8 永遠に俺のもの
ナディア視点→シリウス視点
R15注意
「さっきナディアちゃんが寝てる間に兄さんとも話してきたんだけどね」
ナディアはシリウスに抱きしめられ、寝台に寝そべっていた。
シリウスがこの状態で眠りたいと言い出したからだが、ナディアはシリウスのどんな求めにも応じる覚悟だった。
ナディアはシリウスの温もりを感じられることに、途方もない幸福感を味わっていた。
ジュリアスは覗き防止等の魔法をかけたままこの家からは離れていたそうだが、ナディアが寝てる間に一度帰ってきて、シリウスと話をしたらしい。
「ナディアちゃんの戸籍は『メリッサ・ヘインズ』とは別の全く新しいものを用意するそうだから、準備出来次第結婚しよう。今度は『ナディア』の名前で用意できるみたいだから、『ナディア・ブラッドレイ』になれるよ」
シリウスはニコニコしていて、ナディアとの結婚をとても嬉しそうに語っている。
「兄さんも近いうちに結婚するんだって。仕事は転移魔法で何とかするからって、結婚後は相手の実家がある場所に移り住むらしい。俺たちも一緒に行こうって誘われたんだけど、どうかな?」
「一緒に行く」
ナディアは即断即決した。ナディアはシリウスと一緒にいられるのなら、住む場所はどこでも構わなかった。
「ありがとう、嬉しい。結婚式も向こうでやろうか。落ち着いてから、関係者だけ呼んで」
「うん」
頷いて了承の返事をすると、シリウスはとても嬉しそうにして、どこの芸術作品だろうかというほどの美しすぎる顔に満面の笑みを浮かべた。
「愛してるよナディア。俺たちはずっと離れない。君は永遠に、俺だけのものだよ」
深い愛の告白と共に誓いのような口付けが降ってくる。ナディアはそれに応えて幸せを感じながら、シリウスの腕の中でトロトロと微睡み始めた。
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眠るナディアを胸の中に抱きしめているシリウスは、ようやく念願叶って彼女を捕まえることができて満足していた。
シリウスは未来永劫ナディアを離さないと決めていた。
兄ジュリアスに婚約者の地元へ一緒に行こうと誘われたのは、シリウスにとっては好都合だった。
ナディアの元彼と同じ場所になんて住みたくなかったからだった。
それに同じ街にいたら、ナディアとゼウスがどこかで偶然にでも会ってしまうかもしれない。
シリウスはもう二度と二人を会わせるつもりはなかった。
遠い場所へ引っ越せば会う可能性は低くなるだろうが、それでもゼロではない。
しかし、『未来視』の力を使えば、予め二人の接近を予知して完全回避も可能だ。引っ越しは、接近が頻回だと困るので魔力温存のためだ。
それからシリウスは、『未来視』の力によってナディアとの「来世」の風景が見えていた。
シリウスは食事を取りに行った際に他の家族で試してみたが、見えるのは明日の行動などの近い未来や、弟たちの番が誰になるかなどの重要そうな未来だけで、来世のことなんて全く見えなかった。
たぶん来世なんて通常では見えないのだろう。ナディアだけ見えるのは、おそらく彼女と身体が繋がった影響なのだろうと思った。
来世は、現在よりも科学技術の進んだ世界であり、自分たちは幼馴染として出会っていた。
しかし、彼女の隣にいるのは自分だけではなくて、もう一人幼馴染が――――金髪のイケメンがいやがった。
その未来を見たシリウスは愕然とした。
(なぜだ)
近くに転生してくるとかなんなんだ。しつこいぞ諦めろ、とシリウスは恋敵を呪い殺したくなった。
来世では、ナディアは自分と結婚している未来と、金髪イケメンと結婚している未来と、それから、幼馴染二人以外の別の男と結婚しているものまであって、複数のパターンがあった。
複数あるのは確定していない未来だから仕方がないが、そんなもの現実にさせるかとシリウスは闘志を燃やしていた。
(絶対に渡さない。ナディアは、永遠に俺のものだ)
禁断魔法の中には魂を繋いで、何度転生しても魂が互いを求めて必ず引き合うようにできるものもある。
もちろん禁断魔法なので、その魔法を使った場合は何度転生しても魔法使いとして覚醒できなくなるほどの影響があるが、『魂魄繋ぎの魔法』は光魔法に属する。
過去系の魔法に強いセシルが過去系の禁断魔法の跳ね返りに耐性があるのと同じように、光魔法属性を手に入れた状態でその魔法を使えば、発動時の跳ね返りが少なくなり、来世で魔法使いとして覚醒できる余地が残る。
雷魔法は光魔法と相性が良い。自分も兄のように光魔法属性に目覚めれば、それも可能だろうと思った。
『過去干渉の魔法』の影響下というかなり厳しい状況ではあるが、研鑽を積み必ずやナディアと魂でも繋がってみせるとシリウスは決めた。
決意を新たにしながら、シリウスはナディアと結ばれた「今」も大切にしようと、彼女を抱きしめてこの上ない幸せに浸った。
やがて眠りに落ちたシリウスは、ナディアとの幸せな夢を見た。




