7 逆プロポーズ
R15注意
その後も時間の感覚がわからなくなるまで二人は寝台の上にいた。
シリウスも最初の頃は身体があまり動かなかったようだが、そのうちに本調子に戻って来たらしく、ナディアは気遣うのではなくて気遣われる側になっていた。
「ナディア、愛してる……」
(私も、私も愛してる…… シリウス…………)
ナディアは美しすぎる自分の愛しい男に手を伸ばした。心の中にはもうシリウスしかいない。
「結婚してくらしゃい……」
包容を返されて強く抱き合いながら、ナディアはシリウスに言い忘れていたことを口にしたが、舌足らずな口調になっていた。
「ふふっ…… 可愛い♡ 俺の求婚の答えに逆求婚で返してくれるなんて、熱烈で嬉しすぎる♡ いいよ♡ 幸せになろうね♡」
ナディアはシリウスの全部に翻弄された。
「もう夜か…… お腹すいたよね。下に行って何か貰ってくるよ」
「起きて平気?」
「うん、大丈夫みたい」
流石に獣人であるナディアも体力の限界になりへばってしまったが、そんなナディアと違って、シリウスの体調はかなり良くなったようだ。
「すぐ戻るよ」
ちゅっ、とシリウスはナディアの唇に軽くキスを落としてから、魔法を使って一瞬で服をまとって階下へ向かった。
ナディアはシリウスが廊下に出て行ってしまった扉をぼーっと眺めてから、少しの時間でも休んで体力を回復させようと、目を閉じた。
「ナディアちゃん…… ナディアちゃん……」
美しい声と共に、自分の頭を撫でてくれる大きな手の平の感覚がある。ナディアが目を開けると、シリウスが寝台に腰掛けていて、ナディアの頭に手を置いていた。
「ごめんね、下で少し話し込んでたら戻るのが遅くなっちゃった。ご飯持って来たけど食べられる?」
寝台脇にある机の上には二人分の食事が乗ったトレイが置かれていて、とても食欲をそそる良い匂いがしている。
「うん……」
ナディアは起き出す。シリウスがテーブルを寄せて寝台に腰掛けた状態で食事が摂れるように整えてくれるが、シリウスが寝台に上り背後からナディアを抱きしめてくる。
「えっ、この状態で食べるの?」
シリウスは膝の上にナディアを乗せていた。
「駄目? 俺、ナディアちゃんとイチャイチャしながらご飯食べたい♡ 魔力回復しながらご飯も食べられるなんて一石二鳥でしょ♡」
(そうなんだろうか……)
ナディアは寝起きで上手く働かない頭の中でぼやっと考えてから、ぎゅっと抱きしめられているのは自分も嬉しいのでまあいいか、と、番になる前だったら絶対に受け入れなかっただろうこの状況を受け入れた。
「うん、じゃあ…… 食べる」
「俺が食べさせてあげるね♡」
シリウスは皿に乗っていた、切り分けられた鶏肉の照り焼きを一切れ掴むと、そのままナディアの口元に持っていった。
里にいた頃は手掴みが常だったので、ナディアも特に異論は唱えずされるがまま目の前の鶏肉に齧り付いた。
食事を食べさせられていると、そのうちに背後からの息遣いが荒くなってきた。シリウスはナディアの耳の後ろあたりをくんくんと嗅いでいる。
「ご飯食べ終わったらまた魔力回復しようね♡」
ナディアも段々と身体が火照ってくる。数回は手ではなくてシリウスが口で加えた肉片を差し出してくるので、齧り付いていくと最後は食事が口付けに変わった。
皿の上の肉を食べきってから、ナディアはシリウスを見た。
シリウスの綺麗な灰色の瞳もナディアを見つめている。ナディアの胸は高鳴り、愛しい番に求められる喜びに溢れていた。
「シリウス、愛してる……」
「俺も愛してるよ♡ 可能な限りずーっとこうしてようね♡」
ナディアは日常生活の中でもこうやってシリウスとの魔力回復が求められるのかもしれないと思った。もっと体力をつけて、シリウスの要望にはできるだけ答えていきたいとナディアは思う。
ナディアはシリウスを――――この愛を絶対に失いたくないと強く願いながら、彼にしがみついた。




