表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/244

45 姉のお節介

アテナ視点

「お邪魔します……」


「いらっしゃい、待ってたわ。あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ」 

 

 アテナは、玄関先で挨拶をする弟の彼女――――メリッサに、にこやかに話しかけた。


 今日は将来義妹になるかもしれない女の子がうちに初めて遊びに来る日だ。


 お付き合いしている人ができたのならきちんと紹介しなさい、家に連れて来て――――と言ったのはアテナからだが、ゼウスは最初家に連れてくることを渋っていた。


 幼い頃からずっと一緒にいるアテナは、弟が何を考えてそのような行動に出たのかを理解していた。


 初めて会うのは家ではなく外でも良かったのだが、アテナにはとある目的があり、それを成功させるためにはどうしても自分の家の方が都合が良かった。


 ゼウスはいつまでも家族に会わせないわけにはいかないとでも思ったのか、何度目かの交渉でようやく彼女と「初対面」することが決まった。


(本当は初対面じゃないけどね……)


 ゼウスが自ら女の子を誘ってデートすることになったと知った時から、アテナはその相手のことを探り続けてきた。


 名前と職場を確認し、何度も彼女が働く店に足を運んだ。ノエルの魔法で姿を変えてもらって、客を装い彼女に話しかけたり、彼女に会計してもらって本の購入をしたりした。


 メリッサはアテナに笑顔で接客してくれて、とても好印象だった。明るくて元気でとても良い子だと思う。彼女になら弟を任せてもいいとアテナは感慨深く思っていた。


 家政婦としてこの家に通ってくれているマチルダが淹れてくれたお茶を飲みながら、ソファに座りメリッサと他愛もない話をする。


 メリッサはお店にいる時とは違い、アテナに対してどこかよそよそしかった。そうかと思えばふとした瞬間にこちらの顔を凝視しているようにも見え、「私の顔がどうかした?」と問えば、「……いえ、ゼウスに面影が似ていると思って………… すみません……」と恐縮したような答えが返ってくる。


 いつもの溌剌とした感じが抜けているようで違和感を感じたが、初めて彼氏の家を訪問してその家族に会っているのだから、きっと緊張しているのだろうと思った。


 ゼウスはメリッサの隣に座っていて、しばらく三人で会話を楽しむ。本当はノエルも紹介しておきたかったのだが、実家に用事が出来たと今日は不在にしている。


「ノエル・ブラッドレイ……」


 同居人の名前を出すと、メリッサは驚いた様子で目を見開きノエルの名前を呟いていた。


 ノエルもモデルをしていてそこそこ有名だから、彼がこの家に一緒に住んでいると聞いて驚いたのかもしれない。


「あらゼウス、ノエルのことをメリッサちゃんに言ってなかったの?」


「え、ああ…… うん、まあね」


 ゼウスの答えは少し歯切れが悪い。


(ふふふ、ゼウスの考えなんてお姉ちゃんは全部お見通しよ。ノエルはトンデモ美少年だからね。ノエルに会ったメリッサちゃんが心変わりするんじゃないかって、少し心配してたのよね。

 あなたは亡くなったベラちゃんのことをずっと思い続けられるくらい愛情が深くて、独占欲も強い所があるからね。

 でも大丈夫よ。あなたの恋人を信じなさい。

 この子はたぶんそんな子じゃない。いつもあなたの周りをうろちょろしている、あなたの外見だけしか見てないような女子とは違うわよ。この子はきっと、あなたをちゃんと愛してくれる。根拠はただの勘だけど、そう思うのよ)


 ゼウスがメリッサに心底惚れているのは手に取るようにわかったし、ゼウスの様子から二人がまだ結ばれていないこともアテナはわかっていた。


 アテナはゼウスの望みを叶えてやりたかった。


 即ち、()()()()()()()()()()やりたかった。


 風呂くらいどんどん一緒に入ったらよろしい、とアテナは思っていた。


 アテナだって、元彼のアスターと何度も一緒にお風呂に入り、イチャコライチャコライチャコライチャコラしたものだった。


 結局アスターとは道を違えることになってしまい、色んなことを思い出すと辛くなって仕方がない時もあったけれど、今は彼とのことは完全なる思い出として昇華できている。

 アスターは一生そばにいる相手ではなかったが、あれはあれで良いものだった。


 ゼウスにだってあの幸せを経験させてあげたい。


 思い出すのはホテルでノエルと共に二人の食事風景を探っていた時のことだ。時折、ゼウスがお風呂がどうのこうのと珍しく赤面しながらメリッサに向かって何かを言っていた。


 ノエルにゼウスの発言の内容を確認したところ、『ゼウスは彼女と一緒にお風呂に入りたいそうです』という答えが返ってきた。


 ゼウスは今まで女の子はイザベラにしか興味を持ったことがなかったから、もしかしたら本当は男が好きなんじゃないかと、一時期本気で心配していたことがあった。


(しかし、そんな弟にもようやく春が来た!)


 ゼウスがどうしても男が好きだと言い始めたらそれでも構わないと覚悟を決めたこともあったが、できればレイン(元彼の親友)が義弟になるよりも、全然関係のない女の子が義妹になってくれた方が断然良かった。


『それにしてもまだ交際していない相手に対して一緒にお風呂に入りたいと言うだなんて、破廉恥すぎる発言だわね』と思いつつも、女の子にそんなことを言うようになった弟の変化をアテナは歓迎していた。


 しかし、見ているこちらが恥ずかしくなるくらい顔を赤くしたゼウスが風呂が云々と彼女に話していても、肝心のメリッサはどこ吹く風であり全く相手にされていなかった。


 アテナはその様子を見て弟を憐れに思った。


 レストランでの食事が終わった後、顔をほんのり上気させて少しふらふらしている――――たぶん酔っ払っているメリッサと共に、ゼウスは泊まる部屋のある階まで登って行った。

 メリッサはワインを二杯飲んだだけだが、彼女はお酒に弱いらしくその程度で酔いが回ってしまったらしい。


 そのまま押して相手の部屋に一緒に入って行けばいいものを、ゼウスはメリッサを部屋に送り届けた後、自分はその隣の部屋に入って行った。


(真面目か!)


『なぜそこで勝負に出ないんだ! 男なら押せ! 押し倒せ!』と、アテナはノエルに全く押し倒してもらえない自分の現状と重ね合わせ、肝心な所で怖気付いたらしき弟をじれったく思っていた。


 翌朝の出来事などもう目も当てられない。


 メリッサはガウンを惜しげもなくはだけさせた半裸の状態でゼウスの前に現れた。ゼウスの視線は始終胸に釘付けになっていて、どうやら弟は巨乳好きのようだと、アテナは弟の新たな一面を発見した。


 そして、女を寄せ付けない鉄壁の男と呼ばれているゼウスも、流石にこの状況では彼女を押し倒すかどうか迷っているようだと、アテナにははっきりとわかったのだった。


 そんなことまで考えるようになれたとは、これは弟の飛躍的進歩、大進化である。


 結果的にそんな美味しい場面なのにも関わらずゼウスが据え膳を食すことはなかったが、アテナは最初、これは彼女の作戦なのではないかと思っていた。


 グラスワイン二杯でここまでの二日酔いになる人間はそうはいない。


 メリッサは年齢のわりに胸が大きく腰もくびれていて扇情的な身体付きをしている。彼女は酔ったフリをして自分の武器を最大限使い、弟を誘惑しているのではないかと思った。


(この技、頂きました! 今度ノエルに試してみましょう)


 結局、ゼウスが一度いなくなった後彼女はその場に座り込んで寝ていたので、本当の二日酔いのようだったが。


 そしてようやく迎えた本日、である。


 アテナはお茶だけで帰ろうとするメリッサを無理矢理引き止め、せっかくだから夕食を共にしましょうと誘った。メリッサは自分に対して遠慮があるらしく、最初は何とか断ろうとしていたようだったが、「マチルダさんがはりきって夕食を作ってくれたのに……」と、マチルダももちろんグルであるのだが彼女にも悲しそうな顔をしてもらって、何とかメリッサを引き止めることに成功した。


 アテナは夕食の席でメリッサにお酒を勧め、酔っ払わせてこの家に泊まらせようと計画していた。


 酔った状態で入浴すると危ないからと、自分も一緒にお風呂に入ると提案することにして、実際はゼウスが浴室に行くように仕向けようと、アテナは悪い事を考えていた。







アテナはイザベラのことをベラちゃんと呼んでいました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ