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38 すれ違う会話

この世界では成人から飲酒可能です

 ナディアはゼウスと向かい合わせで白いテーブルクロスの敷かれた席に着いた。何だか格式の高そうなレストランだが、こんなところで食事をしたことなど一度もない。


 テーブルの上に立体的な三角形に折られた白い布が置いてあったが、これは一体何なのだろうと思った。


 帽子のようにも見えるから頭に被るのだろうかと手に取り頭に載せてみると、目の前のゼウスが吹き出した。


「メリッサって面白い人だったんだね」


 ゼウスはツボに入ってしまったのか、綺麗な手を形の良い唇に当てて堪えるようにしながらも、しばらく笑いが止まらない様子だった。


 どうやら間違えたらしい。ナディアは赤面しつつ謎の折り布を頭から取った。周りを見回してみれば布を頭の上に置いている者など一人もいない。皆、広げた状態の布を襟首あたりに挟んで垂らしていたり、膝の上に広げたりしている。


 ナディアは見様見真似でとりあえず多くの女性たちがそうしているように、広げて膝の上に置いた。


「メリッサもメニューくらい見てみたら? やっぱり食べたいなと思ったら頼んだらいいよ」


 レストランに入る前、ゼウスはどことなく緊張した顔付きをしていたが、笑った影響なのか硬さの取れた柔らかな表情になっている。


 ナディアはゼウスに二つあるメニュー表のうちの一つを渡された。


 ステーキ、ハンバーグ、魚のムニエル―― 本当はかなりお腹の空いていたナディアは料理名の羅列を見ただけで食欲が刺激された。


『もしかしたら、これ頼んでも大丈夫なんじゃないかな?』とナディアは思った。メイン料理とは別に頼むらしきパン類などは頼まなければいいわけだ。


(いける! お腹空いてるし食べたい!)


「そうね、メニューを見ていたら少しお腹が空いてきたし、これを頼んでみようかな」


 ナディアはメニュー表の一番上にあったステーキ料理を指差した。「じゃあ俺もそれにするよ」とゼウスも同じものを頼むことになって、ウェイターを呼び注文をしている。


「こちらのお料理ですとこちらのワインをお勧めしておりますが、如何なさいますか?」


(ワイン!)


 ナディアの目がキラリと光った。酒は植物を原料にしているものがほとんどなのでそんなに大量には飲めないが、父親に似たのかナディアは酒好きだった。ワインでも他の酒でも何でもいける。里にいた頃は宴会の時には必ず飲んでいた。コップ三杯程度が限度ではあるものの、幸せな気分になれる。


「ワイン飲みたい?」


 ゼウスがナディアの顔が輝いているのに気付いて問いかける。


「うん、できればお願いしたいわ。そんなにたくさんは飲めないから、少しだけ」


「じゃあグラスで頼もうか。二つお願いします」


「かしこまりました」


 ウェイターが下がる。


 ワインが来るまでのつなぎなのか、ゼウスがテーブルの上にあった空のグラス二つにピッチャーから水を注いでいく。


「さっきはごめんね、変なこと言っちゃって」


 水で喉を潤していると、ゼウスがいきなり謝ってきた。


 変なことというのは、たぶんさっきの()()()()の話だろう。


「ううん、大丈夫だから気にしないで。ゼウスって()()()()が好きなの?」


 実はナディアとゼウスから数席離れたテーブルに姿を変えたままのノエルとアテナが座っている。

 ノエルは魔法で、ナディアが言う『マラソン』が『お風呂』に変換されてゼウスに聞こえるように操作していた。


 そして、もちろんゼウスからの言葉も変換されてナディアに届いている。


「お風呂(マラソン)は好きっていうか、当たり前にあるものだから好きかどうかなんて考えたこともないけど…… ああでも、これだけは言っておきたいけど、俺はお風呂(マラソン)を一緒に入り(走り)たいだなんて誘ったのはメリッサだけだから! 他の女の子と入った(走った)ことなんて一度もないから、そこだけは誤解しないでほしい!」


「そ、そうなのね」


 ナディアはとても熱く語られたので、ゼウスにとってマラソンはすごく大事なもののようだと理解した。


「メリッサ、その、俺の気持ちはもうわかっていると思うけど、返事を聞かせてもらえないかな?」


「返事? ()()()()()()()()()()()ってこと?」


「いや、()()()()()()()()()話はもうよくて、ああでも、いずれ一緒に入りたいとは思っているけど、それはちゃんと手順を踏んでからというか何というか…… いや、俺はやっぱり何を言っているんだ……」


 顔を赤らめたゼウスがごにょごにょと言葉を濁していると、失礼致します、とウェイターがグラスに入ったワインを運んできた。


 ウェイターの登場に会話が一旦中断される。ナディアはグラスを手に取ると、ワインの芳しい香りを嗅ぎながらゼウスに笑顔を見せる。


「とにかく頂きましょう」


「あ、ああ……」


 ナディアに促されて二人ともグラスを胸のあたりに掲げた。ナディアは微笑を浮かべた後グラスに口をつけた。美味(うま)い。続けざまに数口飲みながら、ナディアは、『生きてて良かった!この一杯のために生きている!』と思っていた。


 ゼウスもワインに口をつけているが、その視線は憑かれたようにずっとナディアに固定されたままで、顔も赤いままだ。


(お酒弱いのかな……?)


 ナディアはお酒のおかげで幸福感に包まれつつも、ゼウスを見ながらそんなことを考えていた。


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今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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