9 Before birth 1
R15注意
『門番』視点
『門番』は焦っていた。
こちらの世界では存在してはならない彼は、『あの世』に引っ張られる力を常に感じていた。
しかし『冥界の門』を通ってそれまでいた世界に戻れば、自分はあの男に滅ぼされてしまう確信があった。
助かる方法は一つ。
妊娠しそうな――つまり、女の方が排卵日相当であり、かつ、✕✕をこれから行うか、または既に✕✕中の――男女を見つけて、新たな魂が『あの世』から出現する前に、女の胎に宿って転生するしかない。
『次の門番』が彼の代わりに『冥界の門』を閉じて鍵を締めてくれたので、役目は終わった。
彼は自分たちのために残った魔力を使うことにした。『あの世』に引き戻そうとする力に魔力で抵抗しながら、目的地に向かって移動する。
『第三の眼』は、鍵の保管を円滑に遂行するために、『あの世』の光景をすべて見渡せる千里眼的な能力があるが、それは『この世』に対しても有効だった。
『門番』の交代が叶ったので、彼の額にあった『第三の眼』は抜け落ちている。けれど、彼はその直前まで『第三の眼』を通して視ていた、とても大事な娘――ヴィクトリア――の元へと急いだ。
辿り着いた先では、ちょうど金髪の男――アルベール――が、意識のないヴィクトリアを抱えて御者のいない馬車に乗り込もうとしている所だった。
アルベールの局所は服の上からでもわかりすぎるほどに✕✕✕✕としている。
『門番』もとい、前世がヴィクトリアの実父だった男は、この後ヴィクトリアがどんな目に遭ってしまうのか、わかりすぎるほどにわかっていた。
本当はアルベールに魔法攻撃をお見舞いして成敗したい所だが、死者である彼の魔法は生者には効かない。効くのは同じ死者や、『あの世』由来の事象に対してのみだ。
彼は歯痒く思いながらも、ヴィクトリアの腹部から、まるでその場所へ導くような眩く温かな光が放たれているのを見た。
その光は、「もうすぐ新しい命が宿る場所」を示す印のようなものだ。
光は新しい魂が迷わないようにするための道しるべのようなもので、現世の者には見えず、『あの世』の者にしかわからない。
男が致す気満々なこんな状況でその光が出ているということは、甚だ遺憾ではあるが、娘はこの
意地悪幼馴染との子供を妊娠することが、確定しているということだ。
それが彼らの運命のようだ。
アルベールで大丈夫なのか、本当に大丈夫なのか、という心配は強いが、幽体である彼にはどうすることもできない。
『第三の眼』で視ていた限り、アルベールは歪んではいてもヴィクトリアを愛していたようだから、どうにかその愛が歪む前の状態に戻って、彼ら二人が幸せになるよう祈る他ない。
彼はずっと「彼女」と共に、ヴィクトリアを見守っていた。『第三の眼』を通し、ヴィクトリアの孤独も苦しみも、誰にも言えない悲しみも、彼らだけはずっと理解していた。
どうにもしてやれない状況や、そばに行って慰められないことに、何度も何度も深い悲しみに沈み込んでいたが、今日、ヴィクトリアの運命は大きく動き出した。
心配はあるが、子供の門出を祝福してやることが親の務めだろう。
(幸せにせな許さへんで……!)
眠るヴィクトリアを馬車の座席に寝かせ、上から口付けているアルベールに向かって、涙がちょちょ切れそうになりながら念を送った後、彼は幽体である自分の身体の中から、「彼女」を出現させた。
『あの世』で「彼女」と再会できた彼は、「転生する時は一緒に転生して来世でも結ばれよう」と約束していて、「彼女」も彼と共に『冥界の門』付近に留まっていた。
シドが死んだ時、また「彼女」が奪われるんじゃないかと思った彼は、魔法を使って「彼女」を自らの幽体の中に隠していた。
ヴィクトリアに似た銀髪の美しい人。何度生まれ変わっても、変わらずにずっと愛している女性と、しばしの別れになる。
けれど「必ず迎えに行く」と約束して、彼は「彼女」がヴィクトリアの胎に宿るのを見送った。
「彼女」がヴィクトリアの胎に入ってしばらくすると、ヴィクトリアの腹部から放たれていた光が消えた。魂が宿り、別の魂が新しい肉体に入る必要がもうなくなったからだ。
魔法で探っても、大人だった「彼女」の幽体はもう視えない。「彼女」は赤子の魂に変化して、転生の準備に入った。
そこまで見届けた彼は、馬車から離れた。
馬車内では、アルベールがヴィクトリアの服に手を掛けていた。娘が✕✕される場面はもうこれ以上見たくなかった。
ヴィクトリアの胎に宿れなかった彼に、再び『あの世』へ引っ張ろうとする力が働き始める。
魔力が尽きる前に、彼も早く✕✕中の別のカップルを見つけて、転生を確実なものにしなければならなかった。




