6 囲い込まれてた女 1
R15注意
ナディアが目を覚ました時、部屋の中は薄暗くなり始めていた。カーテンの隙間から見える日暮れ時独特の黄昏色の空模様から、今は夕方から夜に変わろうとしている時間帯なのだろうと思った。
ナディアは寝台に寝ていたが、彼女の隣にはナディアの手を握ったまま眠っているシリウスがいた。
ナディアはシリウスがそばにいることに安心感を覚え、彼の手を握り返した。
ここはブラッドレイ家のシリウスの私室のようだと気付いた所で、ナディアは眠る前の光景をハッと思い出した。
ナディアは寝台から上体を起こし、シリウスと繋いでいる手とは反対側の手で胸の付近に触れてみたが、痛みもないし血も出ていなかった。服の中に手を突っ込んで直に肌に触ってみても、傷痕らしきものもなかった。
自分は処刑場でゼウスに撃たれてしまったが、きっとシリウスが助けてくれたのだろうと思った。
ナディアは処刑場で倒れる直前に、ゼウスの泣きそうな表情を見ている。そこには自分に対する殺意は微塵もなかった。「ゼウスはきっと何かの間違いで発砲してしまっただけだ」と思ったナディアに、ゼウスを恨む気持ちはなかった。
ナディアが身じろぎしたことでシリウスも起きたらしく、彼が瞼を開けた。
ナディアは寝起きでさえも惚れ惚れするほどに整いすぎているシリウスの美麗な顔を見つめた。
「ナディアちゃん……」
シリウスはいつも明るくて陽気な男だが、なぜか思い詰めて塞ぎ込んでいる様に見えたので、ナディアは急に心配になった。
シリウスがあまりにも深刻そうに見えたので、寝起きだからという理由で気分が落ちてるわけでもなさそうだった。
「シリウス…… どうしたの……?」
シリウスもナディアと同様に寝台の上で上体を起こすと、ナディアの問いかけには何も答えず、無言のままでぎゅーっと抱き付いてきた。
「ナディアちゃんが生きてる……」
シリウスはナディアを寝台に押し倒し、彼女の心臓の音を聞きながら、そんなことを言っている。
「うん、生きてるよ」
ナディアもシリウスの手触りの良い白金髪を撫でながら、そう返した。
「ナディアちゃん、俺のこと好き?」
「うん、好き」
「本当に?」
「大好きよ」
ナディアがそう答えた途端、口付けが降ってきた。急すぎてびっくりしたが、シリウスの自分への愛情を感じられて嬉しくなった。
自分たちが口を合わせる音と互いの呼吸音だけが室内に響いた。
口付けにうっとりとしながら、ナディアはシリウスの温かな唇の感触を感じていた。
しつこいくらいの口付けに翻弄され、ようやく唇が離れた時には、ナディアは少し息が上がっていた。
「ナディアちゃん………… 抱いてもいい?」
「……うん、いいよ」
ナディアは一瞬だけ逡巡したが、シリウスと番になることを了承した。
完全に陽が落ちて真っ暗な部屋の中、ナディアは国宝級イケメンと相対していた。
部屋の中は明かりもなく暗いが、ナディアは嗅覚で部屋の大体の様子はわかった。
あの後、何かに急かされているようなシリウスが発動させた魔法により、ナディアの服は一瞬で――――
恐るべき素早さで襲いかかってきたシリウスを前に、ナディアは恥じらい、時間稼ぎのように先に入浴を所望したが、「君の気が変わらないうちに早く✕✕したい」とか何とか言われ、シリウスの気持ちを知りながらも散々焦らしてきた自覚のあったナディアは、「魔法で綺麗にするから」というシリウスの言葉を受け入れた。
浄化魔法をかけられた後、ナディアは寝台に転がされていた。
ナディアの脳内は真っ白になった。
「もういいかな……」




