10 ゼウスの選択 2
ゼウスが「9 ゼウスの選択 1」で「A2.番にならない」を選択した場合の本編の続きです
R15
ゼウスの顔は上気していたがその反面表情の強張りも強かった。
「……」
彼は無言だったが、意図はわかった。
こちらを見つめるゼウスの瞳の奥にはまだ迷いが見えたが、ナディアは迷わず――――
――――――――――
ナディアは呻いた。
こんな時、ゼウスはいつもだったら「大丈夫?」と優しく声をかけて綺麗な指でナディアの涙を拭ってくれるはずなのに、彼はそれをしない。ゼウスは尚も無言のままナディアと距離を取った。
「ゼウス……」
薬の効果が一時的に薄れたのだろうが、ゼウスはナディアの呼びかけには一切反応せず、こちらには背を向けている。
「ゼウス、もっとあなたが欲しいの…… こっちへ来て……」
抱いてほしくてナディアは懇願する。ナディアはこれまでの人生で出したことがないくらいの一番の猫撫で声で誘ったが、ゼウスはナディアを見ない。
不自然なほどにこちらには視線を寄越さないまま、ゼウスは床に置きっぱなしになっていた拘束具入りのトランクを開けた。
ゼウスは中から対獣人用と思しき頑丈な長い鎖を取り出していた。
(今ならば天井逆さ吊りだろうと、どんな要望にも対応します!)
覚悟を決めるナディアをよそに、ゼウスはその鎖を使って――――自分の身体を檻の鉄柵に巻き付けて固定してしまった。
「ゼウス……」
ゼウスの求める完成形を目の当たりにした時、ナディアは絶望に染まりながら彼の名を呟いていた。
両腕だけは自由だが、座り込むゼウスの胴体から膝上あたりまでにかけて、鉄柵を巻き込むような形で鎖が幾重にも巻き付けられていた。
ゼウスは仕上げとばかりに、鎖と一緒に取り出していた枷を使って鎖の両端を繋ぎ、持っていた鍵一式を檻の向こうの廊下に向かって放り投げていた。
外部からの助けが来ない限り、ゼウスがこの拘束から自由になることは不可能だろう。
まして、この状態でナディアと交わるなんてことも不可能だ。
レインが打ち込んだ媚薬はかなり強力なものだ。ゼウスもそれは嫌というくらいにわかっているようだった。ゼウスは少しばかり落ち着いたこの隙を突いて、こんな行動に出てきた。
ゼウスは再び何も言わなくなってしまったが、ナディアとの性交を絶対的に拒否しようとして動いたこの行動こそが、彼の答えのようだった。




