25 貴婦人たちの企み 1
ゼウス視点
今日は観劇デートの日だ。午後になり、約束の刻限が近付いてくる。ゼウスは本来であれば時間で仕事を抜けるつもりだった。早退の届けも出して一番隊長の許可も貰っていたのだ。しかし実際は、ゼウスは仕事から抜けられずにいた。
季節外れの花々が咲く温室の中、目の前では優雅にお茶会を繰り広げる令嬢たち。ゼウスはお茶会の護衛に駆り出されていた。
本当はお茶会の護衛の仕事自体付きたくなくて、別の者に代わってほしかった。けれどそれは無理だった。なぜなら、本日同時間帯に催されるお茶会の数が多すぎて、一番隊の隊員のほとんどが出払っているからだ。皆が働いているのに一人だけ任務に当たらないわけにはいかない。
高位の公爵家から下位の男爵家の女性たちは勿論のこと、地方遠方に住む貴族令嬢や夫人たちまでもがわざわざ示し合わせたかのようにこの日に大勢やってきて、小規模な茶会を幾つも開催した。
首都にいる一番隊は首都近郊に住む貴族を守るためには充分な人員を確保しているが、全国からやってきた数多の貴族たちも含むとなると手に負えない。
貴婦人たちが結託して同時多発茶会を企てたのは明らかだった。
現在ゼウスたちが護衛するお茶会に参加している令嬢は四人と少人数だが、他のお茶会では二人のみで開催しているようなものもある。まとめてやってくれないかと打診してみても、彼女たちは必要だからこうなったのだと銃騎士隊の意見を頑として聞き入れなかった。
ゼウスをデートに行かせないためには、必要なことなのだろう。
茶会の日時は狙ったかのように本日の午後に集中している。一番隊長はゼウスのデートを妨害するためだろうと分析した。
ゼウスはまさかと思ったが、彼女たちならやりかねないような気がした。
ゼウスとしては、ただ、気になる女の子と二人で観劇に行きたかっただけなのに、なぜこれほどまでに過剰反応されて妨げられなければならないのだと憤った。
どう考えても不必要としか思えないような茶会を開いて他の隊員にも迷惑をかけてしまっている。
ゼウスへの悪意的なものまで感じるし、これまで彼女たちがいくらデートに誘ってきても応じてこなかったことへの意趣返しなのかもしれない。
もしかしたら、なぜ自分たち貴族令嬢ではなくよりにもよって平民女を選ぶのだという気持ちもあるのかもしれない。
ゼウスは絶対に貴族だけは嫁にしないと強く心に誓った。
ジョージ・ラドセンド一番隊長はこの件に対してゼウスのことを気にかけてくれて、お茶会の終了予定時刻がゼウスの退勤希望時刻前で終わる茶会の護衛担当にしてくれた。
それに令嬢四人ならば通常二名程度で行う護衛の人数を、この人員確保が厳しい中でゼウスも含んだ三名配置にしてくれた。もしも茶会が延びてもゼウスが抜けやすいようにという配慮だ。
ゼウスはジョージの采配を有り難く感じていた。
しかし―― やはりとでも言うべきか、茶会の途中で令嬢たちが仕掛けてくる。