7 囲い込まれてた女 2
記憶改変注意
R15注意
『勝手なことしてごめんね、シー兄……』
シリウスは✕✕の前に、戯れような行為をした。
シリウスはナディアを愛欲混じりの優しい瞳で見つめてくるが、なぜだかナディアはそこで少し違和感を覚えた。
その行為は、ナディアがゼウスと良くしていた行為だ。
(ゼウス……)
思い出して悲しくなってしまったのは、心の中にはまだゼウスへの思いがあるからだと思った。
ゼウスへの未練を残したままシリウスの求婚を受け入れたことで、ゼウスに対する恋心の残滓のようなモヤモヤは、解消されることなく今でも心の中に留まっている。
『ナディアちゃん、結婚してください。俺だけ見てください。必ず幸せにします』
『――――はい、結婚します』
アンバー公爵邸でお茶をしていた時、ヴァネッサの話がまだ途中という状況で、部屋にシリウスが現れた。
号泣しながらナディアに縋り付いて形振り構わず愛を叫ぶシリウスの姿に、ナディアの心は強く動かされた。
前日に牢屋でゼウスに拒絶されて傷付いていた影響もあり、ナディアはシリウスの愛と求婚を受け入れて、シリウスと恋人になった。
ナディアはゼウスと付き合っていた時、名前や正体すらも偽って、その結果、ゼウスを傷付けてしまった。
ゼウスを大切にすることができなかった。
だから今度こそ、ナディアはシリウスとの愛を大切にしていこうと思っている。シリウスとの愛を死ぬまで貫くつもりだ。
「ナディア」
真剣な顔をしたシリウスが、ナディアの顔を覗き込んてきた。
「……ごめんね」
『なんで謝るんだろう?』とナディアが首を傾げかけた所で――――
気が動転してしまったナディアは、咄嗟にシリウスの身体を押し返しそうとする動きをしたが、シリウスに押さえ込まれてしまった。
頭の中でカチカチカチと音がなった段階で、喜びが生まれて、混乱は一旦落ち着いた。
「ごめんね…………」
シリウスはナディアの目尻から伝う涙を拭うと、また謝って来た。
ナディアは、シリウスの「ごめんね」は、ナディアを苦しめることに対するものだと理解した――――――
「大丈夫よ、謝らないで」
「俺、ナディアちゃんのこと必ず幸せにするから。後悔なんて絶対にさせないから」
ナディアは首を振った。
「後悔なんてしないわ。だって、あなたと番になることは、私が自分で決めたことだもの」
「……」
シリウスはなぜだか沈黙してしまい、ナディアのその言葉に対しては何も返事をしなかった。
ナディアはシリウスにしがみついた。
シリウスは労るように優しくしてくれた。
ナディアは最愛のシリウスと番になれたことに、とろけるような幸せを感じていた。
しかし、シリウスも直後などは微笑みを浮かべていたものの、いつも朗らかな彼にしては珍しく、覇気がないというか、影を背負ったような雰囲気を漂わせていて、ナディアは拭いきれない違和感を感じた。
「シリウス、やっぱり元気ないけど、どうしたの?」
「…………父さんが、死んだんだ」
後悔するように目を伏せて俯いたシリウスは、口を開いて事情を教えてくれたが、あの、いつも無表情で超然としているように見えた銃騎士アークが亡くなったことは、ナディアは俄かには信じ難く、驚きに目を見開いた。




