるブラッドレイ家の秘密と関係している。
当時は、ジュリアス本人までもが魔法を使えることをジョージは知らなかった。けれど、彼の父親である二番隊長アーク・ブラッドレイが魔法使いであることは銃騎士隊の極秘事項としてジョージが知る所でもあった。
魔法使いにとっては証拠の偽装などはお手の物だ。ジョージは、これらの件についてはアークが息子をかばったのだろうと思っていた。全く悪評が立たないというのもおかしな話であるわけなので。
もしかしたら令嬢たちの何名かは本当にジュリアスがお手付きにしていたのかもしれないが、真相は闇の中だ。
ジュリアスの入隊以降、最初は激烈だった令嬢たちの反応も、とある一人の女性とジュリアスが恋仲であると噂が流れてからは、やや沈静化の動きを見せた。
その女性は並の貴族令嬢では太刀打ちできないほどの高貴な人物だった。彼女はこの国の未婚女性の中で最も尊いとされる立場にいた。
彼女の名はジュリナリーゼ・ローゼン。宗主ミカエラの二番目の娘にして、成人と共に次期宗主としての地位が確立した人物だった。