4 決断
R15
ナディアは「番になれ」という言葉に正直戸惑った。
アークがナディアを認めてくれたことは何となくわかったが、番云々に関してはもう少し時間がほしいというのがナディアの偽らざる本心だった。
しかしナディアがそれについて何か言うよりも前に、アークが間髪入れずに口を開く。
「お前は一度死んでいる。今生きているのはシリウスが『過去干渉の魔法』を使い、過去に戻ってお前が死なないように細工した結果だ。
だがシリウスはその禁断魔法の影響で常に大量の魔力を奪われ、死にかけている。
シリウスが死ねば、改変した過去を維持できなくなり、過去は干渉する前の過去に戻る。つまり、必然的にお前も死ぬ」
一度死んでいると言われてかなり驚いたが、アークの言葉を整理すると、あの矛盾する二つの記憶はどちらも本当にあったことのようだ。
一度目はゼウスの銃に撃ち抜かれて死んでしまったようだが、シリウスが過去に戻って自分を助けてくれて、だからナディアが生きている「今」がある。
けれど、シリウスが死ねば魔法の効果は失われ、ナディアも死ぬということのようだ。
「あの、番になれっていうのは……?」
シリウスと自分が一蓮托生で、二人とも現在死の危機に瀕していることはわかったが、それと番になることはどういう関係があるのかと思い問いかける。
「シリウスが使った禁断魔法はかなりの量の魔力を消費する。魔力が底を突くと今度は術者の命を削って魔力を抽出するようになり、やがては死に至る。
この状況ならば死んでいてもおかしくないが、シリウスは自分の保持する魔力のみで禁断魔法を維持できていた。瀕死だがな。
シリウスが死なないようにするには、消費され続ける魔力を常に補充し、魔力の枯渇を防げばいい。
他の魔法使いから魔力を貰うのも一つだが、愛する者との触れ合いでも魔力の素になる気力が充実する。
魔力の自然回復をもっと早めて、シリウスが自分の魔力だけで安定的に禁断魔法を維持できる方法を構築すれば、事態は好転していくだろう。
要は、お前と頻回に✕✕✕✕すればいい」
身も蓋もない言い草にナディアは絶句した。
「アーちゃん…… セクハラが酷いわ…… でもそこが素敵……」
そばにいるロゼが頬をポッと染めながら、発言を嗜めているのか褒めているのかわからないことを言っているが、動揺するナディアはロゼの反応に構っている場合ではなかった。
ナディアは考える。このまま何もしなければシリウスも自分も死ぬのだろう。時間がほしいなどと言っている場合ではない。
ナディアの胸には金髪の青年の影がちらついている。
けれど、彼を選ぶ道は最早潰えたのだ。
ゼウスを選べは自分たちは近いうちに死んでしまう。自分だけならまだしも、命懸けで自分を助けてくれたシリウスを道連れにはできない。
(シリウスのことは嫌いじゃない。大丈夫。できる)
「わかりました。今すぐシリウスと番になります」
ナディアの決断は早かった。
ナディアはシリウスをお姫様抱っこで抱え直して立ち上がると、「二階をお借りします」と言って颯爽とその部屋を去ろうとした。
が、そんなナディアの背中を見送ろうとしていたロゼが、何か重大なことを思い出したように、「あ」と声を上げた。
「駄目だわ…… シーちゃん、病気だから……」
(え? 性病?)
ナディアはロゼの言葉に一瞬疑いを持ってしまったが、意識のないシリウスの身体からは他の女性と致した匂いは一切感じられないので、そんなわけはない。
「何の病気なんですか?」
くるりとロゼに向き直ったナディアはズバリと問いかけるが、ロゼはしまったというような表情になっていて、恥ずかしそうしている。
「勃起障害だ」
答え辛そうなロゼに代わり、アークが羞恥心ゼロで宣言するようにそう言った。
「本来ならば交合するのが一番いいが、なくても一定の効果はある。不能の原因はお前に他の男がいたからだ。触れ合っているうちに自然と治るだろう」
アークの「他の男」発言で、ナディアがゼウスのことを思い出してやや動揺していると、部屋にまた新たな人影が増えた。
「シー!」
瞬間移動で現れ、シリウスの愛称を叫びながらこちらに近付いてきたのは、父シドを屠った直後に昏倒していたはずの、シリウスの兄ジュリアスだった。




