11 ナディアの計画
ゼウス視点
里に帰ってからのナディアは、シド亡き後に新しく族長になったオニキスに掛け合い、人間社会にある学校制度を浸透させようとしていた。もちろんゼウスもナディアに寄り添い、学校創設に尽力した。
ゼウスは元銃騎士ということで獣人たちに睨まれることも多く、因縁を付けられて暴力を振るわれそうになったことも多かったが、ゼウスは決して反撃しなかった。
剣も銃も二度と握らないと鉄の意志を貫くゼウスは、たとえ相手に殴られても殴り返そうとしなかった。
もっとも、すぐに「私のゼウスに何してるのよーっ!」とナディアがやって来て相手をぶん殴ったり、里に来てから親交を深めたナディアの異母弟リュージュや、何かとゼウスを気にかけてくれるナディアの義兄セドリックと、果ては義兄の子供までもが駆けつけて追い払ったりもしてくれるので助かっている。
秘密だが、ちょっとだけ魔法が使えるというヴィクトリアが、ゼウスの危機を察知してくれることもあり、深刻な暴力被害に遭ったことは一度もない。
ところが、ゼウスが危険な目に遭うたびに、ナディアは「やっぱり刷り込み計画を頑張らなければ……」と、ゼウスの前でだけこっそりとブツブツ何かを言っている。
ナディアの「刷り込み計画」とは、人間の学校でも普通に授業として存在している「道徳」を取り入れて、「人間を怪我させない、殺さない、誘拐しない」という三原則を、子供たちに少しずつ教えて刷り込んでいきたい計画のようだ。ある意味洗脳である。
しかし、そこら辺は老獪な大人たちにより、学校制度は人間社会に都合の良いような思想統制に繋がりかねないと見抜かれていて、ナディアの「刷り込み計画」自体がバレたわけではないが、「道徳」の授業は先送りにされている。
ナディアはその計画を諦めていないようだが、バレたらナディアが袋叩きにでも遭いそうで、本人は「大丈夫よ」と笑ってあっけらかんとしているが、ゼウスは結構ハラハラしている。
ただ、そういう風にお互いを害さないように心掛けていかなければ、双方の歩み寄りも難しいし、人間と獣人が争うことのない平和な未来の実現には至らないのだろうと思った。




