40 生きていく支えになるもの
*連動中(実質的前話)*
「獣人姫は逃げまくる…」の「111 命の危機」
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ノエル視点
ノエルはアークの所業に気付いた時のように、結界が脆くなる失態を犯さないようにと、盾の魔法の維持に意識を集中させていた。
ヴィクトリアの魔法攻撃がすごすぎて、それを防ぐために既にノエルは大量の魔力を消費していた。
魔力の不足を懸念したノエルは、マグノリアとロータスの二人に掛けていた禁呪――『行動制限の魔法』――を解いた。
禁断魔法は通常の魔法とは違い、術者が気絶しても無効化することはない。
魔力切れを起こした場合は、術者の寿命を削ってでも禁断魔法のために常に一定の魔力を消費し続けるわけだが、それがなくなるだけでも魔力の足しになる。
この攻防はいつまで続くのか、終わった時には自分たちは死んでいるのではないかと、ノエルは頭の中で死を覚悟し始めていた。
レインが来てくれて、ノエルたちへの攻撃をやめるようにヴィクトリアを説得していたが、彼女はレインを受け入れなかった。
マグノリアたちがいなくなり、シドとナディアが死んで―――― 今や処刑場において、ヴィクトリアの味方とも呼べる存在は、レインだけではないかとノエルは思っていた。
その唯一の存在の呼びかけを聞き入れないのならば、強い思念で攻撃を続けているヴィクトリアを、穏便に止める方法はもうない。
先程から父がヴィクトリアに攻撃魔法を仕掛け始めていた。
あくまでもヴィクトリアの攻撃をやめさせるためならいいのだが、もしかすると父は、ヴィクトリアを殺すつもりなのかもしれないと思った――――
「ノエル、もういいよ」
ノエルの背後で泣きながらもずっと沈黙を続けていたゼウスが、口を開いた。
「このままだとノエルまで俺の巻き添えで死んでしまう。彼女が殺したいのは俺のはずだから、俺が死ねば彼女の怒りも鎮まるだろう。ノエルは逃げてくれ」
ヴィクトリアは、「ナディアを殺したことを許さない」と何度も口にしている。
ゼウスの言葉を受けたノエルは、ナディアを失ったゼウスが死にたがっていることを察知した。
「駄目です! 生きてください! ここであなたを見殺しにしてしまったら! 私はアテナに合わせる顔がありません! ご両親やお義兄さんを失った時の悲しみを、またアテナに味合わせるつもりですか!」
「姉さんにはそれが俺の望みだったと伝えてくれないか…… 俺はもう…………」
「死んで全てが解決するなんて! 私はそんな幕引きは絶対に認めません!」
アークが一家心中を図ったように、この世からいなくなることが物事を万事解決する方法だなんて、そんなのは間違いだ。
ノエルは魔法に意識を集中させながらも、語りかけはやめない。
「絶望に心が支配されても、足掻いて足掻いて、抗って、生きてください!
ナディアを失っても、きっとこれから先、生きていく支えになるものはあるはずです!
それは必ずしも、愛する人でなくてもいいと思います! きっと何かあるはずです!」
「でもノエル、俺は………… ナディアを殺してしまったんだぞ…………」
「それはあなたのせいではありません!」
ノエルは叫んだ直後に、アークの策略だと言おうとしたが―――― 突然口が動かなくなった。
ノエルは首を巡らしてこの沈黙の魔法をかけた相手を再び睨みつけたかったが、もうそんな余裕もなくなってきていた。
(俺は死ねない! アテナと子供と生きるんだ!)
魔力の枯渇が近付く中で、ノエルは現状に必死に抗った。
(ゼウスと一緒に必ず生き残ってみせる!)
決意を新たにしたところで、ノエルは自身の魔力が急に増えたことを感じた。
↓連動中(実質的次話)↓
「獣人姫は逃げまくる…」の「112 俺がやります」
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