話し合い――真相
第一部ゼウス編の「60 話し合い 1」と「61 話し合い 2」の真相です
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「俺たちの『秘密』に関することは発言に気をつけて。君がそのことを口にした途端君は即死する。紙に書いて筆談しようとするのも駄目だ。文字に起こした途端に同じことになるからね」
口を開きかけた所でジュリアスにすかさずそう忠告され、ナディアは瞬時に背筋が凍ったのと同時に目を見開いて固まった。聞きたいことは『秘密』にもちょっと関係している。
(危うく死ぬ所だった…… なんて恐ろしい話し合いなんだ……)
「俺が人間を番にしたことについて、後悔はないのか、これから先どうするつもりなのか、聞きたいんだろう?」
ナディアは黙って頷いた。『秘密』――――即ち、ジュリアスを始めとしたブラッドレイ家が獣人一家であることを口をするのは駄目だが、番についての質問に頷く程度は大丈夫なようだ。
オリオンからは「自分からブラッドレイ家の者に獣人がいることを暴露するような発信をしない限りは大丈夫」とは言われているものの、「故郷の里に足を踏み入れない事」という一つ目の呪いとは違い、線引きはどこか曖昧のようにも思える。
どこら辺が地雷なのかわかりにくい部分もあるし、ブラッドレイ家に関する獣人だの番だのといった会話は全部慎重にいこう、とナディアは思った。
(とりあえず、危なそうだと思ったら全部黙っておくしかない)
「フィー…… フィオナっていうんだけどね、俺の番は。彼女は俺にとっての全てだから、後悔なんて気持ちは微塵も無いよ。もちろん番になる前は葛藤もしたけれど、今となっては遠い昔の出来事のようであまり気にはならない。フィーのいない人生を選ぶ選択肢は俺の中から完全に消えている」
それは覚悟を決めた者だから言えるのだろう。
「その人は、知っているの?」
ジュリアスは少しだけ悲しそうな顔になって首を振った。
(知らないで付き合っている……)
状況はナディアと同じだ。
「彼女は獣人を酷く憎んでいる。敵を討つために性別を偽って銃騎士になるほどに。あるはずだった貴族令嬢としての人生も投げうってまで。もしかしたら本当のことを言っても受け入れてくれるんじゃないかって思える瞬間もあるけれど、万が一彼女を失うかもしれないと考えたら、とてもじゃないけど本当は俺が獣人だなんて言えない。
俺は一生騙し続けることに決めたから、このまま彼女と結婚するよ。子供もいらない。彼女がいればいい。魔法の力で一生隠し通す」
ナディアはジュリアスの悲壮な思いと決意を我が事のように感じ、何も言えなくなっていた。
一通り聞きたかったジュリアスの考えを聞いた所で、ウェイトレスが料理を運んできた――――
「君だってわかっているんだろう? 人間のエヴァンズよりも、同じ獣人同士、シリウスの方が上手くいくって」
「……でもあなたは、人間を、その………… 相手にしている……」
『あなたは人間を番にしている』という発言は危ないような気がして、咄嗟に別の言葉に言い変える。
「俺たちのことと君のことでは状況が違う。俺は持てる力の全てを使ってフィーを守るよ。彼女から自分の子供を持つことは奪ってしまうけど、『悪魔の花嫁』として断頭台に送らせるなんてことは絶対にさせない。獣人と番った負い目だって彼女には一生感じさせない。
だけど君は? もしエヴァンズが『悪魔の花婿』だと世間に知られてしまった時に、彼を守りきれるのか?」
「…………このままじゃ駄目なのはわかってる。お互いのためには別れた方がいいんじゃないかってことも、本当はわかってる…… だけど、そんなこと、すぐには決断できない…………」
ナディアが絞り出すようにそう言うと、ジュリアスは冷静なままでさらに言葉を紡いだ。それは、オリオンに関することだった。
「シリウスは、君への『番の呪い』にかかっている」




