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その結婚お断り ~モテなかったはずなのにイケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~  作者: 鈴田在可
ゼウストゥルーエンド 『悪魔の花婿』

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9 兄のわがまま

ジュリアス視点


執着(?)注意

「兄さん……」


 隠れ家での話し合いを終え、実家であるブラッドレイ家に戻ってきたジュリアスを、青白い顔で涙を流し、生気もないシリウスが出迎えた。


 シリウスのそばには、心配したセシルがぴったりと付き添っている。


 セシルはシリウスにずっと付きっきりで、シリウスがナディアとゼウスの所へ行ったり、彼らの様子を魔法で『視て』しまって心が壊れないようにと、シリウスの魔法の発動を妨害しているようだった。


「彼らのこれからの行き先が決まった。ナディアの故郷の里へ行って、二人で暮らすそうだ」


「そう…………」


 シリウスは返事をしつつも、最愛の女と他の男が番になった現状に改めて直面し、ふらついて倒れそうになっていた。


 セシルが支えていて大丈夫だったが、シリウスはそのままフッと気絶して、心臓も呼吸も止まってしまいそうに思える。


(このままではシーが死んでしまう)


 番との別れと言っても、死別とはまた違う。自分の番が他の男と身も心も愛し合って結ばれているということは、獣人にとっては耐え難いことだ。


 シリウスは、ナディアが『番の呪い』にかかってから、ずっと泣き通しだった。


 弟の苦しむ様子を見ていられなくて、ジュリアスは『番解消の魔法』をシリウスに使うことを提案した。


 本当は、もしもシリウスが自分ではなくてナディアに『番解消の魔法』を使って欲しいと請えば、ジュリアスは誰を不幸にしようとも断行しただろうが、シリウスがそれを望まなかった。


 過去の事象を知っているセシルが、「『番解消の魔法』だけではなく、『記憶改変の魔法』も同時に使って相手の記憶も消さなければ、再び『番の呪い』にかかって苦しむ」と指摘したことで、二つの魔法をシリウスに使うことが決まった。


 しかし、『せめてナディアの幸せを見届けてからにしたい』というシリウスの強い希望があって、ずっと苦しみを取ってやれないままだった。


 けれど、見届けたいというのは口実で、本当はナディアへの愛を失くすことが嫌なのだろう。


 ジュリアスはシリウスに近付き、涙を流し続けているシリウスを抱きしめた。


「シー、もういいだろう。俺はこれ以上お前が苦しんでいるのを見ていたくない」


「うん、兄さん…… ごめんね………… わかった…………」











 シリウスの私室にいるのは、ジュリアスとシリウスと、禁断魔法『記憶改変の魔法』を僅かな跳ね返りのみで使えるセシルだ。


 少ししか跳ね返りがないとはいえ、本来はできるだけ禁断魔法の使用は避けるべきだが、今回はシリウスの命が懸かっているので、致し方ない。


『番解消の魔法』は一瞬だが、『記憶改変の魔法』は完了までに時間がかかる。


『眠りの魔法』にかかった状態で、二つの魔法にかけられることを了承したシリウスが、寝台に横になった。


「シー兄さん!」

 

 ジュリアスが『眠りの魔法』をかける直前、セシルが呼んだらしく、アテナの家にいたノエルがやって来た。


 寝台にいるシリウスの姿を見るとノエルは号泣して、「兄さんごめんなさい」と取り縋っていた。


 ノエルの様子にシリウスの心が乱れてしまったので、ジュリアスはノエルを部屋の外へ出して、カインたちに任せた。

 

 ノエルが取り乱すのも仕方がない。生気を失って寝台に横たわっているシリウスは、まるでこれから死に行くようにしか思えないからだ。


 実際にこれからジュリアスたちがしようとしているのは、シリウスの中にあるナディアへの愛を殺す行為だ。


「兄さん…… 最後にもう一つお願いがあるんだ」


 ジュリアスが今度こそ『眠りの魔法』を発動させようとした所で、シリウスがジュリアスの手を握りしめてそんなことを言った。


「何だ? 何でも言ってくれ」


 この弟のためならば、ジュリアスは何でもしようと思っている。


「ナディアの胸にある黒い痣を消してほしいんだ」


 シリウスが言っているのは、ナディアが里から連れ出されたばかりの頃にシリウスが彼女にかけた、故郷の里に帰れなくなることを含む『行動制限の魔法』のことだ。


 シリウスはその魔法を既に解除しているが、魔法の効力が失われても、魔法を刻んだことを示す刻印は黒い痣として身体に残り続けてしまう。


 けれど光魔法を極めている現在のジュリアスであれば、その痣を消すことができた。


「女の子の身体に痣が残ってしまったら、可哀想だから」


「わかったよ、シー。大丈夫だ。痣は消しておくから。あの二人のことも俺に任せてほしい。もう何も心配することはない」


「兄さん、全部頼ってしまってごめんね。ありがとう」


「いいんだ、シー……


 ………………おやすみ」


 ジュリアスは未だに涙をポロポロと溢しているシリウスの瞼を閉じさせると、『眠りの魔法』をかけた。
















『番の呪い』が解かれ、ナディアのことも忘れてしまったシリウスは、それまでのいつ死ぬかもわからないような状態が嘘のように、とても元気になった。


 ジュリアスはシリウスを、西の獣人の里の監視の任から外した。


 シドがいなくなったので当面は必要ないだろうと話すと、シリウスは疑うこともなく兄の話を信じた。


 シリウスをしばらく任務から外して、少し静養させようと思っていたジュリアスは、その後シド討伐の功績を評価されて貴族になることが決まり、シリウスに家令になってくれと頼み込んで、新天地に弟も連れて行くことにした。


 いきなり平民から侯爵になったので、目まぐるしく落ち着かない生活が続いているが、忙しさはある反面、シリウスの日々も充実しているように思えた。


 ジュリアスは、シリウスに対して一つ嘘をついている。


 ジュリアスは、未だにナディアの胸の痣を消していないし、これからも消すつもりはない。たぶん、一生。

 

 自分たち兄弟は、獣人であるせいもあると思うが、執着心が強い。


 ナディアの身体に死ぬまでシリウスの痕跡を刻み付けておきたいと思うそれは、おそらく、兄のわがままである。


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完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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