6 ずっと一緒に生きていきたい
R15注意
ナディア視点→ゼウス視点→ナディア視点
二人で浴室に向かう。
口付けをしながらすぐにゼウスがナディアを脱がしにかかった。
ナディアが着ているのはアンバー公爵家で貰った純白のフリルワンピースだ。
結婚式で纏う衣装にも似たその服を着ていると、挙げられなかったが、結婚式の夜に愛する人に全てを捧げる花嫁のような気持ちになれた。
「ナディア、このままだと俺はここで君を抱いてしまいかねないから、続きはお風呂に入ってからにしよう? 俺たちの初めてなんだから、ちゃんと大切にして、寝台の上で君を抱きたい」
イケメンなことを言うゼウスを、ナディアは少し霞が掛かったような意識の中でぼーっと見上げた。
「ううっ……」
ゼウスが真っ赤な顔になって呻いている。
「と、とにかくお風呂」
ゼウスは何故かどもりながら、ナディアを促した。
******
「ぜうしゅ」
ナディアは頬を上気させ、とろんとした目付きをしていて、おまけにいつかのように幼子のような響きでゼウスに呼び掛けてきたので、まるで酔っ払いだと思った。
「ぜうしゅー、しゅきしゅきー、だいてー」
やはり舌足らずな口調のまま、ナディアがゼウスに抱きついてきた。
「……酒でも飲んだの?」
「えへへー ✕✕✕✕のんじゃったー」
(駄目だ。知能指数が下がっている)
何故かナディアの様子がおかしくなっているが、ナディアのすべてを受け入れる覚悟のゼウスは、おかしなナディアを椅子に座らせて洗い始めた。
ナディアの✕✕✕✕が揺れている。
ゼウスの視線は、どうしたってナディアの蠱惑的な✕✕✕✕に釘付けになってしまう。
このままではこの場での初体験になってしまうと思ったゼウスは、ぱぱぱっと手早く洗い終えて彼女をお湯の中に入れると、ゼウス自身はナディアに背を向けて椅子に座り、魅力的すぎる彼女を視界に入れないようにした。
「先に出てるね」
「ゼ、ゼウス…… 行かないで……」
ゼウスはシャワーで泡を流し、ナディアと共には入らずに、先に部屋で彼女を待っていようと思ったが、間延びしていない悲しそうな声が聞こえてきて、ハッと後ろを振り返った。
先程までのナディアは、くすぐったそうにしながらも朗らかで楽しそうにしていたのに、眼の前にいるナディアは、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。
******
『駄目だよ――――』
(はりゃ? 何が駄目なんだっけ?)
ナディアが正気に戻った時には、お湯の中に入っていて、身体を温めている最中だった。
眼の前では、こちらに背を向けながら、全身を泡だらけにしているゼウスの姿があった。
番となった大好きなゼウスの匂いに翻弄され、けれどまだ正式には番になっていない影響なのか、本能で強く強くゼウスを欲したナディアは、ゼウスの濃くなった匂いに当てられてしまい、悪酔いしたような状態になっていた。
その後、ゼウスが石鹸を使ったことで匂いが薄くなり、ナディアは酷い酩酊状態から回復した。
(ああ………… ゼウスが✕✕✕✕✕を洗っている…… 私が洗ってあげたい…… そして✕✕✕✕たい――――
じゃなくって!)
背は向けているものの、薄くなったとはいえ匂いなどでナディアはゼウスが今何をしているのかはわかった。
酩酊し前後不覚となっていた状態からは抜け出したが、気を抜くと頭がおかしな方向一直線になってしまいそうで、ナディアは頭を左右に何度も振り、脳内に沸いてしまった妄想を振り払った。
そして、自分の頭に響いた『駄目だよ』という声が何だったのかも理解した。
ナディアは先程ゼウスにおかしなことを口走っていたなと思い出した。
その時にゼウスはとても強張った顔をして『駄目だよ』と言ったのだ。
酩酊状態のナディアは特には気にしていなかったが、それは紛れもなく拒絶の言葉である。
その後もゼウスは唇を引き結んだ硬い表情のままだったし、態度もどこかぎこちなかった気がする。
(おかしな女だって、嫌われたのかな……)
現在、眼の前のゼウスはこちらに背を向けていて、全く何も会話をするつもりがないようだ。
極めつきが『先に出てるね』である。
もうこれはゼウスに距離を置かれているに違いないと思ったナディアは、『行かないで……』と縋るような発言をしていた。
「ナディア……」
すると、嫌われてしまったという予想に反して、ゼウスは振り返ってナディアの名を呼んでくれて、気遣わしげな表情をこちらに向けてくる。
「どうしたの? 大丈夫?」
ゼウスが心配してくれるので、まだ愛はそこにあるように思えて、安堵したナディアの眼から涙が出てくる。
「私、あなたの匂いに酔ってしまったみたいで、変なこと言ったりやったりしてごめんなさい。嫌いにならないで」
「な、泣かないで! 嫌いになるわけないよ! 俺は何があっても今度こそナディアを愛し続けるから!」
「ゼウス!」
愛の言葉を言われたことが嬉しくて、ナディアはザバーンと立ち上がった。
ナディアの姿を見てゼウスの目が泳ぎ出す。
「じゃあ、一緒に入ってくれる?」
「は、入ってるじゃないか」
「そうじゃなくて、並んで一緒に入りたいの」
動かないゼウスに焦れたナディアは、自分からゼウスを迎えに行こうと、一歩足を踏み出した。
しかしそのせいで✕✕✕✕を目撃したゼウスが、叫んだ。
「も…… もう駄目だッ!」
ナディアがゼウスの腕を取る前に、ゼウスは回れ右をして一目散に出て行ってしまった。
(ゼ、ゼウスに逃げられた! でも逃がさない!)
「待ってゼウス!」
ゼウスが自分から逃げたと判断したナディアは、急いで追いかけようとしたが、飛び出した所で、いきなり現れた真っ白なバスタオルに全身を包まれた。
バスタオルでナディアを包んだのはゼウスで、ナディアはそのままゼウスに抱き上げられて部屋を出た。
(ううっ…… かっこいい……)
身体を拭く余裕もなかったのか、ゼウスの髪から水滴が落ちていて、それがとてつもなく色っぽくて見とれてしまう。
どこへ運ばれているかは不明だが、ナディアを姫抱きにし、緊張感を孕んだその表情は真剣そのもので、キリリとしたその顔が格好良すぎて、ナディアの鼓動がドキドキと高まった。
やがて辿り着いたのは一階の主寝室だ。
「ナディア、もう我慢できない」
ゼウスから漂う芳しい匂いに、雄の獣のような匂いが混ざっていた。
こちらに視線を向けてくる濡れ髪のゼウスが色っぽくて、ナディアはぽーっとなりながらゼウスだけを見つめた。
「うん、嬉しい……」
「ナディア、君は俺の唯一無二だよ」
ゼウスがそう声をかけてくれた。
人間には「番」というものはないけれど、ゼウスにとってはナディアは番のようなものだからと、そう伝えたかったのだろうと思う。
出会ってから約一年半。紆余曲折があって、ゼウスとの別れを悲しく思って泣いた時もあったが、ようやく最愛の人と結ばれるのかと思えば、胸に迫るものがあって、ナディアは喜びの涙を流した。
二人は抱き合った。
その後も愛し合ったが、獣人とは違い、人間のゼウスには限度があった。
しかし、ナディアがまだ持て余していたため、彼女は現在寝台の上でゼウスに抱きしめられている。
付き合っていた頃から、二人で何度も試していたので、ナディアは非接触には慣れている。
段々と眠気を帯びてきたナディアは、幸せそうに微笑むゼウスに再び姫抱きにされて、一階の浴室まで戻ってきた。
ゼウスに後ろから抱きしめられながら共にお湯に浸かれば、幸せすぎる極上のひとときだ。
「ナディア、愛してるよ。病める時も健やかなる時も、俺はずっとナディアのそばにいるから」
「ゼウス、私もあなたを愛してる。
あなたとこれからもずっと一緒に生きていきたいわ」
ナディアの言葉は、南西列島で別れたあの日にナディアが発言して、けれどゼウスには届かなかった心からの言葉だった。
「俺も、ナディアと、いつまでもずっと一緒に生きていたい」
それも、ゼウスの心からの言葉だ。
ゼウスの最初の恋人の、最期の言葉でもある。
二人はこの時に、何があってもお互いを離さないという永遠の愛を誓い合い、その証のような接吻を何度も交わし合った。




