11 After death
アーク視点
『門番』から鍵を奪い、『冥界の門』の内側に入ったアークの視界は、何もない、一面の暗黒に覆われていた。
しかし暗闇に包まれていたのは、一瞬にも満たないような僅かな時間だけで、あっという間に肉体が侵食されて崩壊し、苦しみも感じずに死んだ後は、一転、周囲からの温かな光を感じた。
肉体が滅び、幽体だけの状態となって瞼を開ければ、見渡せる限りの地面には草原と花畑が茂り、上を見れば澄んだ青い空がどこまでも広がっていて、彩りに満ちた常春の世界にアークは立っていた。
死者となり冥界の住人になったことで、生きたままでは見えなかったものが見えるようになったようだ。
幽体の彼は死んだ時の年齢ではなく、大好きすぎる長男ジュリアスの年齢に近い、二十歳を少し過ぎた頃の若い容姿に戻っていて、銃騎士隊の隊服を着たままだった。
巨大な『冥界の門』はすぐ近くにあって、自分のそばには鍵もある。
アークは魔法を使って、扉の外に出てしまった『こちら側』由来のものをできる限り中に引き込むと、扉を動かして門を閉じ、鍵を鍵穴に差し込んでガチャリと施錠した。
扉を閉じている最中も、今も、『あちら側』で死んだ魂が次々と扉を通って、『こちら側』へやって来ていた。
死んで『冥界の門』をくぐると、彼らは輪廻の仕組みを思い出すようで、この世界に迷いなく降り立つと、『あの世』の端に位置する『冥界の門』から離れ、先へと進んで行く。
アークもそうだったが、幽体だった時の記憶は幽体になることでしか思い出せないようで、いずれ『この世』に転生すればまた忘れてしまうのだろう。
アークは巨大な『冥界の門』が建つ、苔生した石造りの土台に腰を下ろした。
通りすぎる死者たちがちらちらと彼の持つ門の鍵を見ている。
鍵で門を開き現世に戻れば生き返れる場合もあって、未練を残す者たちに鍵を奪われる可能性もあったが、そもそも魔力がなければこの鍵は扱えない。
それに精神の世界とも呼べる『あの世』では、魔法使いは最強であり、やろうと思えば対象の魂を滅して二度と存在できないようにすることも可能だ。魔法使いを脅して門を開けさせようとする不届き者も、あまりいない。
アークから少し離れた所にはシドの魂がいて、しばらくこちらを凝視していたが、どうやらアークには勝てないと悟ったらしく、他の魂と同様に、奥へ向かう人々に混じり去っていった。
アークは念の為に鍵を小さくすると、首から下げたチェーンに通して、隊服の中に隠した。
『門番』は、「『冥界の門』のそばに控えて鍵の保管をする」以外の仕事は特にない。
アークは冥界の風や、太陽がなくても生まれている光の温かさを感じながら、座った姿勢のままで腕を組み、目を閉じた。




